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ECBの1月政策理事会のAccount -Real rates

2021/02/19

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はじめに

ECBの前回(1月)の政策理事会は、足許での景気減速に対する懸念を共有する一方、海外経済の回復やワクチン接種の拡大によるその後の景気回復に期待を示した。

経済情勢の評価

レーン理事は、Covid-19の感染拡大と経済活動の抑制が、足許の景気を下押ししていることを確認した。もっとも、製造業は外需も含めて底堅さを維持し、非製造業のセンチメントの悪化も昨年春よりは深刻でない点も指摘した。家計も各国の財政支援と消費抑制によって貯蓄を積み上げており、Covid-19の収束に伴って消費に向かう期待を示したが、若年層は貯蓄の取り崩しで生活を支えている点にも留意を示した。

これらを踏まえてレーン理事は、昨年第4四半期のマイナス成長に続き、本年第1四半期にも下方リスクを指摘した。もっとも、その後はcautious optimismとなりうるとし、ワクチン接種の拡大や海外経済の回復、英国との通商協定締結といった材料を挙げた。また、引続き不透明性は高く、リスクも下方に傾いているが、その程度は改善されたとも評価した。

理事会メンバーもこうした見方に概ね(generally)合意した。このうち、当面については、過去2四半期を通してみれば12月時点の執行部見通しに沿った動きになるとの見方と、ワクチン接種の遅延やCovid-19の変異種の発生といった要因も含め、本年第1四半期の景気への下押しへの懸念も示された。また、景気が経済部門や国によってばらつきがある点や、財政支援に拘らず企業や家計の支出スタンスが慎重である点、企業のバランスシートの脆弱性が設備投資を抑制するリスクなどが指摘された。

これに対し理事会メンバーも、中期的には主として海外要因によって見通しが改善した点を取り上げ、良好な資金調達環境や拡張的な財政スタンスによる支援の重要性を確認した。

物価情勢の評価

レーン理事は、足許のインフレ率が、既往の原油価格下落に加え、財やサービスへの需要低迷によって下押しされているとの見方を示した。また、労働市場のslackに拘らず、契約賃金の動きが抑制されているのは、その多くがCovid-19の感染拡大前に締結されているからであるとした。

その上で、本年初以降は原油価格とドイツのVAT減税の影響が解消していくため、総合インフレ率の上昇が見込まれるとしたほか、昨年の消費支出パターンの変化を映じて、HICPバスケットが大きく変更される可能性にも留意を示した。また、ECBのSPFによるインフレ期待は概ね不変であるが、市場ベースのインフレ期待が上昇した点も指摘した。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意した。このうち当面は、総合インフレ率の回復は期待されるが、総需要の停滞や賃金上昇圧力の弱さ、ユーロ高等のために、基調的なインフレ圧力は引続き弱いとの見方を示した。また、インフレ期待は上昇したが水準は依然として低い点や、市場ベースのインフレ期待がCovid-19感染前の水準を回復したといっても、主として海外要因によるとの見方を示した。

中期的にも不透明性が高い点を確認し、Covid-19収束後の景気回復だけでなく、主要な部門別の需給関係や、資金調達環境からインフレへの波及、Covid-19の感染時期における価格の計測といった要素にも依存するとの意見が示された。

その上で、緩やかなインフレ率の上昇というシナリオの妥当性を確認したほか、デフレのリスクが後退しただけでなく、海外経済の回復もあってユーロ圏の景気回復が進んだ場合、一時的にはインフレ率が見通しを上回る可能性も示された。もっとも、インフレ率の加速を持続的改善と誤解すべきでないとの指摘もあった。

なお、理事会メンバーは、既往のユーロ高がインフレを抑制した効果にも言及したが、年初以降にそうした傾向が反転したほか、計量分析ではユーロ相場による物価への影響が課題評価されている可能性も指摘された。

資金調達環境と金融環境

レーン理事は、銀行貸出と社債発行の双方で、資金調達環境が概ね良好であるとする一方、名目安全の金利が米国債利回りの上昇によってユーロ圏でも上昇した点に留意を示した。またシュナーベル理事は、実質金利の上昇は抑制されていると指摘するとともに、域内国債の利回り格差は安定し、株価が上昇し、ユーロ高傾向が反転した点で、金融環境は緩和的と評価した。

理事会メンバーは、企業向け貸出が減速する一方、家計向けは底堅い点を確認した。前者に関しては、設備投資の減速に繋がるとの懸念が示された一方、企業も予備的資金を積み上げており、それが活用される過程との見方も示された。

ECBのBLSが企業向け貸出の慎重化を示唆している点については、景気の不透明性が高い下で、企業の信用リスクの悪化に対する懸念によるとの理解が示され、各国政府による企業債務の返済猶予策等が終了した後の不良債権の増加に備えた動きとの指摘がなされた。

その上で、BLSの結果については、銀行貸出の慎重化が与信の流れや経済活動に悪影響をもたらし得る点で注意深く監視すべきとの意見と、そうした慎重化も過去の危機と比べて深刻でなく、昨年中にみられた顕著な緩和姿勢の正常化に過ぎないとの意見の双方が示された。

政策判断

理事会メンバーは、良好な資金調達環境の維持を通じて、経済の幅広い領域に対する資金の流れを確保することが不可欠として、金融緩和の現状維持を決定した。

その上で、インフレ率が目標からほど遠い状況の下で、資金調達環境がインフレ期待の上昇によって改善するのであれば、実質金利の低下を容認すべきとの考えが示された。また、実質金利の低下は(景気回復を通じて)インフレを改善するほか、すべての名目金利の上昇が資金調達条件のタイト化を意味する訳ではなく、従って政策対応を伴うものでもないとの意見も示された。

ラガルド総裁の記者会見で焦点となった資金調達環境については、官民双方の部門を幅広く柔軟にカバーすることの重要性が指摘されたほか、PEPPの運営に関しても、Covid-19問題の下での金融環境に即した柔軟な運営の重要性のみが確認された。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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