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英国とEUのぎりぎりの交渉が続く

2020/12/08

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英国の瀬戸際外交がEU側の不信感を強める

英国と欧州連合(EU)との間では、年末の期限切れを目前にして、新たな貿易協定などを巡るぎりぎりの交渉が続けられている。7日に行われた英国のジョンソン首相と、欧州委員会のフォンデアライエン委員長との電話会談でも妥結しなかった。妥結できるかどうかは、ほぼ五分五分の状況ではないか。

英国は今年1月31日にEUを離脱した。しかし年末までは移行期間とされ、その間は、英国はEU加盟国とほぼ同等の扱いを受けている。しかし、この移行期間内に新たな自由貿易協定(FTA)で合意できなければ、英国とEUとの間の貿易には、世界貿易機関(WTO)の規則に従って関税が発生する。また関税手続きが発生することで、物流にも大きな混乱が生じる。タイムズ紙によれば、交渉がまとまらなければ、来年の英国の成長率は2%程度低下するという。

英国とEUとの交渉は、しばらくコロナ問題に阻まれ、10月下旬からようやく本格的な交渉が始まったが、なお合意には至っていない。英国政府は、制度上認められた移行期間の延長を申請しなかった。これは、退路を断つことで相手国からの譲歩を引き出す「瀬戸際外交」の手法である。それが、英国に対するEU側の不信感を強めてしまった面がある。また、英国政府が、EUと締結した離脱協定の一部を白紙にする内容を盛り込んだ国内市場法案を議会に提出したことも、EU側の強い反発を買っている。

英近海での漁業権が最大の対立点

両国間で依然大きな意見の相違が残るのは、第1に、英近海での漁業権、第2に、公正な競争条件、第3に、合意が破られた際の対応、の3点である。そのうち、対立の中心となっているのが、第1の漁業権の問題だ。

現在は、英国海域の漁獲量のうち、60%が外国船によって水揚げされている。しかし英国は、ブレグジット後には英国の排他的経済水域内での漁獲量にある程度の規制を設けたい考えだ。一方、EU側はこの割り当て方法に難色を示し、漁船が長期間、安定的に操業できるように求めている。特にフランスは、漁師の生活が脅かされるとして、割り当てに猛反発している。EUは漁獲割り当ての一部を英国に渡す妥協案を示したが、英側は規模が不十分だとして拒否した模様だ。

第2の公正な競争条件とは、企業への補助金適用ルールなどだ。英国は、企業の競争条件に影響を与える補助金を制限するEUのルールに反発している。第3は、英国とEUの合意内容が破られた場合に、報復関税などをどう課すのかを巡る議論だ。

承認手続きを考慮すれば向こう数日が事実上の期限か

以上の3点を除けば、英国とEUとの間に大きな対立点は残されておらず、交渉は大詰めを迎えている、とも言える状況だ。それら以外については、合意文書は既に出来上がっているともされる。しかし、仮に合意にこぎ着けても、年内に双方の議会で批准する必要がある。それに間に合わせるためには、向こう数日以内での合意が必要となるだろう。

年初の英国のEU離脱から始まった英国とEUとの交渉については、コロナ問題や米大統領選挙といった大きなイベントを前に、金融市場の関心はやや低下した感はある。しかし、年末の期限切れが近づく中、再び金融市場の視野に入ってきた。仮に合意に失敗すれは、来年年初から英国経済は大きな混乱に見舞われ、その影響はEU地域にも及ぶ。金融市場にとっては、年末に不意に表れた伏兵のようである。

(参考資料)
"Trade talks poised on knife edge as Brexit brinkmanship persists", Financial Times, December 7, 2020
「英EU交渉、残る3課題 漁業権・企業補助金・合意破りへの対応 7日にトップ再会談方針 貿易協定」、朝日新聞、2020年12月7日
「コロナに感染でブレグジット交渉中断、あおりを受けてフィッシュ&チップスが食卓から消える?」、ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト、2020年11月26日

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