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低所得国へのワクチン分配と米中ワクチン外交の行方

2021/01/22

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遅れる低所得国でのワクチン確保と接種

1月20日に正式に就任した米国のバイデン新大統領は、その初日に連邦施設でのマスク着用義務化や世界保健機関(WHO)の脱退撤回を決めるなど、コロナ対応重視の姿勢を内外にアピールした。昨年7月にトランプ前大統領は、中国寄りとの理由でWHOの脱退を決めていた。

さらにバイデン政権は、WHOが主導して新型コロナウイルスのワクチンを共同調達し、新興国にも公平に分配する国際的な枠組みである「コバックス(COVAX)」に参加する考えを正式に示している。

世界各国でワクチン接種が始まっているが、財政余力に乏しい低所得国でいかにワクチン接種を広げていくかは、主要国にとって大きな課題となっている。WHOのテドロス事務総長による1月8日時点での説明によると、ワクチン接種を開始したのは高所得の36か国と中所得の6か国のみであり、低所得国での接種はまだないという。

コバックスの仕組みがある下でも、ワクチンの確保についても、高所得国に大きく偏っているのが現状だ。米ノースカロライナ州のデューク大学国際保健イノベーションセンターによると、高所得国(人口約10億人)は42億回分のワクチンを確保した。それとは対照的に、中低所得国が確保したのはわずか6億7,500万回分にとどまっているという(注)。低所得国の国民にワクチン接種が行き届くまでに、最大で3年程度かかるとの見方もあり、その場合、世界が新型コロナウイルスに打ち勝つまでには、まだかなりの時間を要することになる。

WHOのテドロス事務総長は一部の国・企業を強く批判

WHOのテドロス事務総長は、高所得国が自国重視でワクチンを買い占めていることが、コバックスを通じた新興国向けワクチンの確保を妨げている、としている。さらに、一部の国や製薬会社は、コバックスの枠組みを避けて他国との相対取引を優先させ続けており、またその際にワクチンの価格を釣り上げていることが、コバックスの枠組みを通じたワクチン確保を難しくしていると非難している。

また、一部のワクチン開発会社や国はWHOに必要な情報を提供しておらず、WHOが低所得国に代わって安全性などを検証する作業ができていない、とも指摘している。ワクチン使用の是非は、通常は各国が行うが、自前で審査ができない新興国は、WHOの判断を参考にしているという。その判断が妨げられれば、コバックスの枠組みを通じた低所得国でのワクチン接種も進まないのである。

中国はコバックスに参加している一方、自国製ワクチンを他国に提供する二国間交渉を急速に拡大させている。テドロス事務総長の批判は、中国を念頭に置いたものであったのかもしれない。

米中は「ワクチン外交」で火花を散らすか

中国は、低所得国向けに自国で生産したワクチンの提供を約束する「ワクチン外交」を展開し、友好国の拡大に向け一気に動いている。そうした動きに、バイデン新大統領がどう対応するかは、今後の大きな注目点である。

米国は、当面はワクチンを他国に供与する余裕はなく、中国の「ワクチン外交」に対して静観するしかない状況だろう。しかし、ワクチンを他国に供与する余裕が生じてきた際には、中国に対抗して「ワクチン外交」を繰り広げるだろうか。そうした行動は、公平なワクチンの分配というコバックスの精神に反することになる。

バイデン新大統領は20日の就任式で、国際協調を重視する姿勢を掲げた。その国際協調が、対中国を意識した同盟国との協調に留まるものなのか、それとも、世界のリーダーとして世界共通の課題への取り組みを、他国と協調しつつ主導する意味での国際協調なのか。バイデンの国際協調姿勢の本質が、ワクチンを巡る対応で、早期に見えてくるかもしれない。

(注)"Low-income countries trail in global vaccines race", Financial Times, January 20, 2021

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