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2021年金融政策の回顧と日・米・欧の政策姿勢の違い

2020/12/15

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日本銀行は政府の政策に寄り沿い側面支援を続ける

日本銀行は、17・18日に金融政策決定会合を開く。先般の追加経済対策(3次補正予算案)で、政府が民間金融機関の実質無利子・無担保融資の申請期限を2021年3月末まで延長することを決めたことに呼応して、2021年3月末までとしている日本銀行の「特別プログラム」を6か月程度延長することを決める可能性が高いと考える。

しかし、資産買入れの増額や政策金利の引き下げなどの追加金融緩和策が実施される可能性は低い。日本銀行は、追加緩和措置を見送りながら、この特別プログラムや先月方針を決めた「地域金融強化のための特別当座預金制度」などを通じて、政府の政策を側面支援する姿勢を当面は続ける可能性が高いだろう。

欧米の金融政策との温度差が広がる

欧州中央銀行(ECB)は12月10日の理事会で、資産買入れの拡大などの追加緩和策を半年ぶりに決めた。また、12月15・16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、資産買入れの拡大策が決定される可能性が見込まれている。

そうした中、追加緩和措置を見送る日本銀行の消極姿勢が浮かび上がっている。それが円高進行につながることを警戒する日本銀行は、特別プログラムの延長を次回金融政策決定会合のタイミングで決め、金融市場に対していわゆる「ゼロ回答」となることを避ける狙いもあるのではないか。

金融市場の動揺を受けて3月には、各中央銀行が積極的な対応を見せた。ただしそれは、経済・物価に働きかける通常の金融緩和措置というよりも、金融システムの安定確保のための措置、との色彩が強かった。特に積極的な対応が際立ったのは、政策金利を一気にゼロ近傍まで引き下げた米連邦準備制度理事会(FRB)だった。日本における金融システム上の最大のリスクは、民間金融機関によるドル調達の困難化だったが、これもFRBによる積極的なドル供給の拡大策によって回避された。またECBは、南欧諸国の国債利回り上昇が、ユーロ崩壊へとつながっていくことを強く警戒し、コロナ対応の資産買入れ策(PEPP)を新たに導入した。

財政政策の差も金融政策姿勢の温度差に影響

その後、金融市場が安定を取り戻す中、各中央銀行は様子見姿勢に転じていった。他方で、欧米の中央銀行は、コロナショック後に物価上昇率が下振れたことを機に、金融システムの安定から、物価の安定維持を目指す通常のマクロ金融政策の枠組みへの回帰を模索したのである。そうした中、FRBが8月に示したのが、2%の物価上昇率目標を平均で目指す等とする、金融政策の枠組み修正だった。

ただし、各中央銀行は、金融緩和策の効果については懐疑的であり、コロナ対応での景気対策では、財政政策への期待を強めていった。しかし、欧米では、財政政策は思うように稼働しなかったのである。

欧州ではEU復興基金設立の議論が難航した。また米国では、与野党の政治対立が追加経済対策の実施を長らく阻んできた。そうした中で、各国では感染の再拡大から経済活動の低迷が再び目立ち始めたのである。経済対策で財政政策に期待できないことから、金融政策での対応を余儀なくされるに至ったのだ。それが、ECBが今回決めた追加緩和策、そしてFRBが実施すると見込まれる追加緩和策の背景である。

ところが、財政環境はどの国よりも悪化している日本で、政府は大規模の経済対策を繰り返し実施してきた。その結果、日本銀行は追加金融緩和を無理に実施する必要性が、欧米と比べて低下したのである。

日本銀行は追加金融緩和実施に慎重

日本と欧米との間で生じている金融政策姿勢の温度差は、このように各国の財政政策の違いに起因する面がある。しかしその点を除いても、追加金融緩和実施に慎重な日本銀行の姿勢は際立っていよう。それは、日本銀行が追加金融緩和策の有効性に最も懐疑的である一方、金融緩和の副作用を最も意識しているためではないか。

コロナショック後の日本銀行の追加金融緩和姿勢は、資産買入れ策を中心に欧米よりも慎重であった。しかし、それ以前に日本銀行は他の中央銀行に先駆けてかなりの積極策を実施しており、追加緩和手段について最も出尽くし感が強いとも言える。

コロナショック後のバランスシートの拡大ペースは、FRBが突出したが、バランスシートのGDP比で見ると、日本銀行は130%程度と、FRBの33%程度、ECBの47%程度と比べて突出して高い。

さらに、コロナショック以降、日本銀行は金融機関の収益環境への配慮を強めたと見られ、その結果、マイナス金利の深掘りという選択肢は封じた感がある。コロナショック以前は、円高が進行した場合にはマイナス金利の深掘りという追加緩和策の実施を日本銀行は覚悟していたように見受けられたが、コロナショックがそうした政策姿勢を大きく変えた。少なくとも、マイナス金利の深掘りの引き金となるクリティカルな為替の水準は、コロナショック前の1ドル100円から10円程度は円高方向に動いたのではないか。

そして、「特別当座預金制度」は、地域金融機関の収益環境に配慮して、マイナス金利政策を修正する事実上の正常化策である。

できるところまで政府の政策に寄り沿い続ける日本銀行

そうした中、日本銀行が注力しているのは、政府の政策に寄り沿い、それを側面支援する形で、企業、雇用を守るための銀行への資金供給策、「特別プログラム」である。また、「地域金融強化のための特別当座預金制度」も、政府の金融システム対策や地域経済活性化策への協調策と位置付けることができる。

政府の政策を側面支援し続ける限り、政府や国民から日本銀行に対する追加金融緩和の要請は高まらない。2%の物価目標を達成できない、との強い批判を浴びることもないのである。

このように、政府の政策を側面支援する姿勢をアピールすることで、日本銀行は比較的居心地の良い環境を手に入れているのが現状だ。他方で、政府のコロナ対策は、給付金や助成金を通じて企業・労働者を支える政策から、業態転換やM&A等を補助金や税優遇で助け、生産性向上につなげる施策へと次第にシフトしてきている。さらに、地球温暖化対策、デジタル化の推進のため、企業に関連投資を促す財政・税制上の措置の導入も検討している。

今後日本銀行は、中小企業の競争力向上に資する業態転換やM&A、地球温暖化対策、デジタル化に資する企業の設備投資に関係する銀行融資も、「特別プログラム」の対象に加えていく可能性があるのではないか。また、地球温暖化対策、デジタル化に積極的な企業の銘柄から組成されるETFの新規買入れを始める可能性もあるのではないか。可能性は低いと考えられるが、次回の決定会合で、こうした施策の一部を決定することも、完全には排除できない。

できるところまで政府の政策に寄り沿い、どこまでもついていく日本銀行のこうした政策姿勢は、当面続くことになるだろう。

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