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G7によるRetail CBDCの公共政策としての原則

2021/10/15

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文書の位置づけ

今回のG7財務相・中央銀行総裁会議際に公表された「原則」は、 6月のG7での方針に基づき、Retail CBDCの公共政策面での意味合いと共通原則を取りまとめている。

基本的課題の概要

前半の8原則は基本的課題と位置付けられ、いわば、公共政策の視点によるRetail CBDCの要件というべき内容を有する。

第1原則は通貨と金融の安定であり、CBDCは、中央銀行による通貨と金融の安定の責務を支援するが阻害しないよう設計すべきことを確認している。一方、上記の現状報告を踏まえ、銀行の金融仲介に対する影響は制御可能との考えも示唆している。

第2原則は法的・ガバナンスの枠組みであり、CBDCは法の支配、健全なガバナンス、適切な透明性を順守すべきとし、そのため各国での法律や規制、監督の整備が不可欠であるとしている。

第3原則はデータ保護であり、個人情報保護の基準や説明責任、データの活用や保管に関する透明性の重要性を確認している。データの収集や処理には、法的根拠、利用の限定、データの最小化、透明性と説明責任、利用者の同意が重要であるとし、アクセスをAMLやCFTのような目的に限定すべきとの考えを示した。

第4原則は運営上の頑健性とCyber securityであり、CBDCのエコシステムが国内・国際の基準を満たすべき点を確認した。また、 CBDCインフラに関するBCP等の重要性を指摘し、CBDCの導入目的に即して頑健性を検討すべきとの考えも示している。

第5原則は競争であり、CBDCが既存の支払手段と共存し、多様な選択肢を提供しうるよう、オープンで安全で頑健、透明で競争的な環境で運営されるべきとした。また、中央銀行と民間のPSPの役割や責務の分担は、多様なサービスでの比較優位を反映すべきとし、支払手段に包括的に適用しうる政策や規制、運営原則を検討すべきと指摘した。

第6原則は不正取引であり、CBDCは迅速でアクセスが容易で、安全で安価な支払のニーズに対応しつつ、犯罪目的の利用を阻止すべき点を確認した。また、第3原則に沿って、AMLやCFTの規制や責務に関する役割や責任の明確化の重要性を確認した。

第7原則は波及効果であり、CBDCは、他国の通貨主権や金融安定への影響を含め、国際通貨・金融システムへのリスクを回避するよう設計すべきとした。また、国際機関におけるクロスボーダー支払での利用に関する調査を継続すべきとし、CBDCを導入する国はそうした成果を反映すべきと指摘した。

最後の第8原則はエネルギーと環境であり、「ネットゼロ」の達成に貢献しうるようにインフラを設計し運営すべき点を指摘した。

展望の概要

後半の5原則は展望と位置付けられ、CBDCが公共政策上のメリットを発揮する上で注意すべき点が示されている。

第9原則はデジタル経済とイノベーションであり、CBDCが技術革新を促進する上での相互運用性の重要さを確認している。また、第5原則に即して中央銀行と民間との明確で適切な役割や責務の分担の重要性を指摘するとともに、プロググラム通貨や零細支払への対応等、新たな可能性にも言及した。

第10原則は金融包摂であり、コストや地理的条件、通信アクセスや人口動態、認証やliteracy等に起因する金融包摂の課題の解決に貢献するためのCBDCの役割を検討すべきとした。

第11原則は公共部門との資金の受払であり、CBDCによって、平時と危機時の双方で、迅速で低コスト、透明で金融包摂に寄与し、安全な資金の受払を行いうるようにすべきとした。

第12原則はクロスボーダーの機能であり、CBDCの国際的側面を海外中央銀行や国際機関と連携して検討する等、クロスボーダー支払の強化への貢献を検討すべきとした。また、大規模な国際的な利用は第7原則で挙げた国際金融上の意味合いを有するとし、国際協調には様々なレベルがありうる点も指摘した。

最後の第13原則は国際開発であり、CBDCを国際金融支援に使用する際は、発行国と受入れ国での公共政策を阻害せず、C設計に関する透明性を確保すべきとした。また、G7として金融支援での活用におけるリスクとメリットを重視する姿勢を示唆した。

相互依存とトレードオフ

最後に、CBDCの公共政策上の意味合いには相互依存の面があるとし、それらに対応する上で、目的の明確化と優先度合付け、選択肢の理解、評価の手法、技術や枠組みと政策面での対応の模索、ステークホルダーの関与の5つが重要と指摘した。同時に、 CBDCの公共政策上の目的にはトレードオフも存在するとし、利用者情報の保護と不正取引の抑制、頑健性と機能度、クロスボーダーでの活用と波及効果の最小化の3点を例示した。

「原則」の意味合い

CBDCの専門家は、今回の「原則」には必ずしも新たな内容が含まれていないとの印象を持つ可能性がある。

なぜなら、BISと共同研究を行う7つの中央銀行(G7以外のスイスやスウェーデンが含まれる)が、9月に公表した現状報告の成果が多分に反映しているからである。また、CBDCの具体的設計は各国の特性や公共政策の優先度を反映すべきであるため、「原則」の多くは上記のグループが昨年10月に公表したように、ハイレベルな内容になる点が関係している可能性もある。

一方で、「原則」の冒頭から通貨と金融の安定との関係が取り上げられている点は、支払・決済の効率性や安全性の面からCBDCを考える方々に違和感を与えるかもしれない。今回の「原則」が、CBDCの公共政策での観点を重視する以上、中央銀行の本来の責務との関連が冒頭に来るのも自然ではあるが、こうした違和感がCBDCの必要性や優先度を巡る意見の相違に関係している点も否定できない。

「原則」を西側諸国によるデジタル人民元への牽制と捉える報道がみられる点も興味深い。しかし、先に「ノート」で検討したCPMIのペーパーが示唆するように、Stablecoinへの牽制という意味合いも同様に感じられる。つまり、広範に使用されるデジタル通貨には同じ標準を適用すべきという点で考え方は一貫している。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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