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トランプ大統領に史上初の2回目の弾劾訴追

2021/01/14

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トランプ大統領の再選・政治活動封じが狙い

1月13日に米下院は、トランプ大統領に対する弾劾訴追決議案を賛成多数で可決した。5人が死亡した先週の議会議事堂乱入事件で、暴動を煽ったとしてトランプ大統領の罪を問うものである。

採決結果は、賛成232人、反対197人となった。注目されるのは、民主党全議員に加えて、10人の共和党議員も賛成に回ったことだ。その中には、下院共和党ナンバー3のチェイニー議員も含まれた。共和党内でも、トランプ大統領の責任を問う声が急激に強まっているのである。

下院によるトランプ大統領に対する弾劾訴追は、これで2回目となる。トランプ大統領は、米国史上、複数回弾劾訴追された初の大統領となった。

下院がこの決議案を上院に送付し、上院がそれを可決すればトランプ大統領は罷免される。ただし、トランプ大統領は1月20日に退任する。それまでに上院が可決する可能性はかなり低い。上院は現在休会中であり、全上院議員100人の全会一致の同意がない限り、1月19日まで再開できない。シューマー民主党上院院内総務は、緊急招集を求めているが、マコネル共和党上院院内総務はそれを拒否している。

1月に召集された新議会では、上院での議席数は民主党、共和党が同数であるが、採決が同数の場合には民主党の副大統領が投票する規定であることから、事実上は民主党が僅差で上院の過半数を制していることになる。

この点から、20日の新政権発足後に上院で弾劾訴追決議案が審議されれば、つまり弾劾裁判が行われれば、トランプ大統領は有罪となる可能性が高い。しかし、既に退任しているトランプ大統領は解任されず、罰せられない。ただし、有罪判決となった後に上院が追加の採決を取り、2024年に大統領選への再出馬を検討しているトランプ大統領の立候補を禁じる決議を採択することができるのである。これが、上院が弾劾裁判の有罪判決の一環としてトランプ大統領に実施できる唯一の処罰だ。

これにより、トランプ大統領の退任後の政治活動と4年後の大統領再選を封じ、共和党のイメージ悪化を図ることが、退任直前に民主党が下院で弾劾訴追を行うことの狙いである。

ビジネス界からも締め出されるトランプ大統領

議会議事堂乱入事件を受けて、トランプ大統領は政治の世界ばかりでなく、ビジネスの世界からも締め出されつつある。

1月10日には全米プロゴルフ協会が、2022年の大会開催地をトランプ氏所有のゴルフ場から変更することを決めた。13日には、ニューヨーク市のデブラシオ市長が、トランプ一族が経営する「トランプ・オーガニゼーション」との事業契約を打ち切る方針を明らかにしている。「トランプ・オーガニゼーション」は、ニューヨーク市からスケートリンクやセントラルパークの遊戯施設、ゴルフ場などの経営を請け負っている。

民間の不動産会社でも、この「トランプ・オーガニゼーション」との取引を打ち切るところが出てきた。さらに、ニューヨークを地盤とする地銀は、同社との不動産ローン契約などを解約する予定だという。さらに3億ドル超の融資残高を抱えるとされるドイツ銀行も、取引をやめる方向と報じられている。ビジネスの世界でも、トランプ大統領にペナルティを科す動きが一気に広まってきた。

議会議事堂乱入はまさに不意打ちの事件であったが、その再発を防ぐために、1月20日の大統領就任式に向けて、首都ワシントンは厳戒態勢となる。国防総省は大統領就任式のため、各州からの州兵1万5,000人をワシントンに投入する。警戒にあたる州兵は、武器の携行を認めることが決まったという。

ただし、再び騒動が起こる可能性があるのは、万全な対策が講じられる首都ワシントンばかりではない。16日から20日の間に、全米50州の全州都とワシントンで武装した集団が抗議活動を行う可能性がある、ということがFBI(連邦捜査局)の内部資料から明らかになっている。

選挙結果を受けた円滑な政権移行は、民主主義制度の根幹に関わるものだ。暴力行為が続き、これが揺らぐことがあれば、トランプ政権の下で既に低下した米国に対する国際的な信頼性はさらに低下し、「再び海外から尊敬される国を目指す」としているバイデン次期大統領にとっても、その道のりがより険しくなってしまうだろう。

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