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ECBは市場の期待を上回る追加緩和を実施するか

2020/12/09

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PEPPとTLTRO3の拡大・延長は市場のコンセンサスに

12月10日の理事会で、欧州中央銀行(ECB)は追加の金融緩和策を実施する可能性が高い。ラガルド総裁は、今回の理事会で政策の見直しを行う考えを、事前に表明している。さらに見直しの対象として、コロナ禍で新設した国債などの資産購入の特別枠(PEPP)1兆3,500億ユーロと、ECBが銀行に超低利で資金を貸し出す制度(TLTRO3)の2つを挙げている。

金融市場では、PEPPの期限を現在の2021年6月末から2021年末まで延長し、それに合わせて総額を5千億ユーロ程度上積みする、との見方がコンセンサスになっているのではないか。さらに、TLTRO3も2021年末まで6か月延長するとの見通しが多い。ただし、実施されるのがこのような追加緩和措置であれば、市場は既にそれを織り込み済みである。

市場に意外感(サプライズ)をもたらす緩和措置となる場合には、以上の施策に加えて、通常の資産買い入れプログラム(APP)の拡大、PEPPの2022年半ばまでの延長、TLTRO3のマイナス1%の最低金利の引き下げ、などがその候補になるではないか。

ユーロ高への警戒を強める

感染第2波の影響によって、欧州経済は今秋に悪化傾向を再び強めた。ユーロ圏の10-12月期の実質GDPは前期比マイナスに転じた可能性が高く、景気の2番底懸念が現実のものとなりつつある。そうした中でも、ECBは追加緩和の実施を見合わせてきた。それは、金融緩和手段と効果の限界が意識される中、経済対策は財政政策に期待したい、とするECB内での意見の反映であったかもしれない。

しかし、新型コロナウイルス復興基金を巡っては、ハンガリーとポーランドが承認を拒否しており、設立が遅れている。さらに足もとではユーロ高傾向が強まっており、それが経済や物価に与える悪影響への懸念をECBは強めている。こうしたもとでは、今まで見合わせてきた追加緩和も、このタイミングでは実施せざるを得ないだろう。通貨高対策は、財政政策ではできないのである。

ワクチン接種はゲームチェンジャーとなるか

ところで、先行きの欧州経済にとって光明となるのが、ワクチン接種である。英国では既にワクチンの接種が始まった。欧州連合(EU)では、年内に新型コロナウイルスのワクチンが承認される見通しだ。ワクチン接種開始が、経済改善につながるとの期待も高まっている。しかし、市民の間ではワクチン不信が根強く、接種の広がりに時間がかかる可能性があるだろう。

世界経済フォーラムの調査によると、1年以内にワクチンを接種する考えを示したのはフランスで54%、スペインでは60%にとどまっている。多くの国では、接種を義務化しない方向の中、ワクチン接種が国民の間に浸透し、それが経済の正常化に結び付くまでにはなお時間が必要だ。ラガルドECB総裁も、ワクチンの承認が「ゲームチェンジャーとなるかは分からない」と語っており、それに過度に期待しない姿勢である。

ECBが打ち出す金融緩和措置が、市場の期待を上回るものではない場合には、市場には大きな影響を与えない。期待外れに終われば、ユーロ高に弾みがかかるきっかけを作ってしまう可能性もあるだろう。また、来週の米連邦準備制度理事会(FOMC)で市場の期待を上回る追加緩和措置が打ち出されれば、対ドルでのユーロ高は一段と進む可能性がある。

ECB内でユーロ高への警戒が強まれば、市場の期待を上回る追加緩和措置を講じるべき、との意見が理事会で力を増すことになるだろう。

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