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IMFのGFSR(第2章)-Crypto ecosystemと金融安定

2021/10/18

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はじめに

今回のIMFの世界金融安定報告(GFSR)の第2章は、crypto assetとstablecoinの各々が金融システム安定に与える影響と政策当局の対応を取り上げた。

Crypto ecosystemの金融システムへの意味合い

2018年の金融安定理事会(FSB)による報告は、crypto assetが国際金融に重大なリスクをもたらすことはないと評価した。しかし、今回のGFSRは、①残高の急成長、②一部国での取引拡大、③ ヘッジファンド等による保有の増加、④途上国での通貨代替の促進等のため、状況が変化したとの認識を示した。

また、1)オペリスク:取引の増加やシステムの問題等による価値毀損を伴う取引障害、2)サイバーリスク:walletや交換所に加えalgorismへの攻撃、3)ガバナンスリスク:発行や配分の透明性の欠如、が新規参入の影響もあって深刻化する恐れを指摘した。

金融安定に大きな影響を与えた事例は生じていないが、GFSRは、取引が特定銘柄に集中している事実や、運営に関する透明性の欠如が投資家保護を損なった事例、leverageを伴う取引等に懸念を示した。DeFiについても、複雑かつ透明性が低い一方、集権的な仲介主体が存在せず、監督が困難である点を確認した。

その上で、crypto ecosystemへの監督上の課題として、a)匿名性や取引認証の困難さの下でのAML/CFTの適用、b)データの制約や不統一、信頼性の低さの下での監視、c)取引連鎖の解析の困難さの下でのAML/CFTの徹底、d)運営主体が分散する下での規制や監督の適用、e)「規制の裁定」の余地などを挙げた。

Stablecoinの金融システム上の意味合い

GFSR は 、 stabelecoin を 、裏付資産の観点から、 ① cash-based:銀行預金やTBなど流動的で安全な資産、②asset-based:社債やCPなどの金融資産、③crypto-asset-based:他のcrypto assetの3つに分類した。

このうち①は裏付資産が金融機関に管理されるため透明性が高く、保有者の権利も保全されるとした一方、②は以前のMMFと同じく、市場が不安定な下で償還の遅延や現物償還などを生じうると指摘した。③は実質的にDeFiであり、algorismによる供給制御により裏付資産の価値との連動を図るものも存在すると説明した。

その上で、stablecoinへの規制が、国によって1)包括的な監督(銀行による発行等)、2)部分的監督(裏付資産の管理に対する行為規制や発行体の認可・登録等)、3)監督の未導入、に異なることが、「規制の裁定」等の懸念を生じていると説明した。

さらに、stablecoinの多くが、情報開示の不足や不備(監査等の欠如)の問題や「取付」に伴う裏付資産のfire saleのリスクを抱えていると指摘した。中でも後者は、stablecoinの規模が大きい場合、裏付資産を管理する銀行にも影響が生じうる点や、CPなどの特定市場にストレスがかかる恐れ、国際金融市場を通じてストレスが波及するリスクなどを指摘した。

Cryptoization

GFSRは、新興国や途上国でcrypto asset取引が加速的に拡大している点を捉え、これに伴う通貨代替の可能性を指摘した。「ドル化」に象徴される通貨代替の主因は、そもそも中央銀行や金融システムに対する信認の喪失である点を認めつつも、crypto assetの活用により通貨代替が加速しやすい点や、決済システムの非効率性や金融包摂の低さも原因になりうる点を確認した。

その上で、crypto assetが海外送金の際等に限定的に使用される限りは影響は少ないが、国内での支払手段や価値保蔵手段としての広範な使用は、金融政策の効果を減殺し、家計や企業の流動性ないし為替リスクを高める可能性を指摘した。また、途上国内でのcrypto asset需要の急増は、国際的な大手金融機関による2段階取引(crypto‐現地通貨‐主要通貨)によって対応される結果、現地通貨の対主要通貨での減価を招くと指摘した。

これに対し、一部国がcrypto asset取引を取引所等に限定しつつ規制することは有効としつつも、P2P取引など他の手段によってleakする恐れにも注意を示した。同時に、mining活動が新興国や途上国にシフトしている点についても、エネルギー消費の増大や補助金に伴う財政負担、対価として獲得したcrypto assetの海外流出といった問題を指摘した。

マクロ金融安定を維持するための政策

最後にGFSRは、監督当局が対応すべき3つの領域を示した。

第1は標準、監督、データであり、可能な領域ではcrypto assetに国際標準を適用すべきと主張している。具体的には、FATFによるAML/CFTの基準やCPMIによるPFMI等を挙げている。

加えて、walletや取引所、金融機関のexposure等のリスクを抑制するには、既存の政策手段や国際標準を援用すべきとしたほか、各国当局が国際間で協調すべきと主張した。さらに、適切な政策決定にはデータギャップへの迅速な対応が必要と指摘し、国際間でのデータの最低標準の導入を求めた。

第2はstablecoinであり、リスクや機能に応じた規制が必要として、FSBが公表したハイレベル要件を例示した。特に監督当局は、幅広く使用されるstablecoinに、信用リスクや流動性リスク、オペリスクやAML/CFT、サイバーリスク等に関する管理体制を確認することが優先課題とし、銀行免許の有効性を指摘した。

加えて、裏付資産やネットワークの管理、ガバナンスやカストディ、法定通貨との交換等が消費者保護や金融安定上で重要である点を確認し、情報開示の強化や裏付資産の外部監査、ネットワーク等の管理規則の導入等の検討を求めた。

第3はマクロ金融リスクの管理であり、新興国や途上国を念頭にcrypto assetによる通貨代替を回避すべく、金融政策への信認や中央銀行の独立性、健全な財政状況の維持が重要である点を確認した。さらに、CBDCの導入が通貨代替を自動的に抑制する訳ではないが、より良い決済技術に関するニーズを満たす点で間接的な効果をもちうるとの理解を示した。

一方で、取引がデジタル化された下では、規制の回避が容易になりうるだけに、各国における資本フローに対する規制や監督、対応策の効果に課題が生ずるとして、各国内で既存の資本規制の在り方を再検討すべきと指摘した。さらに、技術や法律、規制や監督の課題に対処するためには、国際間での協力も必要と指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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