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GOTOトラベルの抜本的見直しが必要な局面に

2020/12/11

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4都道府県での1か月停止で消費押し上げ効果は624億円減少

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、政府はGOTOトラベル事業を一時停止する地域を、さらに拡大する見直し措置の検討に入った。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、感染が急増するステージ3相当の対策が必要な地域について、GOTOトラベル事業の一時停止を提言する。これを踏まえて、政府は具体的な措置を決めることになる。

分科会がステージ3相当とみるのは、既にGOTOトラベル事業の一時停止措置がとられている札幌市、大阪市を含む北海道や東京都、愛知県や大阪府の一部地域である。

そこで、北海道、東京都、愛知県、大阪府の4都道府県でGOTOトラベル事業の一時停止された場合の経済効果を試算してみよう。GOTOトラベル事業は、国内旅行需要を1年間で8.7兆円増加させると試算される(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。

しかし、実際には消費者の感染リスクへの警戒などから、それほどの消費押し上げ効果は生じていない。7月から10月までのGOTOトラベルを利用実績から推定すると、消費押し上げ効果は月間1,809億円、年換算で2兆1,708億円と推定される(コラム「GOTOトラベル見直しの是非とその経済効果」、2020年11月24日)。

北海道、東京都、愛知県、大阪府の4都道府県でGOTOトラベル事業が、発着共に一か月停止された場合、その地域の所得総額が全国の34.5%に相当することから試算すると、GOTOトラベルの消費押し上げ効果は1か月で624億円減少する計算だ。年率換算でGDPの0.14%と、相応の経済への打撃が生じる。

GOTOトラベル事業は全国的に一時停止が妥当か

しかし現在、感染リスクが全国的な広がりを見せる中、GOTOトラベル事業は全国的に一時停止する方が良いのではないか、と筆者は考える。GOTOトラベル事業には、感染リスクを高めてしまうこと、比較的規模の大きい観光業者にその恩恵が偏ること、といった問題がある。

感染リスクに十分に配慮しながら、個人が旅行を楽しむこと自体には問題ないと思うが、GOTOトラベル事業は国費による補助金でそうした旅行を積極的に後押しするもので、個人の合理的な判断を歪め、感染リスクを過度に高めてしまっている面がないだろうか。

旅行関連業者の支援は確かに必要であるが、中小事業者も含めてしっかりと支援するのであれば、追加の給付金の方が妥当ではないか。

当初の計画通りに、感染リスクが低下した後であれば、GOTOトラベル事業の問題点はかなり減少するだろう。ただし、感染リスクが低下すれば、政府が補助金で背中を押さなくても消費者は旅行に出かけるため、そもそもGOTOトラベル事業は必要ない、とも言えるのではないか。

緊急事態宣言再発動の経済損失はGOTOトラベル停止の50~60倍にも

政府は経済の再開と感染リスク対策の両立を掲げるが、両者には必ず矛盾する部分が出てくる。そうした局面では、政府は感染リスク対策に軸足を置くべきではないか。その方が多少長い目で見れば、経済活動正常化の助けになるだろう。

GOTOトラベル事業を全国的に1か月停止する場合、既に見たように1,809億円の経済損失が生じる。これは年率換算ではGDPの0.39%に相当する。

しかし、GOTOトラベル事業の継続が感染者を一段と拡大させ、結局、緊急事態宣言を再び発動するような事態に至る場合には、経済的損失は格段に大きくなるだろう。緊急事態宣言は、4月の個人消費を10.7兆円、5月の個人消費を11.2兆円押し下げたと推定される。これと比較すれば、1,809億円の経済損失はかなり小さいものだ。

政府には、小出しの対応ではなく、GOTOトラベル事業の全国的な一時停止など、より抜本的な見直しをこのタイミングで決断することを期待したい。

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