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決済はプラットフォーマーの金融業参入の入り口

2021/01/15

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決済分野が金融業参入の入り口に

プラットフォーマーが金融業に参入する際に入り口となりやすいのが、支払い、送金などのいわゆる決済業務だ。例えば、中国のモバイル決済を担う2大プラットフォーム、アリペイとウィーチャットペイは、ネット・ショッピング(電子商取引)のアリババグループと、SNSのテンセントがそれぞれ運営している。双方のグループ共に今や金融業に深く入り込み、当局が強く警戒するに及んでいるが、その入り口はスマートフォンで簡単に操作できる決済サービスだった。

日本でも、対話アプリのLINEは、スマートフォン決済のLINEペイを運営しているが、将来的にはスマートフォン上で簡単に保険、投資信託などの商品の取引ができることを目指しており、決済業務はその入り口と位置付けている。

このように、決済業務がプラットフォーマーにとって金融業参入の入り口となりやすいのは、本業との親和性が非常に高いからに他ならない。アリババグループは、自社の顧客である個人と企業との間の代金の受払いを安全、確実に行うことを目指して、決済業務を自ら始めた。それは、電子商取引のプラットフォームの中に組み込まれていったのである。こうしてプラットフォーマーが提供する決済サービスは、中国ではクレジットカード、デビットカードによる決済等を代替していった。

プラットフォーマーが提供する決済プラットフォームは、既存の決済手段に乗っかる形のものと、自ら別の決済手段を提供するものとに、大きく2つに分かれる。前者はアップルペイ、ペイパルのように、クレジットカード決済を仲介するようなものだ。後者は、プラットフォーマー自身のシステム(プラットフォーム)で決済が行われるもので、アリペイ、テンセントペイなどがこれにあたる。

ただし現状では、どちらのタイプであっても既存の銀行決済制度がなければ決済が完結しない、という点では共通している。

プラットフォーマーは決済業務を入り口にさらに金融業務を拡大

しかし、プラットフォーマーは、決済業務にとどまることをせず、いわばその習性に従って業務分野を拡大させ続け、各業務間で相互に強い相乗効果を発揮することを目指す。これがプラットフォーマーの基本的なビジネスモデルの特徴である。そして、その相乗効果を発揮するための大きな武器となるのが、データである。

フェイスブックは、ディエム(旧リブラ)という決済業務に足掛かりを持てば、将来的には、その他の金融分野へと業務を拡大させていく可能性が考えられる。

ところで、プラットフォーマーが提供するMMFで急成長した代表的な例が、アリババの金融子会社でアリペイを運営するアント・フィナンシャが発売した「余額宝(ユエバオ)」だ。以下ではその詳細を見てみよう。

余額宝は、運用管理会社である天弘基金管理有限公司によって資金運営がなされている。この天弘基金が開示している運用契約書によると、余額宝の投資対象は、円滑な流動性を確保するためⅰ)現金、ⅱ)短期融資債券、ⅲ)1年以内の定期預金、ⅳ)償還期限が一年以内の中央銀行手形など、償還期間の短いものとなっている。また、流動性維持の観点から、各取引日における平均償還期間は120日間を超えないように運用されているという。

余額宝が成長する上で強い追い風となったのは、銀行間金利(インターバンク・レート)の上昇である。その水準が銀行預金金利を上回る局面で、銀行預金の魅力は相対的に低下し、銀行間金利に連動して金利が上昇するMMFの魅力が高まって、そこへの資金流入が加速したのである。

余額宝がスタートしたのは2013年6月のことだ。それが、2018年9月末時点で、余額宝の規模は1兆9,300億元(31兆2,000億円)にまで達している。わずか5年間で、世界最大のMMFにまで急成長を遂げたのである。

ちなみに、この余額宝は決済機能も内蔵している特別なMMFだ。ユーザーは、アリペイで決済する時に、余額宝で直接決済もできる。他方、アリペイアプリ内にプールされた資金には金利が付かない。そのため、多くのユーザーは、余額宝での運用に多くの資金を回してきた。

プラットフォーマーのデータ取得と分析

プラットフォーマーが金融業に参入する場合、既存の金融機関に対して非常に優位となる可能性がある。この点は、金融当局が強く警戒する点だ。既存の金融業がプラットフォーマーに駆逐されていった場合、金融システムの不安定化、金融サービスコストの上昇、顧客の利便性低下など様々な問題を生みかねない。

アリペイ、ウィーチャットペイの例に見られるように、本業である電子商取引、SNS、対話アプリ、ネット検索などのサービスと同じプラットフォーム(スーパーアプリ)上で、いわばワンストップでユーザーに金融サービスを提供できるという高い利便性がそこにはある。例えばネット・ショッピングと代金の支払い、対話アプリと個人間の送金などが、同じプラットフォーム上で可能となる。これは、ユーザーにとっては非常に便利なことだ。この利便性の高いサービスは、既存の金融機関では到底提供できないものである。

さらにプラットフォーマーにとって大きな武器となるのは、これらの複数のサービスの組み合わせから、大量の価値あるビッグデータを取得し分析できるということだ。商品購入、金融資産投資、ネット投稿、ネット検索など、個人の様々な行動についてのデータを組み合わせることで、個人の嗜好やニーズを多角的に捉え、それに基づいて個々のユーザーに有益なサービスを提供できる。一部の財務データしか入手できない金融機関には、こうしたことは到底真似できない。

そして、利便性の高いサービスを提供することで、いわゆるネットワーク効果が発揮され、プラットフォーマーは新規に参入する金融分野においても、ネット・サービスと全く同様に、いともたやすく寡占・独占的地位を確立していく可能性が高いのではないか。それは、より大規模のデータ取得と独占にもつながるものだ。

一般的に金融業は、他社の商品と差別化を進めることが比較的難しい、つまり他社と違った商品を提供することが難しいことから、競争条件は自ずと激しくなりやすい。その結果、寡占・独占は起きにくい業種、と長らく考えられてきた。ところが、プラットフォーマーという新たな業態の参入によって、そうした従来の常識が一変する可能性が出てきたのだ。それこそが、既存の金融機関、そして金融当局にとっては非常に大きな脅威なのである。

中国の当局は、アリペイを中心に金融プラットフォーマーの規制を急速に強化している。その背景には以上のような点がある(コラム「中国アント・グループへの規制強化で焦点となる個人データの利用」、2021年1月14日)。

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