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規模ありきの3次補正予算は本当に必要なのか

2020/12/02

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第3次補正予算は規模ありきの感

政府は、追加経済対策を来週にもまとめる方向だ。野党は12月5日に会期末を迎える臨時国会の会期延長を求めているが、政府・野党はそれに応じず、追加経済対策を盛り込んだ第3次補正予算案の編成作業を急ぎ、その後、閣議決定する。

来年の通常国会召集の日程は、当初検討されていた1月8日の可能性が低下し、1月12日あるいは1月18日が有力視されている。1月12日召集の場合には、第3次補正予算が先行して提出、審議される一方、1月18日召集の場合には、2020年度第3次補正予算と2021年度本予算が同時に提出され、審議される可能性が考えられている。

11月30日に自民党の下村政調会長は、経済対策の提言を菅首相に手渡した。これは、政府が策定する追加経済対策、第3次補正予算案のベースとなる。下村政調会長は、需給ギャップが7~9月期に年換算でマイナス34兆円あることを挙げ、「それを埋めるような近い額で大型補正を組んでほしい」と首相に伝えた。第3次補正予算案は、「規模ありき」の策定方針となっている。

需給ギャップの規模を参考にするのはおかしい

そもそも、需給ギャップの規模で経済対策の規模を決めるというのは、かなり無謀なことだろう。第1に、需給ギャップの試算値は、決して正確なものではない。需給ギャップを解消すれば、失業が解消され、国民生活が安定を取り戻すという保証も全くない。第2に、第3次補正予算が執行されるのは、来年1~3月期以降となるが、その時期には需給ギャップの水準も変わっている。第3に、第3次補正予算によって押し上げられるGDPは、需給ギャップの規模よりも大分小さい。公共投資的な支出であれば、GDPを同額近く押し上げる可能性はあるが、実際の歳出にはそれ以外の支出が多く含まれ、それらがGDPを押し上げる効果は小さい。第4に、今の局面で必要な支出は、感染対策とコロナショックで大きな打撃を受けた企業と雇用を支えることであり、景気浮揚を通じて需給ギャップの縮小を目指すことではないだろう。

以上の各点から、7~9月期の需給ギャップの試算値を、第3次補正予算案の規模の根拠とするのは適切ではないだろう。自民党内では当初から、第3次補正予算は、第1次・第2次補正に匹敵する、あるいはそれを上回る規模にすべき、との意見が強まっていた。7~9月期の需給ギャップの規模は、それを後付けで正当化するために、用いられたのだろう。

今年度の国債新規発行額は100兆円超と空前の規模に

政府は、20兆円規模の第3次補正予算を検討している、との報道がある。需給ギャップの金額よりは小さいが、それでも相当規模である。その場合、7兆円分が予備費で賄われるとすれば、新規の国債発行は13兆円程度となる。

2020年度には、既に第2次補正予算までで90兆円強の国債の新規発行が決まっている。これに第3次補正予算分を加えると、100兆円超と空前の規模に達する。それを、60年かけて国民が返済しなければならないのである。

将来の世代に負担を転嫁し続ければ、その分、将来の需要見通しが悪化し、企業は投資、雇用、賃金を抑制するため、経済の潜在力はさらに低下してしまうだろう。

コロナ禍で、必要な財政支出は実施すべきだが、それを安易に将来世代に転嫁するのではなく、財源確保の議論を同時に進めるべきだ。

基金を多用するのは問題

自民党の提言は「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を基本戦略と位置づけ、1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策、2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現、3)防災減災・国土強靱化の推進などの安全・安心の確保、の3本柱を最重点事項としている。

第1の、新型コロナの感染防止策では、病床や宿泊療養施設確保のための「緊急包括支援交付金」増額や、PCR検査態勢の充実、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた感染症対策などを求めている。また旅行業界支援のGoToトラベル事業については、感染防止策を講じた上での継続・延長を提唱している。中小企業支援策として、劣後ローンの供給継続や、民間金融機関による実質無利子融資制度の延長を求めている。さらに、雇用調整助成金の特例措置など年末以降に期限を迎える既存の新型コロナ対策を延長し、不妊治療の助成も拡大すべきだとしている。

第2のポストコロナ対策としては、2050年の温室効果ガスゼロを実現するため、環境対応技術の開発を支援する基金の設立を求める。次世代太陽電池の開発や洋上風力などの主力電源化、原子力の活用、水素発電などを支援する。次世代通信規格「ポスト5G」の研究開発を促進する基金の創設も要求している。

第3の防災減災・国土強靱化では、「国家百年の大計として、オールジャパンで災害に屈しない国土づくりを計画的に進める」と明記し、2021年度から5か年の計画を閣議決定して「別枠で大幅な当初予算規模の拡充を図る」とした。

この提言では、具体的な支出項目を明示しない基金を多用している点が問題ではないか。基金の設立は、予算時期に縛られずに機動的で柔軟な支出を可能とするというプラス面がある一方、予算を計上しても実際には使われない、あるいは無駄な使われ方をされやすい、というマイナス面もある。仮に、予算規模を膨らませるために基金の設立を提案しているのであれば、それは問題だ。

第3次補正予算編成は必要なのか

以上の提言のうち、追加経済対策、第3次補正予算として必要な、緊急性のある支出は、第1の新型コロナウイルス対策だけではないか。ただしその中で、GoToトラベル事業の延長について筆者は反対である。個人の感染リスク軽減に向けた行動を歪め、感染リスクを相応に高めるGoToトラベル事業は、現在の感染状況を踏まえれば、延長ではなく停止すべきではないか。旅行関連業者の支援は、給付金の増額で対応すべきだろう。

それ以外の緊急性のない第2、第3の項目は、内容を十分に精査した上で、2021年度予算での計上を検討すべきだろう。第3次補正予算は、「15か月予算」で、2021年度本予算と一体とされるが、2021年1-3月期に可決されて執行が始まるのであれば、4月からの2021年度予算と別に予算化する意味はもはや乏しいのではないか。緊急性のない支出は、2021年度予算で計上するのが自然だろう。

それを敢えてしないのは、補正予算と比べて本予算はチェックが厳しいことがあるのではないか。本予算ではできるだけ予算規模、財政赤字規模を抑制し、数字を良く見せる一方、補正予算で膨らませる、というのはいわば常とう手段である。

他方で、第1の新型コロナウイルス対策だけであれば、7兆円規模の予備費で対応可能な範囲だろう。それであれば、第3次補正予算の編成自体が必要でなくなる。

新内閣の発足を受けて、追加経済対策、第3次補正予算の編成を通じて新しい政策をアピールする狙いがあるのかもしれないが、貴重な財政資金は有効に使うことが必要であり、特にコロナ禍で財政環境が急速に悪化しているもとではなおさらだ。

規模ありきで第3次補正予算の数字を積み増す前に、そもそも第3次補正予算の編成が必要であるのかを、問い直して欲しいところだ。

(参考資料)
「自民党:「GoTo」延長など要望 自民、3次補正予算案提言」、毎日新聞、2020年12月1日
「自民・経済対策提言、ポストコロナ研究で基金10兆円やGoToトラベル延長」、ロイター通信ニュース、2020年11月30日
「経済対策決定、首相「来週初めにも」」、日本経済新聞、2020年12月1日
「下村氏「大型補正を」」、朝日新聞、2020年12月1日

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