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FRBのパウエル議長の記者会見-供給側の要因

2021/04/29

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はじめに

4月のFOMCは金融緩和の現状維持を決定した。パウエル総裁の記者会見では、資産買入れの今後の運営とともにインフレ率の上昇の意味合いが焦点となった。

経済情勢の評価

今回(4月)の声明文は、ワクチン接種の進捗と強力な政策支援によって経済活動と雇用の指標が強まった点を新たに明記した。

パウエル議長の冒頭説明でも、雇用と所得の改善を背景に家計支出が拡大しているほか、設備投資も回復を辿っているとの評価を示した。この間、Covid-19による深刻な影響を受けた部門の活動は弱いとの見方を維持したが、声明文では改善の兆しも指摘している。パウエル議長も、足許で娯楽やホスピタリティの雇用改善が顕著である点を歓迎した。

これらを踏まえ、パウエル議長は、Covid-19の抑制とともに今後に経済活動が正常化に向かうとの見方を確認した。

景気判断がCovid-19との関連で示されたこともあり、記者会見ではCovid-19の集団免疫の時期に関する質問が示された。これに対しパウエル議長は、FRBに重要なのは、Covid-19の抑制に伴って人々が不安を持たず経済活動を行うようになることである点を確認した。

雇用については、BeigeBookで指摘された労働力確保の困難さの持続性を問う向きがみられた。パウエル議長は、失業が残る中でそうした事象が生ずる理由として、①雇用機会と労働者のスキルのミスマッチ、②学校の閉鎖に伴う子弟のケアやCovid-19感染への不安による自発的失業などを挙げるとともに、マクロの賃金上昇が顕著ではない点も指摘した。

その上で、時間はかかるが、労働参加率の上昇等によって新たな均衡に達するはずと指摘し、一時的な現象との見方を示唆した。

物価情勢の評価

パウエル議長は、足許でインフレ率が2%を超えているものの、声明文の表現に言及しつつ、一時的事象との見方を確認した。

記者からは、完全雇用に達する前にインフレ率とインフレ期待が上昇し続けるリスクが提起されたが、パウエル議長はそうした可能性は低いと指摘するとともに、金融政策は、雇用と物価にバランスをとって運営する方針を確認した。

別の記者も、インフレ率の上昇が一時的との見方に疑問を示したが、パウエル議長は、財やサービスの相対価格は多様な要素によって変化するが、総じてみれば、インフレ率の足許の動きはエネルギー価格の前年の下落の反動や総需要の回復に伴う供給制約といった一時的な要因による面が強いとの見方を確認した。

また、前者のインパクトが総合インフレ率で1.0pp、コアインフレ率で0.7pp程度に達するとの推計を示すとともに、後者はいずれは解消するが時期に関しては不透明性も残るとの考えを示唆した。

さらに別の記者は、1960~70年代のような高インフレとの違いを質した。パウエル議長は、当時は長期にわたって高インフレが継続したが、足許のインフレ率上昇は一時的との違いを強調するとともに、現在は長期に亘る低インフレの後であるだけに、インフレ期待を2%以上にアンカーすることが重要との考えを確認した。

インフレ期待に関しては、十分に改善したのではないかとの指摘もみられたが、パウエル議長は金融市場のBEIのような指標だけでなく、家計や企業のサーベイ結果も含め、幅広くモニターする必要性を確認した。その上で、現在は低下後の回復プロセスにあるとして、2%以上にアンカーする必要性を再度強調した。

最後に、FRBがインフレ率を評価する上で特定の「警戒点」があるかどうかを質す向きもみられたが、パウエル議長はそうした存在を否定する一方、インフレ率を評価する上では供給側の動向に注視することが重要との見方を示した。

金融システムの評価

一部の記者は、景気拡大の下で金融緩和を継続することが投機的行動を招いているとの見方や、プルーデンス政策での対応の必要性を示した。

パウエル議長は、金融システムを評価する際にはマクロ的視点が重要との考えを確認した。その上で、①資産価格にはバリュエーションの高さもあるが、全体としてはCovid-19の抑制に伴う景気回復期待を反映、②銀行の自己資本は潤沢でレバレッジは抑制、③資金調達も一部を除きresilient、④家計のバランスシートは健全、といった点で大きな問題はないとの評価を維持した。

その上でパウエル議長は、昨年春に資産の換金売り圧力で問題が表面化し、今後の政策対応が必要な領域として、1)MMFの資金調達能力の拡充、2)米国債の市場機能の強化の2点を挙げた。

このほか、複数の記者が住宅価格の高騰を取り上げ、FRBがMBS買入れを継続することの妥当性を質した。

パウエル議長は監視の必要性を認めつつ、GFC前に比べ、①家計のバランスシートが健全、②低格付の家計による住宅借入の急増はない、といった点で懸念は小さいとの評価を示唆した。また、今回の価格高騰は、需要の強さだけでなく供給制約による面も強いとし、今後の供給状況の改善に期待を示した。

MBS買入れについては、昨年春に市場機能の低下に対応して導入した点を確認しつつ、国債市場との関係も深い点を指摘し、今後は国債買入れと一体で見直しを行う考えを確認した。

資産買入れの運営

今回(4月)の声明文やパウエル議長の冒頭説明では、資産買入れについては運営方針を確認しただけで、見直しの条件に関する現状評価は示されていない。

記者からは、FOMCで資産買入れのテーパリングに関する議論があったかどうかとの質問や、景気や物価は改善しているのに見直しを行わないことは、今後の国債増発や2013年のような事態の再現を懸念しているためではないかとの疑念が示された。

パウエル議長は、FOMCでは議論していないと説明するとともに、テーパリングの条件達成には「相応の時間(sometime)」を要するとの見方を確認した。また、年初からの条件達成に向けた前進度合いはなお小さいとの評価を示す一方、今後も前進が続くとの期待を示し、あくまで時間の問題との見方も示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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