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FRBの決済システム障害とデジタルドルの議論

2021/03/01

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米国の決済システムに広範囲な障害が発生

米連邦準備制度理事会(FRB)が運営する資金決済システム「FEDワイヤー・ファンズ」などが、2月24日に3時間以上にわたるシステム障害に見舞われた。影響を受けたのは「FEDワイヤー・ファンズ」以外にも、金融機関への現金供給を支援する「FEDキャッシュ」、FRBが運営する「全米決済サービス(NSS)」、米国債など政府証券の発行・決済・振替サービス「FEDワイヤー証券サービス」、一部の小切手決済サービスなど、かなりの広範囲に及んだ。FRBはウェブサイトで「運用上のミスが原因だったことが判明」と説明しているが、詳細は不明だ。

FEDワイヤー・ファンズは、1日平均で83万5,000件以上の取引を処理し、1日平均の取扱高は約3兆4,000億ドルに達するという(2020年12月時点)。他方で、民間の決済システムCHIPSは問題なく稼働を続けた。CHIPS1日平均の取扱高は約1兆5,000億ドルだ。

米国でのデジタルドル発行の議論

今回のシステム障害を受けて、FRBが中銀デジタル通貨・デジタルドルを発行し、より頑健な決済システムを構築すべき、との議論も改めて出てきている。米国は、従来から中銀デジタル通貨の発行に否定的な姿勢を明確にしてきた。2019年12月の議会証言で当時のムニューシン財務長官は、「今後5年間に米国が中銀デジタル通貨を発行する必要はないとの認識で、FRBと一致している」と言い切っていた。

ただし、米財務省とFRBとの間には温度差があり、FRBは中銀デジタル通貨の調査・研究の目的から、国際決済銀行(BIS)と日本や欧州などの中央銀行が参加する中銀デジタル通貨の調査・研究、意見交換のグループに、2020年に遅れて参加している。

2月23~24日に行われた議会証言でパウエルFRB議長は、デジタルドルは「非常に優先度の高いプロジェクトだ」と語った。従来よりもやや前向き感が強まったようにも思われる。しかし一方で、「発行すべきかどうかは非常に慎重に、慎重に検討している」とも述べている。

パウエル議長は、デジタルドル発行のメリットとしては、銀行口座を持てない低所得者層らも活用できるという金融包摂の観点を強調した。他方では、デジタルドルの課題、問題点も多く列挙している。「デジタルドルが民間銀行からの資金流出を招き、経済全体の信用創造に問題をもたらす可能性がある」、「技術、政策面で重大な問題がある」などと述べた。後者については、マネーロンダリング(資金洗浄)への悪用といったリスクなどが念頭にあると思われる。

米財務省がデジタルドルの発行に否定的な理由

米財務省が、デジタルドルの発行に否定的なのは、現在の銀行国際送金を通じて、米国がその情報を把握し、また経済制裁などに利用できるという特権を自ら崩してしまう可能性があることを警戒しているためであろう。また、海外でのデジタルドルの利用が拡大すれば、ドルの価値が下落する可能性が高まること、通貨の信用力が低い国ではドルが広く流通する「ドル化」を加速させてしまうことなども警戒しているだろう。

こうした米財務省の慎重姿勢は、政権交代によって多少変化する可能性も考えられる。リベラル色が強い現在のイエレン財務長官は、「決済手段や銀行口座を持たない人に、デジタルドルは役立つ」と評価している。

しかし、米国が近い将来にデジタルドルの発行を決める可能性は低いだろう。中銀デジタル通貨の発行に向けた姿勢は、欧州中央銀行(ECB)など欧州の銀行と比べてかなり慎重であり、また日本銀行よりも慎重であることは変わらない。

それでも、将来、米国が中銀デジタル通貨の発行に前向き姿勢に転じる場合には、それは世界の中銀デジタル通貨の発行をかなり加速させる、ゲームチャンジャ―となる可能性は高いだろう。

(参考資料)
"Derby’s Take: Fed Payment System Crash Puts Spotlight on Digital Dollar Project", Wall Street Journal, February 26th, 2021
「FRBの決済システム「FEDワイヤー」に障害 3時間後に復旧」、ロイター通信ニュース、2021年2月25日

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