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緊急事態宣言の対象拡大と特措法改正の論点

2021/01/13

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対象区域11都府県まで拡大の経済効果

1月7日に首都圏4都県で発令した緊急事態宣言の対象区域を、政府は11都府県まで広げることを、13日に正式に決定する。新たに対象に加わるのは、京都、大阪、兵庫、栃木、岐阜、愛知、福岡の7府県だ。期間は2月7日までとなる。その結果、対象地域の経済規模(県民所得)は、35.0%から60.6%まで一気に拡大する。菅首相は7日の時点では、その他地域に宣言の対象を拡大する状況にはない、と説明していたが、感染のさらなる拡大や知事からの要請、世論の動向などを受けて、短期間で方針を変えた。

11都府県で2月7日まで緊急事態宣言が続けられる場合、失われる個人消費は2.3兆円と試算される。それは、1年間の名目GDPの0.40%に相当し、失業者を37.3万人増加させ、失業率を0.55%上昇させる計算となる。

特措法改正で宣言前の予防的措置を検討

政府は新型コロナウイルス感染症対応の特別措置法(以下特措法)改正を通じて、それに基づく緊急事態宣言の効力を高めることを目指している。

特措法改正では、知事が事業者に休業・時短を命令できるようにし、さらに拒否した事業者には50万円以下の過料(軽度な行政罰)を科すことが検討されている。他方、休業・時短の命令を受け入れた事業者には、財政的な支援措置を講じることが明記される。いわば「アメとムチ」の仕組みを導入することが検討されているのである。

これに加えて、今回の特措法改正では、宣言を発令する前に「予防的措置」を導入することが検討されているという。このもとでは、知事が事業者に休業・時短を命令することができ(現在は「指示」)、拒否した事業者には過料を科す。これは、特措法改正後の緊急事態宣言下での知事の権限と同じように思えるが、政府が現在検討中の案によれば、過料の金額が宣言前では30万円以下なのに対して、宣言後は50万円以下へと増額される。

知事の権限に段階を設けることは意味があると思うが、既に宣言が出され、経済規模で6割までの地域が対象になった後に、宣言前の「予防的措置」を決めても、やや遅きに失した感は否めない。

より厳しい「緊急事態宣言2.0」も選択肢か

むしろ、緊急事態宣言下での知事の権限に段階を設け、より厳しい対応もできるように準備しておくことの方が重要なのではないか。

感染抑制策で、緊急事態宣言の発令は事実上最後の手段と位置付けられてきた。しかし実際に首都圏4都県に発令されても、個人の行動に与える影響は限られ、感染抑制の効果には大きな不安が残るのが現状である。そこで、特措法改正を通じて、より厳しい規制の導入を可能にする「緊急事態宣言2.0」のようなものを準備しておくことは、検討に値するのではないか。

より厳しい規制となれば、事業者ではなく個人が対象となり、外出規制などが選択肢となろう。これについては、「私権の制限」という観点から慎重意見は多い。しかし、感染拡大がここまで広まってしまった以上、問題を覚悟の上で、より厳しい規制措置の導入も検討すべきではないか。それが適用されなくて済めば、それに越したことはない。

実際に「緊急事態宣言2.0」は発令されなくても、発令されれば個人の行動が強く制限されるとの懸念が個人の外出自粛の意識を高める、といった効果も期待できるのではないか。

ただし、「私権の制限」が濫用されることがないよう、その発令は国会の承認を必要とすることや、1年間の時限措置にすること等も選択肢になるのではないか。いずれにしても、通常国会で特措法が改正された後も、現状の政府案の下では、緊急事態宣言が感染抑制拡大に大きな効力を発揮するようには見えない。個人の意識を大きく変えるような何らかの工夫が必要なのではないか。

国と知事との権限の明確化を

さらに、特措法では、緊急事態宣言に関して国と知事との権限が曖昧であることが、大きな問題だ。昨年も、緊急事態宣言の発令の是非、発令後の休業・時短要請の範囲、解除の条件などを巡って、国と知事らとの間に大きな対立が生じた。それは、国民に不安をもたらした。

現在の特措法のもとでは、対象と期間を伴う緊急事態宣言の発令は、国の権限で決められる。他方、ひとたび緊急事態宣言が発令されれば、具体的な措置は知事が決められる、と規定されている。しかし実際には、国は「基本的対処方針」で知事の決定に大きな影響力を行使できるのである。このような複雑かつ曖昧な権限の規定を、今回の特措法改正の機会に見直し、改善することも検討すべきではないか。

また、緊急事態宣言の発令は、国の単独の判断ではなく、知事との協議に基づいて国が決定する、といった手続きに変えることも一案ではないか。今回の緊急事態宣言に際しても、国は都府県知事らの強い要請に屈して決めた印象もある。それならば、それを法律上、正式な手続きとしたらどうだろうか。

このように、特措法改正には大きな論点がなお多く残されている。今後、感染が爆発的に拡大するリスクを視野に入れて、必要であればかなり厳しい措置を講じることが可能となるような対応余地を法的に準備しておくことは重要ではないか。

政府には、短期間での法改正を目指すあまり、中途半端な見直しで終わることがないように努めて欲しい。

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