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大詰めを迎える高齢者医療費自己負担増加の協議

2020/12/04

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現役世代の負担増加をできるだけ抑える措置が必要に

75歳以上の後期高齢者の医療費負担についての協議が、いよいよ大詰めを迎えている。最大の争点は、高齢者の負担を1割から2割に上げる際の所得を、どの水準以上とするかである(コラム「後期高齢者の医療費自己負担増で世論はニ分」、2020年12月1日)。政府は、12月4日夜に開かれる全世代型社会保障検討会議での最終決着を目指している。実際の決着は、民間有識者を交えた全世代型社会保障検討会議の場ではなく、与党内での協議で図られる。まさに政治決着である。

2割負担とする所得の水準について、厚生労働省が被保険者の年収240万円以上から155万円以上まで5つの案を提示している(年金収入のみの単身世帯)。75歳以上に占める2割負担の対象者の比率は、年収240万円以上で13%、年収155万円以上で37%(現役並みの所得を得ている3割負担者を含めると44%)となる。

2022年度から団塊の世代が75歳の後期高齢者入りをすることで、自己負担分を除く医療費は大幅に増えることが予想される。後期高齢者医療保険制度の財源は、被保険者である後期高齢者が支払う保険料が1割、公費が5割、現役世代が負担する保険料「後期高齢者支援金」が4割である。

医療費が増大すれば、現役世代への負担が一段と高まることから、2022年度までには、後期高齢者の自己負担額を高め、現役世代の負担増加をできるだけ抑える措置を講じることが求められる。

年収155万円以上の2割負担が妥当か

ただし、新たに2割負担をどの所得水準以上の高齢者に求めるのが妥当であるのかについて、単純な解はない。このことが協議を難しくしている。

その際に参考になるのは、既に高齢者への2割負担を導入している介護保険制度である。ここでは、年金収入のみの単身世帯で160万円以上が2割負担となっている。厚生労働省が示した後期高齢者医療保険制度の5つの案で言えば、2割負担の範囲が最も大きくなる5番目の年収155万円以上と、4番目の170万円以上の間、となる。

ただし、後期高齢者保険では、被保険者である後期高齢者が支払う保険料が財源の1割であるのに対して、介護保険制度では、65歳以上の被保険者が支払う保険料が財源の23%を占めている。より現役世代への負担が小さい仕組みとなっているのである。

この点を考慮した場合、双方の制度のバランスをとるならば、厚生労働省が示した5つの案のうち5番目の年収155万円以上とするのが適当であるようにも思われる。

政府・自民党は公明党に譲歩しても2割負担増加実現を目指す

実際、麻生財務相を始め、政府は当初、年収155万円以上を2割負担とする考えであったのではないか。しかしこの考えは、連立与党の公明党の強い反対にあっている。

公明党は、2割負担の割合が最も小さい1番目の年収240万円以上とすることを主張している。政府・自民党は、4番目の年収170万円以上とする妥協案を提示したが、公明党はこれを拒否している模様だ。こうして、政府・自民党と公明党との4日午前の協議は、物別れに終わった。

政治色が強い玉虫色の決着となるか

公明党が2割負担の範囲をできるだけ抑えたいと考えるのは、向こう1年の間に実施される衆院選、2022年春の参院選への打撃を懸念するためである。自民党内でも、そうした意見は相応にあるだろう。そこで、2割負担の実施時期についても、2022年春の参院選後の2022年10月以降とするよう、公明党は求めているのである。

2割負担の導入を見送る方向ではなく、政府・自民党は公明党に譲歩しても2割負担の導入を実現させる意思を持っているように見受けられる。この点は評価したい。ただしその結果、政治色の強い、いわば玉虫色の決着となりそうだ。

今回の協議は、社会保障制度改革が政治的要因によって強く制約を受けることを、改めて印象づけるものとなっている。政治色を排して、純粋に社会厚生上の観点から改革の最適解が見いだされ、実現されるという理想の姿は、まだまだ見えてこない。

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