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ジョージア州上院選挙でトリプルブルー実現も過度な楽観は危険

2021/01/07

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「トリプルブルー」で世界的「リフレトレード」の様相

1月5日(米国時間)に米ジョージア州で行われた連邦上院議会の決選投票で、民主党が2議席共に制することが確実となった。昨年11月に大統領選挙と同時に実施された連邦上院の選挙では、ジョージア州の2議席が僅差の投票結果となった。州法は得票率で半数を超える者がいなかった場合は、上位2候補による決選投票で勝者を決めると定めており、この規定に沿って投票が再度実施されたものだ。

民主党がジョージア州での上院2議席を制したことで、上院全体での議席数は共和党50議席、民主党50議席の同数となる。しかし法案の採決の際に賛否が同数となる場合には、民主党のハリス次期副大統領が票を投じるため、民主党が過半数の議席を事実上握ることになる。大統領指名の政府高官の承認、連邦裁判事の承認、条約批准など、上院の権限は大きい。

民主党が下院と共に上院を制したことは「ブルーウェーブ」、あるいは大統領職も含めて3つを制したことで「トリプルブルー」とも呼ばれる。昨年は、与野党間の対立で、コロナ経済対策の実施が長らく滞ってしまったが、新政権のもとでは、民主党主導で政策の実行力は高まることになるだろう。

この「トリプルブルー」の実現のもとで、金融市場は「リフレトレード」が進んでいる。バイデン新政権が積極的な景気対策を行い、その結果インフレ率も高まるとの期待が生じているのだ。ジョージア州上院での民主党の勝利を受けて、米国10年財務省証券は1.0%を上回った。また6日(米国時間)のダウ平均株価は400ドルを超える大幅高となり、7日の東京市場でも、その影響で大幅株高となっている。ジョージア州の選挙で生じた「リフレトレード」が、世界の市場に広がっている印象だ。

バイデン政権の下での増税実施は株式市場に逆風

しかし、こうした市場の楽観論は長くは続かないのではないか。「トリプルブルー」といっても、上下両院での民主党の優位は僅差に過ぎない。法案の採決の結果が明確に党派毎(パーティーライン)とはなりにくい米国では、政権党が過半数の議席を押さえていても、それが僅差であれば、法案の成立はしばしば妨げられるだろう。また民主党内でも穏健派と急進左派との対立は続いており、一枚岩ではない。バイデン政権の政策の実行力に過度に期待すべきではないだろう。

また、昨年11月の大統領選挙直後には、民主党が下院での議席を減らし、また上院でも過半数の議席を得られない、いわば「ねじれ議会」への観測から株価がかなり上昇していたことを思い起こす必要がある。この際には、議会勢力が弱いことで、バイデン次期大統領が掲げてきた法人増税が阻まれる、との期待が高まったのである。「トリプルブルー」となれば、増税が実現する可能性も高まるはずであり、これは株式市場にとっては悪材料だ。

バイデン次期大統領は、法人税の21%から28%への引き上げ、米企業に対する新たな「ミニマム税」の導入、米国を拠点とする多くの多国籍企業が海外で得た利益に対する増税などを提案している。これらは、特にハイテク企業にとって大きな打撃となる。6日の米国市場でダウ平均株価は大幅高となったのに対して、ハイテク企業銘柄中心のナスダック指数が下落したのは、この点を反映したものだろう。

しかし、増税策はハイテク企業に限らず、企業全体に逆風となるはずである。景気対策というプラス材料と増税策というマイナス材料の両面がある中で、株式市場はプラス材料のみを重視した、いわゆる「いいとこどり」を続けている感は否めない。

財政の一段の悪化で悪い金利上昇、悪いドル安のリスク

そしてもう一点留意しておく必要があるのが、財政悪化問題である。バイデン次期大統領が掲げる経済政策が実行された場合には、超党派の調査機関「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によると、10年間で歳出は10兆ドル程度増加し、4.6兆ドルの増税を上回る規模となる。その結果、財政は5.6兆ドル悪化する。

財政環境の悪化は、いずれ財務省証券市場とドルに対する信認の低下につながるだろう。それは悪い金利上昇、悪いドル安を生む。そのもとでは、資金が米国市場に入りにくくなり、株式市場にも大きな打撃となるはずだ。

ジョージア州の選挙を受けて10年財務省証券は1.0%を上回ったが、これは、景気回復やインフレ率上昇の期待を受けた良い金利の上昇という側面だけではなく、悪い金利の上昇の側面も含まれているのではないか。そして注目したいのは、長期金利が上昇し内外金利差が拡大する中でも、足もとではドル安が進んでいることだ。これは、財政環境の一段の悪化への市場の懸念を反映している面があるのではないか。こうした問題を踏まえると、株式市場は、「トリプルブルー」、「リフレトレード」と浮かれている場合ではないだろう。

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