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緊急事態宣言発令の論点と成長率3つのシナリオ

2021/01/06

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間に合わなかった特措法改正

政府は1月7日に、新型コロナウイルス特別措置法(以下特措法)に基づく緊急事態宣言を決める。7日あるいは8日に発効となる。対象区域は東京都と神奈川県、千葉県、埼玉県の4都府県で、期間は1か月間となる見通しだ。

昨年4月、5月の緊急事態宣言下での対応と比べて、「飲食でのリスクを抑える」ことに集中させる形、とする考えを菅首相は示している。前回は百貨店、劇場、映画館にも休業要請が出されたが、今回は休業要請を行わない見通しだ。他方、飲食店に対する休業・時短要請の範囲は、前回よりも拡大される方向だ。飲食店の時短要請は午後8時までとし、酒を提供していない店も対象とされる見通しである。

特措法に基づく休業・時短要請は、現在のところは学校・映画館などが対象である一方、一般的な飲食店は含まれていない。そこで政府は、今月18日から開かれる通常国会で、特措法を改正し、休業・時短要請の対象に新たに「飲食店、喫茶店、その他設備を設けて客に飲食をさせる営業が行われる施設」を追加する方針である。

しかし、改正特措法は2月上旬に可決される見通しであり、今回の1か月間の緊急事態宣言が概ね終了した後となる。従って、今回の緊急事態宣言では、法的根拠がない中で、飲食店に対して休業・時短要請を実施し、それを実効性高いものとする必要がある。それには、協力金をかなり手厚く支給するしかないのではないか。

飲食店だけの対応で良いのか

菅首相は、今までの経験から飲食店での感染拡大のリスクが大きいことが明らかになった、と説明している。果たして、どの程度確かな科学的根拠に基づいているのかは不明だ。確かに、マスクを外すことになる会食時は、他のシチュエーションと比較して、感染のリスクは相対的に高くなるだろう。しかし、それ以外でも、感染の経路は数多くあるはずだ。

1都3県に緊急事態宣言を発令した場合、昨年4・5月の宣言時に近い厳しい対策を想定しても、東京の1日当たりの新規感染者数が100人以下に減るまで約2か月が必要、との試算を西浦・京都大教授が示している。飲食店の営業時間短縮を中心とした施策のみの場合、感染者数は2か月後も現状とほぼ同水準にとどまる計算だという。

昨年4・5月の宣言時と比べて、感染者数が格段に大きい中、逆に規制の範囲を大きく縮小して、本当に有効な感染対策となるのか。またそれが、感染リスクに対する個々人の危機意識を弱めてしまい、結果的に感染リスクの抑制効果を減じてしまうことにならないのか、慎重に考えてみる必要があるだろう。

宣言解除の条件はステージ4脱却か

日本経済新聞(1月6日付)によると、政府は6つの指標に基づいて感染状況のステージを判断し、最も深刻なステージ4からステージ3に改善することを、宣言解除の条件とする方針だ。6指標は、病床使用率、療養者数、陽性率、1週間の感染者数、感染者数の前週比、感染経路不明者の割合である。1月4日時点で、東京都ではこれら6指標すべてがステージ4の水準にある。神奈川県では5指標、埼玉県では2指標、千葉県では1指標である。

宣言解除の際には、これら6指標に基づく総合判断となるが、その際に最も重視されるのは1週間の感染者数だという。1週間の人口10万人あたりの新規感染者数25人以上がステージ4となるが、1月4日時点で東京都の数値は46.2人である。この数値が25人未満となり、ステージ4を脱するためには、1日約500人未満程度まで新規感染者数が低下する必要がある。1月6日の東京都の新規感染者数は1,591人であったが、それを3分の1以下まで減らす必要がある。上記の西浦教授の試算を踏まえても、それを1か月間のうちに安定的に達成するのは簡単ではないだろう。

また、4都府県は人の行き来も多く、一体の地域との考えに基づけば、宣言解除のタイミングも同時となるのではないか。東京都のステージ4脱却が最も遅れそうだが、それを待って4都府県同時に解除となるだろう。

日本経済は「二番底」の可能性高まる

緊急事態宣言の発令によって、今年1-3月期の実質GDP成長率はマイナスとなり、昨年4-6月期に続いて日本経済は「二番底」に陥る可能性が高まっている。

以下では、3つのシナリオに分けて緊急事態宣言の発令の1-3月期の成長率に与える影響を見てみよう。第1は、1都3県を対象に1か月間、緊急事態宣言が発令されるケースだ。この場合、4.89兆円の消費が失われる計算だ(1年間のGDPの0.88%の規模に相当)。これは、昨年4-6月期の緊急事態宣言発令による消費減少分の22.3%の規模である(コラム「緊急事態宣言再発令の経済への影響を試算」、2021年1月5日)。

第2は、1都3県を対象に2か月間、緊急事態宣言が発令されるケースだ。この場合、影響度は第1のケースの2倍となり、9.78兆円の消費が失われる。昨年4-6月期の44.6%の規模である。

第3は、1都3県を対象に1か月間、さらに全国を対象に1か月間緊急事態宣言が発令されるケースだ。この場合、18.89兆円の消費が失われる。これは、昨年4-6月期の86.3%の規模である。

1-3月期成長率は年率-5%~-10%が現時点での目途か

昨年4-6月期には実質個人消費は前期比年率-29.4%となったが、今年1-3月期の実質個人消費は、上記の宣言発令による消費抑制規模についての、昨年4-6月期との比較で決まると仮定しよう。その場合、今年1-3月期の実質個人消費は、第1のケースで前期比年率-6.6%、第2のケースで同-13.1%、第3のケースで同-25.4%となる。また、同期の実質GDPへの寄与度は、第1のケースで前期比年率-3.7%、第2のケースで同-7.5%、第3のケースで同-14.5%となる。

今回の緊急事態宣言の方が、前回よりも規制の度合いが弱く、直接的な消費抑制効果は小さめとなる可能性が見込まれる。しかし他方で、今回の方が企業の破綻、廃業などに、よりつながりやすいことから、雇用情勢の一段の悪化をもたらしやすい。そうした経路を通じて、個人消費全体への悪影響はより大きく出やすいという側面もある。

事態はなお流動的であるが、上記3つのシナリオのうち、現時点でメインシナリオと考えられるのは、第2のケースである。実質個人消費以外の需要項目が成長率に中立的と仮定すれば、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率-5%~-10%程度が、現時点での大まかな目途と考えられるのではないか。昨年4-6月期の同-29.4%と比べればマイナス幅は小さいものの、相応の規模のマイナス成長である。

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