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FRBのパウエル議長の記者会見-Coming meetings

2021/07/29

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はじめに

今回(7月)のFOMCは金融緩和の現状維持を決定した。声明文は、政策目標の実現に向けて進んだ点を確認した一方、資産買入れの見直し条件である「更なる顕著な前進」を、今後数回の会合で評価を続ける考えを示した。

経済情勢の評価

パウエル議長は、冒頭説明で、ワクチン接種の進捗と経済対策によって経済活動が拡大を続いている点を確認するとともに、住宅市場と設備投資の好調さに言及した。雇用については、娯楽や宿泊といったCovid-19の影響が深刻であった部門の回復を歓迎しつつも、労働参加率の回復が遅延している点や、失業が引続き特定の領域にしわ寄せされている点に注意を促した。

記者会見では未充足求人が高水準となっている点が取り上げられ、パウエル議長も異常な状況にある点を認めたが、①多くの人々がCovid-19前とは異なる職を探している、②Covid-19への不安や子弟と高齢者の養育、失業保険の割り増し等のため、人々の労働市場への復帰が遅延している、といった一時的な要因による面が大きいとの見方を確認した。

また、景気の先行きに関してパウエル議長は、ワクチン接種の減速や変異種(デルタ株)の感染拡大のため、下方リスクが残ると説明した。もっとも、質疑応答では、経済活動の抑制等によって一定の影響が生ずるとしても、昨年のような深刻な影響は生じないとの見方を示した。声明文の「経済の先行きがウイルスの展開に依存する」との表現も、前回(6月)に見られた「顕著に(significantly)」の語が削除されている。

ただし、パウエル議長も記者の質問に回答する中で、ワクチン接種の進捗度合いなどを反映して、海外の景気回復にばらつきが大きい点を認めるとともに、サプライチェーンを通じた直接的な影響のほか、更なる変異種を生じるリスクも含め、米国経済へのインパクトを注視する必要性を指摘した。

物価情勢の評価

パウエル議長は同じく冒頭説明で、インフレ率が供給制約によって上振れする状況が想定より長引いている点を認めつつも、エネルギー価格の上昇に減速の兆しがみられる点を挙げつつ、徐々に目標に向けて収斂するとの見方を確認した。

質疑応答では、複数の記者がインフレの上振れを一時的とする理解に疑問を示した。パウエル議長は、中長期のインフレ期待の上振れを避ける必要があり、そのために物価上昇ではなく、インフレ率の加速如何が問題だが、そうした状況にはないと説明した。

また、足元のインフレ率は高いが、自動車価格(新車と中古車)や木材価格、航空運賃、宿泊費といった一部の価格高騰による寄与が大きく、これらは経済活動の再開に伴う供給制約を反映しているだけに、具体的な時期に不透明な点も残るが、いずれは要因として剥落するとの見方を確認した。

質疑応答では、賃金上昇がインフレ率の加速を招くとの懸念も示されたが、パウエル議長は、足元の上昇が低賃金部門や新規雇用を中心に生じており、そうした懸念は少ないとの見方を示した。もっとも、ユニットレーバーコストが上昇すれば価格に転嫁されうるため、生産性の改善状況も注視すべきとの考えを示した。

また、別な記者が10年国債の実質金利がマイナスに転ずるなど、市場でインフレ期待が上振れしているのではないかとの懸念を示したのに対し、パウエル議長は、デルタ株の感染拡大への懸念を映じた面が強いとの見方を示すとともに、市場がFRBの政策運営に懸念を有している訳ではないと説明した。

その上でパウエル議長は、Covid-19からの景気回復過程では低インフレが望ましいのとの記者の指摘に反論し、フォワードガイダンスは中長期のインフレ期待を適切にアンカーすることに主眼がある点を確認しつつ、FOMCもインフレ期待が上方に不安定化すれば政策で対応するが、現時点でそうした状況はみられないとの理解を強調した。

資産買入れの運営

今回(7月)のFOMCの焦点は、資産買入れの見直しに関する条件(「最大雇用と物価安定の目標達成に向けた更なる顕著な前進」)の達成度合いをどう評価するかにあった。

この点に関して声明文には、①条件達成に向けて進んだ、② FOMCは今後数回の会合(coming meetings)で評価を続ける、という表現が新たに加わった。パウエル議長も、新たな経済指標に基づいて、資産買入れの減速(テーパリング)の時期やペース、構成を今後に議論する考えを確認した。

記者からは条件の数値化を求める意見も示されたが、パウエル議長は物価については既に達成済である一方、雇用は総合失業率だけでなく、人種別の失業率や労働参加率、賃金等を幅広く注視しているほか、雇用者数の更なる改善が必要と説明し、条件は未達成との判断を確認した。

別な記者は、インフレ率がさらに加速した場合、最大雇用が達成されなくても政策を変更するかどうかを質した。パウエル議長は、ほとんどの局面では物価と雇用は同方向に変化するとした上で、足元でそうなっていないとしても、高水準の未充足求人は雇用の強さを示唆していると指摘し、最大雇用の条件も徐々に満たされる見通しを示唆した。

質疑応答では、テーパリングの構成に関し、住宅市場の過熱に言及しつつ、MBSの買入れ減速を優先すべきとの指摘もあった。 パウエル議長はFOMCメンバーの一部にそうした議論があるほか、そうした主張が幾分強まった点を認めたものの、国債と同様なペースで買入れを減らす可能性が高いとの見方を示した。

テーパリングの開始時期については、パウエル議長は今回(7月)の声明文の変更(上記)が事前予告ではない点を確認するとともに、FOMCメンバーの間にはタイミングやペース、構成に関して様々な意見があると説明した。また、条件の達成に向けて今後も前進を続けることに期待を表明するとともに、そうした状況を今後数回の会合で確認する考えを確認した。

ちなみに、8月のジャクソンホール・コンファレンスでの講演内容に関する質問に対し、パウエル議長は準備中であるとして回答を避けた。実際、今後数回の会合で達成状況を評価する方針を明示した以上、同講演で言及があるとしても、タイミングよりもペースや構成の方にウエイトが置かれることが考えられる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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