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与党が税制改正大綱を決定:より幅広な議論を期待

2020/12/10

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菅政権カラーの強い税制改正案に

自民、公明両党は10日の与党政策責任者会議で、2021年度の与党税制改正大綱を決定した。企業、家計の税負担軽減措置という新型コロナウイルス対策と、菅政権の政策の目玉である脱炭素社会の実現やデジタルトランスフォーメーション(DX)という長期の政策目標の実現のための減税措置、という時間軸が大きく異なる政策を実現するための税制改正が組み合わされた形である。

こうした組み合わせは、8日に政府が閣議決定した追加経済対策(3次補正予算)と似通っている。規模で見ると、新型コロナウイルス対策よりも長期の政策の方に偏っている、と言う点も似ているのではないか。

新型コロナウイルス問題への対応としては、企業や家計の税負担を軽減するために、来年度の固定資産税については納税額が上がる予定の商業地、住宅地について増税を回避し、今年度と同額に据え置く。また、住宅ローン減税は控除を受けられる期間を10年間から13年間に延ばす特例措置を延長する。

政府目標である2050年のカーボンニュートラル実現に向けた地球温暖化対策については、設備投資を通じて脱炭素に貢献する取り組みを含む事業計画が認められた企業については、法人税から最大10%を差し引く。自動車重量税を減免するエコカー減税については、2年間延長する。

デジタル化推進策としては、クラウド技術の活用、サイバーセキュリティー強化など要件を満たす企業について、法人税の負担を軽くする。また、中小企業の再編による生産性向上につながる制度として、M&A費用の一部を、簿外債務といった事後的なリスクに対応するための準備金として計上し、税務上の損金に算入できるようにする。

このように、新型コロナウイルス対策以外の部分では、菅政権カラーが強い税制改革案となった。

補助金と税優遇だけでは政策目標は実現できない

地球温暖化対策、デジタル化は重要な政策課題である。その実現を助ける措置が今回の税制改正案に盛り込まれたことは、自然なことだろう。またそれらは、追加経済対策にも既に盛り込まれている。

ただし、新たな政策課題が浮上した際に、政府は補助金などの予算化と優遇税制のセットを打ち出すことが、いわば定番となってはいないか。他方で、その効果が十分に検証、検討されていない面はないだろうか。

国内での先行きの成長期待が低下傾向を辿る中、補助金や税優遇だけのインセンティブで、企業が地球温暖化対策やデジタル化関連の設備投資を積極的に拡大させるかどうかは不確実だ。

そうした施策が、日本経済の将来の成長力を高めるとの認識を強めることや、投資の拡大が企業価値の向上につながるとの確信がないと、企業は関連投資を大幅には拡大させないのではないか。この観点から、政府は補助金や税優遇だけの措置で満足するのではなく、民間企業と密に協調しながら、政策の立案を精緻に進めていくことが求められるだろう。また、規制改革も、企業の積極対応を促す重要な鍵の一つとなるのではないか。

今年の新型コロナウイルス対応でも、新たに予算化するだけでは、医療体制の強化がなかなか進まない、という現実に政府は直面したはずだ。規制改革、制度の運用の見直し、政府間の連携強化、民間ビジネスとの連携強化など、補助金や税優遇以外の施策がより重要であり有効だったのではないか。それは、地球温暖化対策やデジタル化についても同様だろう。

将来の財政健全化も並行して議論を

今回の税制改正は、平年度ベースで国と地方合わせて500億~600億円規模の減税となるという。2020年度の税収見積もりが8兆円程度下振れ、先般の経済対策で国費として30兆円の予算案が示され、今年度の新規国債発行額が史上初めて100兆円を超えるなかで、この税制改正では減税措置が計画されているのである。財政の健全化という方向性が、具体策でないとしても、議論としても全く出てきていないのは問題ではないか。

現在の経済状況の下では、来年度の増税実施は現実的でないことは確かである。しかし、将来の財政の財源確保、健全化の施策については、追加経済対策や減税策と並行してしっかりと議論し、それを国民に伝えることが、政府としては責任ある姿勢ではないか。

「まず成長を」との掛け声だけでは、財政の健全化はいつになっても実現されない。そうした中で、国債発行の拡大が歯止めなく続けば、将来世代の負担増加から中長期の成長期待は低下し、企業は投資を抑制する姿勢を強めかねない。そうなれば、今回のような優遇税制措置を講じても、地球温暖化対策、デジタル化の推進力は高まらないのではないか。

政府には補助金や税優遇だけに頼らない施策、そして将来の財政健全化も視野に入れたより幅広な議論を期待したい。

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