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総裁発言で不確実性が高まる日銀『金融緩和の点検』

2021/03/05

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変動幅上下0.3%程度への拡大を明確に否定

日本銀行の黒田総裁は5日の衆院財務金融委員会で、3月19日の金融政策決定会合で発表する予定の「金融緩和の点検」に関して、やや踏み込んだ発言を行ったことで注目を集めた。この発言は債券市場、株式市場に好影響を与えている。

総裁は10年国債利回りを0%程度に誘導するイールドカーブコントロールについて、「変動幅を(現状の上下0.2%程度から)上下0.3%程度に拡大する必要があるとは考えていない」と、以前にはなかった踏み込んだ発言をした。

市場では以前から、変動幅を現状の上下0.2%程度から0.3%程度に拡大するとの観測が出ていたが、総裁発言はこの観測を明確に否定したものだ。「金融緩和の点検」を2週間後に控えたタイミングでの発言であることを踏まえると、実際に、「金融緩和の点検」で変動幅を0.3%程度に拡大させる可能性は低下した、と見るべきだろう。

総裁発言は、足もとでの世界的な長期金利上昇とそれを受けた株価の下落などの金融市場の動揺に対する配慮を反映したもの、と考えられる。「金融緩和の点検」で日本銀行が長期金利の上昇、イールドカーブのスティープ化を容認するとの観測を抑えることで、金融市場の安定確保に動いたのである。市場では、「長期金利の変動幅拡大などに向けた日本銀行の姿勢がトーンダウンしている」と受け止められている。それが債券市場、株式市場に好影響を与えたのである。

足もとでの金融市場の動揺を受けて、日本銀行は「金融緩和の点検」とその後の政策修正の内容を調整し始めた可能性が出てきた。その結果、「金融緩和の点検」、政策修正の内容については、不確実性はより強まった感がある。

基本的な狙いやコンセプトは変わらず

しかしながら、「金融緩和の点検」について、日本銀行の基本的な狙い、コンセプトなどは変わらないはずだ。それは、ポストコロナを睨んだ政策の修正であり、また正常化である。

「2%の物価目標に向けたモメンタムは一旦失われた」として、2%の物価安定目標達成を目指す通常の金融政策は一時的に放棄し、日本銀行はこの1年間は、特別オペなど政府と協調して企業と雇用を守りぬく政策に注力してきた。しかし、そうした中、物価上昇率は大きく下振れ、これ以上2%の物価目標の棚上げを続けることは難しくなってきたのではないか。2%の物価目標の妥当性や目標達成の失敗についての批判が高まる前に、先手を打って2%の物価目標の妥当性を再度強調する、一種の仕切り直しが必要となったのである。

「金融緩和の点検」は、コロナ禍のもとでの特別な政策を、2%の物価目標達成を目指すコロナ以前の政策に戻す正常化のきっかけとなるのだろう。これはポストコロナ対応ともいえる。

日本銀行は、「金融緩和の点検」で2%の物価目標は妥当なものであり、また達成可能なものであることを改めて確認した、と説明した上で、それを着実に達成するために「より効率的で持続的な政策」に微修正する、と前向き感を最大限アピールするハト派色の強い説明をするだろう。

実際には、政策修正の本当の狙いは、市場機能や日本銀行の財務への悪影響を低下させるため、国債やETFなどの買入れを減少させること、イールドカーブのスティープ化を通じて、金融機関の収益改善を助けることにあると思われる。これはいわゆる柔軟化策であり、副作用対策であり、また事実上の正常化策である。

金融市場の動揺を受けて微修正か

しかし日本銀行が対外的に説明する際には、株価が上昇している際にはETFの買入れを抑え、また国債市場が安定している際には国債、特に長期・超長期ゾーンの国債の買入れを減らすことで、将来、株価が下落する際、あるいは長期金利急騰など債券市場が混乱する局面では、国債、ETFの買入れを増やすのりしろを作っておく、メリハリの利いた効果的な政策に修正した、とするのではないか。また、長期金利の変動拡大を容認する際には、それは流動性など市場機能を高める、と説明するだろう。

総裁は、「コロナ禍ではイールドカーブを低位に安定させることが重要」とも説明している。確かに、経済環境が急激に悪化する中で、国債発行が急増する局面では、日本銀行が国債買入れを増やして、イールドカーブのスティープ化を回避することが求められただろう。

しかし、ポストコロナの下では、経済の改善と足並みを揃える形でのイールドカーブの秩序だったスティープ化は、金融機関の収益改善を助け、経済活動にもプラスに働く。筆者は、10年よりも短い金利の上昇を促し、銀行の収益改善を日本銀行が狙っている可能性も考えている(コラム「日銀『金融緩和の点検』と長期金利目標短期化の可能性」、2021年2月12日)。

「金融緩和の点検」、政策の修正の本質、骨格は以上のようなものだろう。日本銀行が10年国債金利の変動幅を上下0.3%程度に拡大する可能性は低下したが、変動幅の概念をなくす、あるいは0%程度の目標の意味合いを弱めることで、将来的にはイールドカーブがスティープ化する余地を確保する可能性もあるだろう。

いずれにせよ、残り2週間、足もとの金融市場の動向を睨みつつ、最終着地点を日本銀行は探ることになるだろう。

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