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バイデン氏は財務長官に経済・市場重視のイエレン氏を指名か

2020/11/25

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バイデン次期大統領が政府のリソースにアクセス可能に

米一般調達局(GSA)エミリー・マーフィー長官は23日に、民主党のジョー・バイデン次期大統領に対して、政権移行に向けたリソースを提供する方針を明らかにした。民主・共和両党の議員らは、GSAに対して早期にそうした方針を示すよう圧力をかけていた。

今回のGSAの判断を受けて、バイデン次期大統領とそのチームは、政府機関の当局者からブリーフィングを受けること、約600万ドルの資金を得ること、政府のリソースにアクセスすること、等が可能となる。これによって、政権移行のプロセスを本格化することができる。

GSAの判断は、トランプ大統領の指示によるものだ。これは、大統領選挙後で初めて、バイデン氏の勝利を認めるトラン大統領の行動と言えるだろう。ただしトラプ大統領は、大統領選の開票結果については引き続き法廷闘争を続ける考えを示している。

外交関連人事では国際協調・同盟重視路線と多様性を重視

他方、バイデン次期大統領は、人事面でも新政権への移行の準備を進めている。24日には、国務長官を含む外交分野での主要人事を発表した。国務長官にはアントニー・ブリンケン元国務副長官が指名された。長年バイデン氏の外交顧問を務めてきた人物である。国務長官のポストで有力視されていたオバマ前大統領の国家安全保障担当補佐官スーザン・ライス女史と比べると、より穏健な立場である。トランプ政権の下で悪化した同盟国との関係を修復するのには適任と言えるだろう。ブリンケン氏は、国務省の組織改革を行い、米国の国際協調路線を同盟国にアピールするとされる。

また、国家安全保障担当大統領補佐官には、ヒラリー・クリントンの最側近の一人だったジェイク・サリバン元副大統領補佐官、新たに創設される気候問題担当大統領特使のポストには、ジョン・ケリー元国務長官が起用される。気候問題担当に大物の元国務長官を充てることで、バイデン政権がこの分野の政策を積極姿勢へと大きく転換することを、世界にアピールすることになる。

さらに国土安全保障長官にはヒスパニック系初のアレハンドロ・マヨルカス元国土安全保障副長官、国連大使には黒人女性のリンダ・トーマス・グリーンフィールド元国務次官補(アフリカ担当)、国家情報長官には女性初のアブリル・ヘインズ元CIA副長官を充てる。

こうした外交面での布陣は3つの側面を持つ。第1に、米国第一主義を掲げてきたトランプ政権の外交から、国際協調・同盟重視路線への転換を進める方針を明確に示している。第2に、オバマ前政権で外交分野の要職を務めた元高官を多く登用することで、実務経験を重視した布陣となっている。第3に、人種や性別など多様性を強く意識した布陣でもある。閣僚人事についてバイデン次期大統領は、「米国史上最も多様性に富んだ閣僚人事」にすると説明してきた。

未だ発表されていないが、国防長官として指名が最有力視されている人物は、ミシェル・フローノイ女史である。クリントン政権とオバマ政権で国防総省高官を務め、今回の大統領選ではバイデン陣営の国防問題アドバイザーを務めた。就任すれば女性初の国防長官となる。

財務長官にはイエレン前FRB議長を指名か

他方、国務長官、国防長官と並んで重要な閣僚ポストである財務長官にも、女性が充てられる可能性が高そうだ。複数の米国メディアは、ジャネット・イエレン前連邦準備制度理事会(FRB)議長が有力と報じている。経済閣僚の人事は、来週発表される予定だ。

新型コロナ対策、財政・税制改革、銀行改革など、バイデン新政権の主要な経済政策を一手に担うのが、この財務長官の職である。イエレン氏は2014年から4年間、FRBの議長職を務めた。その間、労働市場の改善と低賃金・低インフレの両立といった現象、経済の長期低迷といった問題への対応を担い、その政策手腕の評価を固めた。

さらに、イエレン氏は、労働経済学の権威であり、労働市場への関心が高いことが、民主党内で支持されやすい点である。他方で、産業重視の姿勢は共和党からの支持も得やすいだろう。また、金融市場の安定に配慮した姿勢は、ウォール街からの強い支持も得ている。

銀行改革では、民主党は銀行事業と証券事業を分離する現代版「グラス・スティーガル法」を公約しているが、これについて、イエレン氏が支持しているかどうかは不明である。ただし、上院で両党がほぼ拮抗する下では、こうした大規模な金融規制の強化の実施は難しく、それを踏まえてバイデン政権は、格差是正に的を絞った銀行制度改革に乗り出す可能性も指摘されている。

イエレン財務長官となれば景気重視の政策姿勢か

イエレン氏はその任期中に、金融緩和策の限界を意識して、財政政策の重要性を訴えてきた。この点から、イエレン氏が財務長官になれば、景気重視の財政運営がなされるとの期待が高まりやすいだろう。このような景気重視、市場重視の姿勢から、イエレン氏の財務長官指名は、金融市場で好感され、株価上昇要因となるだろう。

一方、大物のイエレン氏を財務長官に充てることで、ねじれの状態にある議会への対策に期待する側面もバイデン次期大統領にはあるだろう。しかし、イエレン氏はFRB議長職にある時から、議員らとのコミュニケーションに問題がある、との指摘がなされていた。この点から、議会対策などの政治的な手腕についてはなお未知数と言えるのではないか。

他方、仮にイエレン氏が財務長官に指名されない場合、第2の有力候補はやはり女性のブレイナードFRB理事である。その場合でも、景気・市場重視の姿勢は変わらないだろう。また、イエレン氏が財務長官に指名された場合には、ブレイナード氏が2022年2月に議長としての任期を終えるパウエル議長の後任に指名されるとの観測も出てくるだろう。仮にそうなる場合には、パウエル議長よりも金融緩和志向がやや強まるとの見方が、金融市場に浮上するだろう。

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