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FRBのパウエル議長の記者会見-Maximum employment

2021/11/04

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はじめに

今回(11月)のFOMCは資産買入れのテーパリングを決定した。記者会見では、利上げ開始のタイミングとの関連で、現在の高インフレの持続性とともに、最大雇用の達成見通しが焦点となった。

資産買入れの減速

今回(11月)のFOMCが全会一致で決定した内容は、①現在の1200億ドル/月(国債800億ドル/月、MBS400億ドル/月)を今月中旬から1050億ドル/月(国債700億ドル/月、MBS350億ドル/月)へ減速、②12月中旬から900億ドル/ 月(国債600億ドル/ 月、 MBS300億ドル/月)へ減速、③その後も毎月同様に減速するが、経済見通しの変化に応じて調整する用意あり、というものである。

これらは前回(9月)のFOMC議事要旨に明記された通りであり、 パウエル議長も来年中盤に資産買入れを終了する見込みを確認した。記者からはQE3に比べて減速ペースが速い理由や減速ペースを加速する可能性が取り上げられ、パウエル議長は前者については当時よりも総需要の拡大とインフレ圧力が強い点を指摘し、後者については上記③を確認しつつ、そうした場合は前もって説明する方針を説明した一方、具体的な条件への言及は避けた。

物価の評価

OMCの声明文は、前回(9月)はインフレの高騰を主として一時的な要因によるとしたが、今回(11月)は主として一時的と予想される(to be expected)要因によるとの慎重な見方に変更された。もっとも、今回(11月)は、Covid-19と経済活動の再開に伴う需給の不均衡が一部の部門での物価上昇に寄与しているとの説明が加えられたほか、供給制約の緩和が経済活動やと雇用の回復とインフレの減速の双方に繋がるとの説明も加わった。

パウエル議長は、冒頭説明ではサプライチェーンの問題は複雑で、解消時期の予測が難しい点を認めた一方で、質疑では来年の第2~第3四半期にインフレ圧力が緩和するとの見方を示した。また、「一時的」の理解が区々である点を認めつつ、重要なのは要因の(構造的な)持続性であると説明した。

さらに別の記者からは、賃金と物価とのスパイラルが生じる恐れや、逆にインフレによって家計の実質購買力が毀損していることへの懸念が示された。

前者に関してパウエル議長は、賃金上昇が加速している点を認めつつ、家計の生活水準にとって望ましい動きと評価したほか、生産性も改善しているので企業がコスト増を吸収しうるとの見方を示した。後者に関しては、冒頭説明で特に食費と交通費の上昇が経済弱者に影響している点を認めた一方、金融政策は直接的には供給制約を緩和しえない点を説明したほか、質疑ではこうした状況が永続する訳ではないとの見方を確認した。

雇用の評価

パウエル議長は冒頭説明で、雇用の増加ペースが、夏季のCovid-19の感染増加によって娯楽、宿泊、教育などの部門を中心に足元で減速している点を確認した。また、労働参加率の停滞についても、人口高齢化のような構造要因に加えて、Covid-19感染への懸念や子弟の養育負担といった今次局面に特有の要因によるとの理解を示し、Covid-19の感染抑制によっていずれも改善していくとの見方を確認した。

これに対し、複数の記者が労働市場にCovid-19によって構造変化が生じた可能性と、その下での最大雇用の達成見込みを質した。パウエル議長は前者の指摘を認め、ポストコロナの新たな構造を見極めることの重要性を確認した。もっとも、雇用増が徐々に減速することは自然との見方を示唆したほか、足元の賃金上昇が既存の雇用機会よりも転職において生じていると指摘し、労働需給と賃金との関係が維持されている点も示唆した。また、後者については雇用だけでなく、賃金や未充足求人などの幅広い指標の動向を来年前半にかけて注視する考えを示した。

デュアルマンデートと利上げの方針

パウエル議長は冒頭説明で、資産買入れのテーパリング開始は利上げに関する直接的なサインを意味しないと説明し、利上げの開始には別のより厳格な条件を満たす必要がある点も確認した。もっとも、市場では2022年中の複数回の利上げの思惑も生じているだけに、質疑では多くの記者がこの点を取り上げた。

まず、複数の記者が物価と雇用のトレードオフの悪化を指摘しつつ、早期の利上げ開始を検討する可能性を質した。パウエル議長は、現在はCovid-19からの回復という特殊な局面にあり、平時のPhilips curveを用いた議論は妥当しないとの理解を示した上で、当面の金融政策運営ではリスクマネジメントの観点からbalanced approachが有効との考えを確認した。

その上で、デュアルマンデートのうちで最大雇用が未達成であるとの判断を確認し、労働市場の多様な指標が持続的に回復することが必要との考えを確認するとともに、政策目標の達成を何らかの単純な数式で示すことは不適切と指摘した。合わせて、インフレには上方リスクがあり、必要であれば政策対応を講じる用意を 示 した一方で 、 政策金利に関する判断 には忍耐強 さ(patience)が必要との考えも確認した。

さらに別の複数の記者からは、金融政策の効果の時間的ラグを考えると、早期の政策判断が適切との指摘も示された。パウエル議長は、足元のインフレ率が想定以上に高く、供給制約が想定以上に継続している点を認めつつも、後者については海外のサプライチェーンと米国内のロジスティックスの双方で、時間はかかるが解消される方向にあるとの理解を確認した。

パウエル議長は、従って、金融政策がbehind the curveに陥ってい訳ではないと主張した一方、物価と最大雇用に機械的な関係がある訳ではないが、今回の局面では最大雇用が達成されれば物価目標も自ずから達成されるとの理解を示した。また、今回(11月)のFOMCでは政策金利の運営について議論していない点を確認しつつ、来年後半には利上げ開始の条件が満たされうるとの見方を示唆した。

資産取引問題への対応

昨今の報道を踏まえて、複数の記者がこの問題を取り上げるとともに、パウエル議長の再任への影響を質した。パウエル議長は、 FRBの政策運営には国民の信認が不可欠である点を確認するとともに、組織間で倫理ルールの運営に不整合な面があった点も認め、対応を進めている点を説明した。また、連邦議会に対して状況を説明している点も述べたが、その具体的な相手については言及を避けた。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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