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FRBのパウエル議長の記者会見-Outcome based

2021/03/18

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はじめに

今回(3月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。この間、景気や物価の見通しを大きく上方修正したほか、dot chartでは複数のメンバーが2023年末以前の利上げ開始を予想したが、 パウエル議長は今後の政策運営を景気や物価の実際の改善に基づいて行う方針を確認した。

経済情勢の評価

パウエル議長は、Covid-19の感染抑制策が依然として影響を与えているものの、家計の財支出や住宅支出、製造業の生産が拡大し、政府の追加経済対策とワクチン接種の拡大が今後も景気回復を促進することに期待を示した。

FOMCメンバーによる新たな実質GDP成長率見通しも、2021年が前回(12月)の+4.4%から+6.5%へ大きく上方修正された。ただし、2022年以降は+3.3%→+2.2%とされ、前回(12月)の+3.2%→+2.4%と概ね変わっていない。

雇用も、深刻な影響を受けた産業を含めて改善した点を認めつつ、労働参加率の低下や低所得者、サービス業、 African Americanなど特定領域への打撃といった問題が残存している点を強調した。FOMCメンバーによる新たな失業率見通しも、2021~ 23 年 に か け て 4.5% → 3.9% → 3.5% と 前 回 ( 12 月 ) の5.0%→4.2%→3.7%から一段と改善したが、パウエル議長はより広範な指標に着目する必要性を強調した。

記者からは、追加経済対策の必要性や効果に関する質問が示されたのに対し、パウエル議長は一連の大規模な財政出動が景気回復を加速しただけでなく、Covid-19による後遺症(scarring effect)を抑制したとの評価を示した。一方で、米国経済の課題は成長力の強化にあるとし、今後の財政政策に対し人的資本を含む投資促進への貢献に役割を示した。

物価情勢の評価

パウエル議長は、既往の原油価格下落の影響の剥落や、経済活動再開に伴う供給制約を主因に、足許でインフレ率が上昇するとの見方を示した。実際、FOMCメンバーによるPCEインフレ率の新たな見通しも、2021年が前回(12月)の+1.8%から+2.4%へ大きく上方修正された。ただし、2022年以降は+2.0%→+2.1%とされ、前回(12月)の+1.9%→+2.0%と概ね変わっていない。

記者からは、経済活動の再開に伴う家計のpent-up demandの顕在化や、サプライチェーンの機能低下がインフレ圧力を高めるとの指摘があった。これに対しパウエル議長は、そうした事象は生じても一時的であり、財やサービスの供給は徐々に円滑化するとの見方を示したほか、企業がコスト上昇を価格に転嫁しない可能性も示唆した。

雇用の改善がインフレ圧力に繋がる可能性についても、パウエル議長は、Covid-19問題以前に低位な失業率の下で賃金上昇が抑制されていた点を指摘し、そうした構造は変わり得るとしても時間がかかるとの理解を示し、トレードオフの懸念を否定した。

政策判断

パウエル議長は、今後の米国経済が依然としてCovid-19の展開に大きく依存し、先行きの不透明性も極めて高いとの理解を確認するとともに、緩和的な金融環境の維持が不可欠と強調した。その上で、資産買入れと政策金利の双方について、現在の政策は適切であり、かつ今後の運営についても、各々明確なフォワードガイダンスを示していると指摘した。

これに対し、複数の記者が長期金利の上昇に対する見方やテーパリングの条件を質した。パウエル議長は、金融環境を評価する際には長期金利だけでなく幅広い指標を考慮している点を説明した上で、長期金利の無秩序(disorderly)な動きは政策目標の達成を阻害しうると指摘するとともに、現在の資産買入れペースは適切との判断を確認した。

一方、資産買入れの見直しを行う条件である「政策目標の達成に向けた顕著に追加的な前進」の内容については、雇用やインフレの面で具体的に数値化すべきでないとの考えを示すとともに、上記のような「見通し」ではなく、あくまでも「実績」での確認が必要(outcome based)との考え方を強調した。

さらにパウエル議長は、テーパリングを行う場合には十分事前かつ明確に予告する方針を確認するとともに、そうした対応の必要性は「QE3」から得られた重要な教訓であると指摘した。なお、市場の一部で注目されていたSLRの運営に関しては、今後数日中に結論を得るとして、現時点では回答を避けた。

別の複数の記者は、今回(3月)のFOMCで改訂されたdot chartで、複数のメンバーが2022~23年に最初の利上げを予想したことと、政策金利に関するフォワードガイダンスとの整合性を質したほか、dot chartの有用性に疑問を示した。また、雇用を判断する上で、失業率以外の指標も幅広く確認するのであれば、それらも見通し(SEP)に明記すべきとの指摘もあった。

パウエル議長は、dot chartはあくまでも個々のメンバーによる(確率分布の)平均的予想を示したものに過ぎず、先行きに関する高い不確実性は反映されていない一方、政策金利の運営も「見通し」ではなく「実績」に基づいて行われる点を確認した。併せて、 FOMCメンバーの大半は、2023年末でも現状の政策金利の維持を引続き予想している点も付言した。

また、SEPもあくまでもFOMCメンバーによる見通しの集約であって、FOMCによる議決などを経たものでない点を確認した上で、SEPに含まれる指標を多様化することは、サマリーとしての意味合いを損なうと指摘して消極的な考えを示した。

さらに、別の複数の記者からは、景気が回復する下でゼロ金利政策を継続することが、金融システムを不安定化するリスクへの懸念が示された。

これに対しパウエル議長は、FOMCとして金融システムの状況を注視しているとした上で、資産価格の一部には過大評価もみられるが、家計のバランスシートは健全であり、企業の負債は大きいがマクロ的には手許現金の水準も高いとして、足許で不安定化のリスクは少ないとの見方を確認した。

加えて、大手金融機関等の主要なプレーヤーの自己資本等は世界金融危機当時に比べて顕著に頑健性が向上した点を確認したが、ホールセール市場での資金調達については、昨年春に一部で機能が損なわれた点も認め、他の監督当局と連携して機能強化を図る考えも示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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