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ECBのラガルド総裁の記者会見-All about PEPP

2021/04/23

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はじめに

ECBの4月の政策理事会は金融緩和の現状維持を決定した。 ラガルド総裁の記者会見では、PEPPの運営に質問が集中した。

経済情勢の評価

ラガルド総裁は、冒頭説明で、足許のユーロ圏経済には海外経済の回復とCovid-19の感染抑制策という硬軟両材料が作用していると整理しつつ、本年第1四半期はマイナス成長であった可能性が高いと説明した。もっとも、第2四半期はプラスに転じているとの理解を示したほか、その後はワクチン接種の普及と経済活動の再開によって回復が明確になるとの見通しを確認した。

この間、企業活動は製造業が外需の恩恵を受けて回復を続けているほか、サービス業も厳しい状況にはあるが、底打ちの兆しもみられると指摘した。これに対し、家計は財政支出による支援を受けているが、雇用や所得の先行きへの不安のため、慎重なマインドが維持されているとの見方を示した。

これらを踏まえ、今後の景気は短期的には下方リスクが大きいが、中期的にはリスクが上下によりバランスしたとの見方を示した。

記者会見では、本年後半の景気回復で経済資源のslackが解消されるかとの質問があったのに対し、ラガルド総裁は、ユーロ圏経済のGDPが2019年の水準を取り戻すのは2022年であり、その時点でも国や産業によって回復にはばらつきが見込まれるとして、slackの解消にはなお時間を要するとの見方を示した。

物価情勢の評価

ラガルド総裁は、エネルギー価格の上昇によってHICPインフレ率は当面は堅調に推移すると説明した。もっとも、サプライチェーンの制約等を含む一時的ないし局所的な要因の影響は来年初に剥落するとの見方を示すとともに、slackが残存する下での賃金の伸びの鈍さやユーロ高の影響等によって、基調的物価の回復には時間を要するとの見通しを確認した。

また、インフレ期待についても、市場ベースでは緩やかな改善が継続しているが、サーベイベースでは依然として低位である点を確認した。

「資金調達条件」の評価

今回(4月)の政策理事会は、「資金調達条件」の四半期ごとのレビューの機会ではないが、ラガルド総裁は、長期金利の上昇が一段落した後は「資金調達条件」が総じて安定的に推移したとの理解を示した。この間、企業向けの貸出残高の伸び率も足許で若干高まったほか、家計向けの貸出も堅調に推移している。

記者からは、直近のBLSの結果が銀行の貸出姿勢の更なるタイト化を示唆している点が指摘されたが、ラガルド総裁は、銀行が信用リスクの増加リスクを意識して慎重化している可能性を認める一方、タイト化の程度は昨年に比べて小幅であるほか、企業や家計の資金需要も鈍化している点と指摘した。

PEPPの運営

今回(4月)の記者会見では、PEPPの運営が焦点となり、大多数の質問が集中した。それらは、足許での運営実績と、次回(6月)の政策理事会での買入れペースの見直しの二つに大別される。

このうち足許の運営実績については、前回(3月)の政策理事会で決定した「顕著に早い」ペースでの買入れがポイントである。複数の記者が、決定以降の実際の買入れが「顕著」には増えていない点を指摘したのに対し、ラガルド総裁は、3月16日以降は本年初の2カ月よりも買入れを増やしたと反論した。また、市場では週次の動向に注目する向きが多いが、買入れ動向の評価は月次で均してみるべきであるほか、償還等を除いたネットで見るべきとの考えを示した。

また、現在の長期金利の下で「資金調達条件」は緩和的と言えるかという質問に対しては、ラガルド総裁は、PEPPによる資産買入れペースの引上げは、緩和的な「資金調達条件」の維持が目的であった点を確認するとともに、その評価は、上流から下流に至る資金の流れの全体の条件で評価すべきとの考えを説明した。

一方、次回(6月)の政策理事会での買入れペースの見直しについては、上記のように、今回(4月)の政策理事会でも景気の先行きリスクが改善しただけに、理事会メンバーの一部が既に示唆したように、買入れペースの減速は可能ではないかとの指摘や、どのような条件が満たされれば「元のペース」に戻すことが可能かといった質問が示された。

これに対しラガルド総裁は、ユーロ圏経済には硬軟両材料が残存している点を確認した上で、前回(3月)の政策理事会で決定した通り、次回(6月)の会合では「資金調達条件」とその下での物価目標の達成見込みを評価した上で、PEPPの買入れペースを見直す方針を説明した。また、「元のペース」かどうかという基準はなく、その時点で最適なペースを選択する考えも強調した。

さらに複数の記者からは、今回(4月)の政策理事会で買入れペースの減速について議論したのかとの質問や、ECBはFRBによるテーパリングの開始後に買入れペースの減速に踏み切るのかといった質問も示された。

ラガルド総裁は、今回(4月)の会合ではそうした議論は行っていないし、資産買入れを段階的に減らす(phasing out)ことを議論するのは時期尚早との考えを強調した。また、ECBがFRBと連動して(in tandem)政策運営ができれば素晴らしいと皮肉を述べた上で、各中央銀行は各々の経済状況に即して政策運営を行うべきであり、米国とはインフレ率やインフレ期待が大きく異なるだけに、政策運営が異なることは当然との考えを示した。

金融政策の見直し

ECBによる金融政策の見直し結果の公表は、当初は年央とされていたが、この間のコロナ対策等のために遅延している。記者会見では公表時期に関する質問が示されたが、ラガルド総裁は、 ECBだけでなくNCBを含む多くのリソースを投入しており、遅くとも秋までには結果を示す考えを示した。

その上で別の記者が、理事会内にイールドカーブ・コントロールの関心を示す向きがみられる点を指摘したのに対し、ラガルド総裁は現在のPEPPの運営は、あくまでも「資金調達条件」に即して行っている点を確認した一方で、金融政策の見直しに関しては幅広い意見を取り入れ、多くの選択肢を考えるとの方針を説明するに止め、具体的なコメントを避けた。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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