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ECBの3月理事会のAccounts-Higher long-term yield

2021/04/09

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はじめに

ECBの3月の政策理事会は、PEPPによる資産買入れを第2四半期には「顕著に早い」ペースで実施することを決定した。しかし、議事要旨は、政策決定の妥当性に加え、長期金利の上昇の原因や意味合いにも相当な意見の相違があったことを示唆している。

経済情勢の評価

レーン理事は、ユーロ圏経済が昨年第4四半期は力強く回復した一方、本年第1四半期は予想以上に減速したことを確認した。

消費は、感染抑制策によって足許で抑制されているほか、貯蓄の増加が消費性向の低い高齢層に集中しており、pent-up需要に慎重な見方を示した。雇用も財政政策で支持されているが、サービス部門の影響は大きく、今後のリスクは残るとした。

設備投資は底堅く、資本財生産からみて先行きも期待できると評価したほか、ユーロ圏域外の外需も拡大を続けていると指摘した。

その上でレーン理事は、当面は経済活動が弱いものの、その後に回復が加速するとの見方を確認したほか、先行きのリスクは、海外経済の回復や大規模な財政刺激、ワクチン接種の拡大によって、上下によりバランスしたとの見方を示した。

理事会メンバーもこうした評価やリスクバランスに概ね合意したが、内容面では意見の違いも窺われた。まず、GDPの推移については、過小推計が相次いだ一方で結果的に底堅かったとの指摘と、第1四半期の落ち込みが第4四半期の回復をオフセットした点に着目する意見の双方が示された。

家計貯蓄の意味合いについても、レーン理事の評価は慎重すぎるとの指摘と、域内国によって経済の脆弱性は異なるだけに、貯蓄が当面は高水準で推移することもありうるとの指摘があった。この点は、一部のメンバーが懸念するように、政府の支援措置が終了した後の雇用情勢に依存する面があろう。

物価情勢の評価

レーン理事は、昨年の原油価格の下落やドイツのVAT引下げ、小売セールの時期変更等の影響が剥落する結果、本年のインフレ率は改善するが、その後は執行部による元々の見通しに服するとの見方を示した。この間、賃金は底堅いが、域内国政府の雇用支援策の影響も大きいと説明した。

理事会メンバーもこうした見方に概ね(generally)合意した。その上でインフレ期待に関しては、市場ベースが足許で若干上昇しているが、海外動向に影響を受けている面が強く、サーベイベースも含めて、水準はなお低位であることを確認した。もっとも、足元のインフレ率上昇の影響は、期待形成はbackward lookingであるとの意見と、企業はコモディティ価格の上昇や供給制約の意味合いにも着目しているとの意見の双方がみられた。

長期金利と「資金調達条件」の評価

長期金利の動向について、シュナーベル理事は、ユーロ圏の国債イールドカーブがCovid-19以前よりも総じてflatな形状を維持し、スプレッドも縮小した状態にあることを確認した。また、長期のOISカーブは、今後の利上げパスに関する市場予想が不変であることを示唆していると説明する一方、足許での上昇はインフレリスクへの認識の変化を反映したとの理解を示した。

また、レーン理事は、長期金利の上昇は世界的現象の一環との理解を示す一方、リスクアピタイトの改善や域内国債のスプレッドの縮小、為替レートの若干の軟化といった好材料も指摘した。

この間、銀行貸出は減速しており、企業の手元資金の積み上がりや銀行による与信姿勢の慎重化を映じたものとの理解を示した。また、貸出金利は歴史的低水準となっているが、この間のインフレ期待の低迷のため、実質金利はCovid-19前よりも高いとの理解も示した。

その上でレーン理事は、「資金調達条件」の評価では、金融政策の波及経路の全般にわたる「包括的で多面的(holistic and multifaceted)」な見方が重要との考えを確認しつつ、長期金利の上昇が最も重要な問題である点を強調した。その理由としては、 ①資産買入れによって直接的な影響を与えうる、②広範な金融取引の条件設定に影響する、の二点を挙げた。

理事会メンバーは、「資金調達条件」のアプローチに幅広く(broadly)合意した。その上で、長期金利の上昇は米国の影響やコモディティ価格の上昇、景気見通しの改善、ワクチン接種の加速等に裏打ちされているとしつつ、「reflation trade」のような見方は企業や家計には共有されていないとの指摘がみられた。

また、長期金利の水準はなお低く、家計や企業の「資金調達条件」も緩和的との指摘や、「資金調達条件」がタイト化するには大幅で継続的な長期金利の上昇が必要との見方があった一方、「包括的かつ多面的」なアプローチでも、長期金利は影響が大きいため特に重要との指摘もみられた。

金融政策の判断

レーン理事は、大幅で継続的な長期金利の上昇を放置すれば、金融緩和が必要とされる中で効果を毀損するとの懸念を示し、緩和的な「資金調達条件」の維持は物価目標の達成に資するとの考えを確認した。また、「第2四半期にPEPPによる資産買入れを「顕著に早い」ペースで行うことを提案したほか、今後は景気や物価の見通しと同時に四半期ごとに資産買入れのペースを見直す方針を提示した。

理事会メンバーは緩和的な「資金調達条件」の維持には合意した。ただし、特定水準の維持でなく、早期のタイト化防止が本来の趣旨との意見と、インフレをCovid-19前の予想パスに戻すのに必要な「資金調達条件」の維持が必要との指摘があった。

さらに、足許の「資金調達条件」のタイト化も米国に比べて抑制的との見方や、ユーロ圏の長期金利上昇の主因は市場のインフレ期待の変化に過ぎないとの理解、実質金利の上昇であれば経済活動への影響は大きくないとの指摘、インフレ期待の推計には不確実性が高いとの懸念などが各々示された。

その上で、PEPPによる資産買入れのペースについても、政策反応関数をアピールするため顕著な引上げが必要との意見と、景気見通しの改善を反映して緩やかな引上げが適当との意見の双方が示された。議事要旨の上からは必ずしも明確ではないが、こうした意見の相違は、結局のところ、PEPPの総額の買入れ枠自体は不変に維持するとの提案によって収拾されたように見える。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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