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選挙後も難航が続く米国の経済対策審議

2020/12/03

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超党派グループによる追加経済対策案

米大統領選挙から1か月程度が経過して初めて、追加経済対策を巡って議会に動きが出てきた。米議会の超党派グループは12月1日に、9,080億ドルの経済対策の法案を議会に提出した。

以前より、民主党は2兆4,000億ドル規模の経済対策、共和党は5,000億ドル規模の経済対策をそれぞれ主張してきた。今回の法案は、その中間の規模に相当し、両党共に受け入れられることを目指しているものだ。

中小企業を支援する追加給与保護プログラム(PPP)を含む追加の緊急支援を、来年3月末まで実施することや、州や地方自治体への直接支援が盛り込まれているという。また、失業給付の上乗せ措置も含まれており、4か月間にわたって週300ドル増額される。民主党は週600ドルの上乗せを要求していた。ただし、この超党派による法案が議会で可決される可能性は小さい。

他方、同法案の提出の直後に、民主党のペロシ下院議長と共和党のマコネル上院院内総務も、それぞれ新たな経済対策案を示している。具体的な内容は明らかにされていないが、両案の規模には依然として大きな開きがあるようだ。マコネル氏の案には、給与保護プログラム(PPP)などの企業支援3,300億ドル、学校やワクチン、農業向け資金やビジネス会食の税控除復活も含まれているという。

追加経済対策を巡る議会審議は大統領選挙の延長戦か

追加経済対策を巡る議会審議は、何か月にもわたって膠着を続けてきた。両党間での合意の妨げとなっていたのは、11月の大統領・議会選挙だった。安易な譲歩が選挙結果に悪影響を与えることを双方ともに警戒したのである。

選挙が終わったことで、両党間はより合意しやすくなったようにも見えるが、実際はなお楽観を許さない状況だろう。経済対策を巡る両党の審議は、あたかも大統領選挙の延長線のような性格を強める可能性があるからだ。

現時点では、トランプ大統領は共和党が主張する5,000億ドル規模の経済対策を支持している。他方で、バイデン次期大統領は、2兆4,000億ドル規模の民主党の経済対策案を強く支持している。経済対策を巡る議会審議は、あたかもトランプ大統領とバイデン次期大統領との代理戦争であるかのようだ。

トランプ大統領には拒否権

トランプ大統領は、選挙前には経済対策の規模などで民主党に多少譲歩する姿勢を見せていたが、選挙後は態度をより硬化させる可能性があるだろう。大統領選挙での敗北を認めず、民主党による選挙の不正を主張するトランプ大統領は、経済対策でもより反民主党色を強める可能性がある。そうした姿勢を、2024年の次回大統領選挙まで続けて、再出馬へとつなげる戦略もあるのかもしれない。

共和党議員の間では、経済対策が失効することで生じる「財政の崖」が経済に与える悪影響にも配慮して、民主党に譲歩することで早期に経済対策を可決するとの意見はあるだろう。

しかし、仮に共和党議会が譲歩する形で経済対策を議会で可決しても、トランプ大統領はそれに拒否権を発動できるのである。従って、経済対策を成立させるためには、共和党はトランプ大統領に受け入れられるものとしなければならず、その結果、民主党に対して安易に譲歩はできない構図となっているのである。

米国民主主義の弱点を露呈

仮に、経済対策が早期に議会で可決されることがあるとすれば、それは民主党側が譲歩する場合ではないか。バイデン次期大統領は、来年に新政権が発足すれば、直後にインフラ投資の拡大などの経済対策を実施する考えを示している。年内には、共和党に譲歩して、共和党も受け入れる比較的小規模での追加経済対策を受け入れて可決させ、「財政の崖」の悪影響をできる限り小さく抑える一方、民主党が望む政策は、年明け後にバイデン政権の下で改めて実現すれば良い、との考え方もあるだろう。そうした民主党内で意見が高まれば、経済対策が早期に議会で可決されるかもしれない。

しかし、今回の議会選挙では、民主党は下院で議席を減らし、また上院では過半数の議席を得ることに失敗している。民主党主導の政策が簡単に議会で可決される状況ではない。こうした点を踏まえると、バイデン政権が思った通りに経済対策を実現できる余地は限られるだろう。そのため、新政権発足前の追加経済対策で、共和党に大きく譲歩することはできないのではないか。

大統領選挙は、選挙の不正を理由にトランプ大統領が敗北を認めず、政権移行が円滑に進まない事態が続いている。一種の政治空白である。また、選挙を挟んで、新型コロナ問題に対応する追加経済対策を巡る議会審議は空転を続けている。これらは、米国民主主義の弱点を露呈するものだ。そしてそれは、米国民の生活と世界経済に大きな犠牲を強いているのである。

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