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企業破綻と失業の増加で日本経済は新たな苦境の局面に(10-12月期GDP統計)

2021/02/15

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コロナショック前の水準回復の時期が見えない

2月15日に内閣府が発表した2020年10-12月期GDP統計・一次速報値によると、実質GDPは前期比+3.0%、年率換算で+12.7%と、前期の年率+22.7%に続いて2四半期連続のプラス成長となった。10-12月期実質GDPの事前予想の平均値は、前期比年率+8.0%程度(日本経済研究センターの調査による)だったが、実績値はこれを上回った。輸出、個人消費、設備投資などが、いずれも事前予想を上回る増加率となった。

コロナショックによって日本経済は2020年4-6月期に戦後最大の大幅マイナス成長に陥ったものの、今回の数字は、その後昨年末にかけて、日本経済が持ち直し基調を辿ったことを裏付けている。

ただし、10-12月期の成長率が前期と比べると顕著に鈍化したことは、実質GDPがコロナショック前のピークの水準を取り戻すまでには、なおかなりの時間を要することを示唆している。2020年10-12月期時点で、実質GDPの水準は依然としてコロナショック前のピークの水準を2.9%も下回っているのである。その水準を回復するのは2024年10-12月期、つまりあと4年程度かかると予想される。

内需の回復は依然として力強さを欠く

10-12月期GDP統計の大きな特徴は、成長が輸出に強く牽引された点だ。実質輸出は前期比+11.1%と、前期を上回る増加率となった。前期に続いて自動車輸出の増加が際立った。さらに地域別には、輸出の増加は前期の米国向けから欧州、アジア地域へと広がりを見せている。

好調な輸出とは対照的に、内需の回復はなお力強さを欠く。10-12月期の実質個人消費は前期比+2.2%と前期の同+5.1%の増加率の半分以下にとどまった。また、実質設備投資は同+4.5%と3四半期ぶりにプラスに転じたものの、反動増という要素を加味すると、増加率はなお低めだ。

GOTOキャンペーンのプラスの影響は多少あったとみられるが、年末にかけて感染拡大傾向が強まったことが、個人消費の抑制につながった。さらに、冬のボーナスが大幅に減少するなど、コロナショックによる雇用情勢の悪化が、時間差を伴って所得環境の悪化につながってきたことも、個人消費を抑制しているだろう。10-12月期の実質雇用者報酬は前年同期比-2.1%と、依然低迷している。

また、個人消費の弱さなどを反映して、国内の物価動向を反映する国内需要デフレータは前期比-0.6%と前期の同+0.2%から下落に転じた。消費者物価統計などで既に確認されているように、国内物価がマイナスの基調に陥ったことをこの数字は裏付けている。

日本の景気は二番底へ

2020年7-9月期、10-12月期と持ち直した日本経済は、2021年1-3月期には再びマイナス成長に陥る可能性が高い。いわゆる「景気の二番底」である。現時点での2021年1-3月期実質GDPの予想の平均値は、前期比年率-5.5%程度である(日本経済研究センターの調査による)。

これは1月上旬に緊急事態宣言が再発令された影響によるところが大きいが、それ以前の昨年末時点で、既に景気持ち直しのモメンタムは明らかに低下していた。それは、12月の欧米向け輸出、自動車輸出の増勢鈍化などで確認できる。それらを反映して、11月、12月の鉱工業生産も2か月連続で前月比減少していたのである。

景気動向を敏感に反映する景気ウォッチャー調査でも、現状判断DIは10月をピークに低下傾向に転じていた。特に、家計動向現状判断DIの下振れが際立っている。このように、コロナショックの後遺症からなお立ち直れていなかった日本経済に再び大きな重しとなったのが、緊急事態宣言の再発令だったのである。

緊急事態宣言は1月8日に首都圏4都県を対象に始められ、13日には7府県が追加されて合計11都府県が対象となった。その後、感染拡大に歯止めがかかってきた栃木県を除いた、10都府県で1か月間延長された。

その結果、個人消費の減少分は、2か月間の合計で5.8兆円に達する計算だ。これは、1年間の名目GDPの1.0%に相当する規模である。また、5.8兆円の個人消費が失われることで、失業者は22.9万人増加し、失業率は0.3%上昇する計算となる。

「まん延防止等重点措置」に名を借りた事実上の緊急事態宣言は長く続く

この先、緊急事態宣言は地域毎に段階的に解除されていくだろう。しかしその後には、インフルエンザ特措法改正に盛り込まれた「まん延防止等重点措置」が、多くの地域に適用されることが予想される。これは、緊急事態宣言が発令されていない状況においても、それに近い私権制限を含む規制措置をとることができるようにする措置だ。実質的な効果は緊急事態宣言にかなり近いものと言えるだろう。

緊急事態宣言は感染拡大のリスクが最も高いステージ4を脱し、ステージ3に移行させる目的で発令されるものであるのに対して、まん延防止等重点措置はステージ3相当での適用が想定されている。しかし、ステージ2のレベルでも、まん延防止等重点措置が適用される可能性があるという。感染拡大がかなり抑制されてもなお、まん延防止等重点措置は残るのだろう。

その結果、まん延防止等重点措置に名を借りた事実上の緊急事態宣言は長く続くことが予想される。それは、4-6月期以降のGDP統計にも悪影響を与えるはずだ。

企業破綻と失業の増加で日本経済は新たな苦境の局面に

コロナショックで売り上げが落ちる中でも、今までのところ企業の倒産件数は低位で推移し、また失業者の急増も避けられている。多くの企業がその事業と雇用を維持してきたのは、政府による積極的な企業支援の効果によるものだけではない。「感染拡大が比較的短期間のうちに終息すれば、売り上げも元に戻る」と期待し、なんとか耐えてきたからである。

ところが、今回緊急事態宣言が再発令され、さらにまん延防止等重点措置のもとで緊急事態宣言に近い状況が昨年春以上に長期化すれば、そうした期待は失望へと変わり、いよいよ廃業を決断する企業が顕著に増えてくるだろう。今春には、政府による企業向けの実質無利子無担保融資制度で、1年の借入れ期限が切れるところも出てくる。

企業破綻と失業の増加は、コロナショックの後遺症から抜け出していない日本経済にさらなる重しとなり、回復の一段の妨げとなるだろう。コロナショック後の日本経済は今年、新たな苦境の局面に入っていくのである。

そのもとで、政府には、企業・雇用を支援するセーフティーネットを現状以上に強化することが求められる。政府は時短を要請する飲食業に協力金を支払うことに加えて、その影響が及ぶ飲食業の取引先にも給付金を支給するが、その金額は小さい。飲・食料品製造業や農業など飲食業の取引先で破綻が増加し、それが雇用情勢の悪化につながってくることも懸念されるところだ。

政府の支援は、飲食業とその取引先だけでなく、もっと幅広く、全業種を対象としたより手厚いものとすべきだ。

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