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米個人投資家の批判の対象はオンライン証券ロビンフッドにも

2021/02/01

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米国株式市場はシーソー状態が続く

個人投資家による特定銘柄での投資行動が、米国株式市場全体を大きく揺るがす事態が続いている(コラム「ヘッジファンドに敵対し暴走する米個人投資家」、2021年1月28日、「決め手を欠く米個人投資家の株価吊り上げ行動の規制」、2021年1月29日)。

1月29日には、株価が年初から実に1,500%以上急騰していたゲーム販売大手のゲームストップの株価が、前日比で一時2倍超となった。個人投資家が多く利用するオンライン証券のロビンフッドが取引制限を緩和したことで、個人投資家の買いが再び活発化したのである。それとは逆に、ダウ平均株価は前日比-620.74ドルの大幅安となり、3万ドルを割り込んだ。

前日の28日には、ロビンフッドが取引制限を導入したことを受けて、ゲームストップの株価は急落する一方、ダウ平均株価は上昇していた。さらにその前日は大幅安だった。このように、情勢は日替わりで変化している状況だ。

個人投資家が結託して株価を吊り上げているゲームストップなどの銘柄の株価が上昇すると、それを空売りしていたヘッジファンドが、ショート・スクイーズ(空売り勢の損失覚悟の買い戻し)に追い込まれる。そこで巨額の損失が生じ、運用パフォーマンスが大幅に悪化していることが、ヘッジファンドからの資金流出を招き、それに備えて、ヘッジファンドがその他の主要銘柄の株式を換金売りするとの観測が、このようなシーソー状態の株価動向を生んでいる面があるのだろう。

味方のロビンフッドに裏切られたと感じた個人投資家

特定株価の急騰を受けて、ロビンフッドは27日に、高騰する一部銘柄の取引規制を導入した。しかし、これが個人投資家の強い反発を招き、翌日には規制の緩和に追い込まれたのである。

個人投資家にとっては、個人投資家を出し抜いて巨額の利益を上げてきたヘッジファンドをショート・スクイーズに追い込んで懲らしめ、「株式市場の民主化」を進めているという意識が強い。それを味方であるはずのロビンフッドに邪魔されたと感じ、強く反発したのだろう。

金持ちから盗んで貧乏人に分け与える伝説上の義賊のロビンフッドから名をとったこのオンライン証券は、無料の手数料で庶民の投資を支え、「株式市場を民主化する」ことを標榜してきた。そのため、今回の取引規制の導入によって、個人投資家らはロビンフッドに裏切られたと感じたのだろう。また、ロビンフッドの株主にヘッジファンドが名を連ねていることも、個人投資家は問題視し始めている。

ちなみに、ロビンフッドは、個人投資家からの株式取引注文を、機関投資家のHFT(高速・高頻度取引)業者に流し、彼らから得るリベートによって、個人投資家に無料の取り引き手数料を提供している。このロビンフッドのビジネスモデルのもとでは、個人投資家と機関投資家とはいわば持ちつ持たれつの関係にあるはずだ。しかし、この点は、果たして素人個人投資家にどれだけ認識されているだろうか。

個人投資家の結託を取り締まることは簡単ではない

株価の大幅な変動を受けて、米証券取引委員会(SEC)は27日に続いて29日にも声明を発表している。この日SECは、特定銘柄の取引を「不当に阻害する」可能性のある行為を調査し、不正行為を注意深く監視していく、と発表した。また、「中核となる市場インフラは今週の異常な出来高でも耐性があると実証されているが、株価の極端なボラティリティは投資家に急速かつ深刻な損失をもたらし、市場の信頼を損なう可能性がある」としている(ロイター通信)。

このようにSECは、個人投資家が結託して株価を吊り上げるような行動を強く牽制している。しかし、それらを直接取り締まることは簡単ではない。証券会社やファンドのトレーダーが結託して同一行動をとれば、それは「コルージョン(共謀)」と言われ、違法行為となる。しかし、今回のように個人投資家がSNSのレディットといういわば公開の場で特定銘柄の株式購入を呼びかける投稿をし、多数の個人投資家がそれに応じるケースが、果たして違法な「コルージョン(共謀)」や「株価操作」にあたるかどうかは不明である(注1)。

株式市場の安定性、信頼性が損なわれる懸念

そうしたもとでは、SECは市場の安定回復、信頼性回復のために具体的な行動を迅速にとることは簡単ではない。

証券会社が個人投資家の注文を機関投資家のHFT業者に流すことで、HFT業者はそれを先回りする取引で、利益を挙げているのではないか、あるいは、証券会社等が公開市場ではなく非公開の取引所で売買を行う「ダークプール」のもとで、個人投資家にとって最良の取り引きが執行されていないのではないか、といった問題は以前から指摘されてきたところだ。

今回の問題をきっかけに、このように個人投資家が株式市場で不利な状況に置かれていないのかどうかを、しっかりと検証することは、市場の信頼性を高めることにも役立つだろう。

しかし一方で、個人投資家がSNSを通じて結託して株価を吊り上げるような行動を放置し続ければ、株式市場の安定性、信頼性は損なわれてしまうのではないか。また、株式市場のボラティリティの極端な上昇は、最終的には個人投資家に大きな損失を生じさせ、深刻な社会問題に発展するリスクがあるのではないか。

議会民主党は個人投資家寄りか

今後注目したいのが、米国議会の動向だ。民主党政権が成立し、議会でも民主党が事実上両院を制したことが、この問題の帰趨に影響してくる可能性がある。

米下院金融委員会と上院銀行委員会は28日に、米株式市場の現状を検証するため公聴会を開くと発表した。下院金融委員会のウォーターズ委員長(民主党)は「ヘッジファンドの非倫理的な行為が最近の市場のボラティリティに直接つながったことに対処する必要がある。また市場全般や、ヘッジファンドおよびその金融パートナーらが他者に犠牲を払わせ自ら利益を得るため、いかに市場を操作してきたかについて、検証する必要がある」と述べている。

その上で、公聴会では「空売り、オンライン取引プラットフォーム、(取引の)ゲーム化、これらが資本市場や個人投資家に及ぼすシステミックな影響」に焦点をあてるとしている。

また、民主党のオカシオコルテス下院議員はツイッターで、ロビンフッドなどの取引制限措置について、「ヘッジファンドが自由に取引できる一方で、個人投資家の株式購入を妨げる」措置であり、「容認できない」と批判。そして、議会はさらに情報を把握する必要があると書き込んだ(注2)。

このように、両院を制している民主党は、個人投資家に好意的である一方、ヘッジファンド等、機関投資家には批判的である。このような個人投資家寄りの議会のムードの下では、株式市場の安定と信頼の回復に向けた迅速な対応がとられないのではないか、と危惧される。

バイデン政権は、金融分野においてはトランプ政権のもとでの規制緩和策を転換し、格差縮小に資するような規制の強化を模索している。庶民あるいは少数派寄りの政策だ。ただし、株式市場の混乱が続けば、個人投資家に不人気な規制の導入に舵を切ることを強いられる可能性も出てくるだろう。

(注1)「レディット」の情報で売買、乱高下招く―米株揺さぶるSNS投稿、当局も憂慮、社会問題に(真相深層)」、日本経済新聞、2021年1月30日
(注2)「米議会、ゲームストップ株取引や株式市場の現状巡り公聴会開催へ」、ロイター、2021年1月28日

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