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ECBの12月政策理事会のAccount―Flexibility of PEPP

2021/01/15

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はじめに

ECBの12月政策理事会は追加緩和の必要性に全会一致で合意したが、メンバーは内容面では相応に異なる意見を示していた。

経済情勢の評価

レーン理事は、足許の経済活動が顕著に減速し、実質GDPが危機前の水準を回復するのは2022年中盤まで後ずれするとした。

主な需要項目のうち消費は、第3四半期に耐久財消費を中心に力強く回復したが、第4四半期は支出データが大きく低下し、貯蓄率も再び上昇するとした。設備投資も第3四半期に回復したが、売上げや設備稼働率の低さ、バランスシートの脆弱性を踏まえて、今後について慎重な見方を示した。

雇用は、各国政府による支援策もあって10月の失業率が本年2月対比で1.2ppだけ高い水準に抑制され、第3四半期に労働力人口も回復した点を指摘した一方、足許で雇用機会が大きな打撃を受けている点も認めた。

理事会メンバーはこうした評価に幅広く(generally)合意した。その上で、第3四半期の回復が9月見通しに比べて強かった点を指摘し、家計が消費パターンの調整に習熟し、経済全体が力強い回復力を示しただけに、感染抑制策が解除された後のダイナミックな回復への期待を示した。

また、足許での経済への打撃に懸念を示しつつ、第2四半期ほど深刻ではないとの見方を示したほか、ワクチンの早期かつ有効な導入によって、ユーロ圏経済が9月見通しよりも中期的に望ましいパスを辿るとの期待も示された。

一方で、今後の焦点は感染拡大による経済への打撃の継続性にあるとし、回復過程の長期化によって多くのセクターに企業破綻や失業の増加等の影響を与える結果、中期的な経済見通しを含めて深刻な後遺症を残す可能性も指摘された。

その上で、理事会メンバーは今後の不透明性が極めて高いとの見方に幅広く(broadly)合意し、リスクは以前より減少したが引続き下向きと評価した。なかでも消費に関しては、雇用が維持される限り、感染抑制後にペントアップ需要の実現が期待される一方、サービス支出は長期に亘って抑制されるとの懸念が示された。

物価情勢の評価

レーン理事は、足許のインフレ率の減速が、ドイツのVAT減税等の一時的要因に加え、需要低迷を映じたサービス価格の軟調さによる点を指摘し、将来は反転しうるとの見方を示した。また、契約賃金の上昇率が減速しつつも底堅さを見せている点や、企業のマージンが政府の支援策によって維持されているといったポジティブな動きも指摘した。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意した一方、感染拡大によってslackやそれとインフレとの関係の計測が極めて不確実になっている点を指摘し、今後の見通しを慎重に評価すべきとの考えも示した。その上で、ユーロ圏のインフレが2018年を除いて10年に亘って2%目標に達していないことが構造要因による可能性や、足許での見通し対比での下振れが消費バスケットの変化による可能性などが指摘された。

また、名目実効レートが既往ピークの水準にあるといったユーロ高の状況がインフレを抑制することへの懸念が示された一方、為替レートのインフレへの影響はその背景や継続性によって異なるとの指摘もみられた。

政策判断

理事会メンバーは、与信の流れを維持し景気回復を支えるために追加緩和が必要との判断を全会一致で支持した。

もっとも、現在はPEPPの導入時のような危機ではなく、緩和的な金融環境の維持と物価目標の達成に向けた忍耐強さが政策運営の主眼との指摘もなされたほか、長期金利が低下しても景気や物価への政策効果は限界的である一方、金融システム安定に対する副作用が増加するとの意見もみられた。

政策手段に関しては、PEPPとTLTRO IIIの強化が最適であり、各々の期間の延長がワクチンの普及に関する不透明性をカバーし、経済活動が危機前の水準を回復する時期と整合的であるとの見方が共有された。

PEPPについては、執行部の提案した5000億ユーロの増額に概ね(generally)合意した。しかし、1人のメンバーは、買入れ枠が残っていることや、今後に備えた余力を残すべきことを理由により少額の増額を提案した一方、数名のメンバーは、APPの増枠分を年末に使い切る点も踏まえ、緩和的な金融環境の維持と物価目標の達成にはより大規模な増額が必要と主張した。

その上で、PEPPを一定のペースでなく市場の状況に即した運営に移行する可能性も取り上げ、効率性を高め、買入れ枠の利用を抑制しうるとの指摘がなされた。一方、必要な際には買入れ枠を増額する用意がある点を明示すべきとの指摘もあった。

また、資産買入れの強化に伴うモラルハザードや財政抑圧、市場機能へのストレス等の副作用も取り上げられ、財政ファイナンスの懸念を抑制する上でcapital keyのようなガイドラインが重要との指摘がみられたほか、現在の経済対策としては財政が主役で金融政策は脇役である点も強調された。

一方、TLTRO III強化の前提となる企業の資金調達環境についてLane理事は、企業側のサーベイ結果が足許の軟化と今後の悪化の可能性を示唆している点や、銀行側のサーベイ結果も与信姿勢のタイト化を示唆している点を説明した。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意した上で、執行部が提案したTLTRO IIIの三つの強化ポイントー適用金利の引下げ措置の延長、オペ回数の追加、利用上限額の引上げ-が銀行の良好な資金調達環境を維持し、企業や家計に緩和的な貸出を行うための流動性を保つ点で適切との考えを示した。

もっとも、利用上限額に関しては、執行部の提案した適格貸出残高の60%とすると、銀行のECBに対する過度な依存や国債買入れの増加といった副作用を招くリスクが多くのメンバーから指摘され、55%に引き下げられた。

最後にコミュニケーションに関してはPEPPが焦点となり、緩和的な金融環境が維持されれば、買入れ枠を使い切らない可能性と、中期的な物価見通しに対する影響を回避する上で必要があれば、買入れ枠の更なる増額を行う用意がある点の双方を明示すべきとの議論がなされた。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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