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低所得国債務問題と米政権交代後のG20サミット

2020/11/26

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G20サミットはワクチンの公平利用を確認

G20(主要20か国・地域)は、21・22日にテレビ会議形式で首脳会議(サミット)を開いた。

新型コロナウイルス問題で世界経済が大幅に悪化している現状を踏まえ宣言では、「感染防止策をとりつつ、経済回復や人の往来再開のためにあらゆる努力を傾注する必要がある」と、感染対策と経済活動再開を両立させる方針が強調された。さらに、「人類がウイルスに打ち勝った証し」として、2021年の東京オリンピック・パラリンピックについて「安全・安心な」大会を開催する決意が表明された。

今回のサミットで大きな議題の一つとなったのは、有効なワクチンが開発された場合、それが一部の国で優先的に購入・利用され、新興国、特に低所得国に広まらないことへの警戒であった。この点を踏まえて宣言の冒頭では、「すべての人々が診断・治療・ワクチンを安価かつ公平に利用できる環境を確保するためのいかなる努力も惜しまない」と明記されている。

低所得国で感染拡大が続く限り、仮に先進国あるいは主要新興国で感染抑制に成功しても、低所得国から再び感染拡大がそれらの国々に広がるリスクが残る。

難航する低所得国債務問題への対応

また、同様の理由で、低所得国での医療体制の整備・強化に協力することも、G20には求められる。そこで、低所得国が医療体制の整備・強化に十分な財政資金を利用できるようにするという観点からも、低所得国の政府債務問題への対応、デフォルト(債務不履行)回避がG20の喫緊の課題となっている。

G20サミットに先立つ、G20財務相・中央銀行総裁会議では、低所得国に対して2020年末までとしていた公的債務返済猶予期間を、2021年半ばまで延長することを決定している。これはG20で追認された。さらにG20では、債務の一部免除を含む追加支援策も議論されている。

しかし、低所得国債務問題への対応はうまく進んでいない。そこには、中国の存在がある。以前の低所得国債務問題は、先進国中心で完結していた。それを担ったのがパリクラブである。ところが近年では、中国が低所得国向け融資を拡大させたことから、中国を含めなければ低所得国債務問題に対応できなくなっているG20で低所得国債務問題への対応が議論されているのはそのためだ。

中国の低所得国向け融資は国家戦略の一環

しかし、中国による低所得国向け融資は、まさに官民一体であり、また、友好国を広げるなどの国家戦略の一環で行われている面が強く、人道的支援の色彩も強い先進国の低所得国向け融資とは異質なものである。

そのため、中国は融資の実態を開示することにも慎重である。さらに、債務返済猶予や債務免除なども、先進国と同じルールで実施するのでなく、相手国次第で条件を変えて、相手国に最大限恩を売る形でそれぞれ実施したい、というのが中国の考えなのではないか。

中国が債権国としての存在感を大きく高めたことで、低所得国債務問題への対応は、過去と比べてもかなり難しくなっただろう。これは、世界経済や金融市場にとっても大きなリスクの一つである。

ところで、今回のG20サミットには米国トランプ大統領も出席した。ホワイトハウスによると「今後の経済成長と繁栄のためG20の連携の重要性を再確認した」という。ただし、トランプ大統領は21日の会議を途中退席し、ゴルフ場に向かったという。

高まるG20の重要性

トランプ政権の下での「米国第一主義」を掲げるトランプ政権に代わって、「国際協調路線」への回帰を掲げるバイデン政権が成立すれば、先進国から成るG7の結束は強まることになろう。ただし、それは先進国と中国、あるいは中国を中核とする新興国との間での対立をより激化させることにもつながるのではないか。新型コロナウイルスの抑制や経済回復を受けて、中国型システムの優位性を評価する国が新興国内で増え、新興国内で中国が求心力を高めている可能性が考えられる。

リーマン・ショック後の世界経済の悪化への対応を狙って、G20サミットは2008年に始められた。しかしその後は、形骸化が進んでいったと言わざるを得ない。ところが、新型コロナウイルス問題や中国のプレゼンスの高まりを受けて、G20サミットは、先進国と新興国との間の利害の調整の場として、再び重要性が高まっている。

G20サミットが両者の利害対立を際立たせる場となってしまう可能性はあるが、両者が真摯に議論することで、利害の調整や既存のルールの修正などが進み、それを通じて世界の政治・経済情勢に安定をもたらされるきっかけとなる可能性もまたあるだろう。バイデン政権の下では、そうした期待も一定程度持てるのではないか。こうした点から、G20サミットは、かつてなくその重要性を増しているとも言えるだろう。

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