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『金融緩和の点検』で日本銀行は長期金利の変動拡大を認めるか

2021/03/09

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長期金利は「もっと上下に動いてもよい」

3月19日の金融政策決定会合で、日本銀行は「金融緩和の点検」と、それを踏まえた政策手段の修正を発表する。日本銀行は現在、そこに向けて市場の地均しを行っているところだ。それは総裁、副総裁の講演、国会での答弁を通じて行うことが多い。また、金融政策決定会合が近づいてくれば、例えば今週からは、直接メディアにメッセージを伝える可能性もある。

そうした日本銀行が活用する情報発信、市場の地均しの機会の一つであったのが、8日の雨宮副総裁の講演だ。講演内容で特に注目したいのは、講演テキストではイールドカーブ・コントロールについて、「金利の大幅な変動は、望ましくない結果をもたらす可能性がありますが、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに、国債市場の機能度にはプラスに作用する可能性がある」と述べている点だ。さらに、「もっと上下に動いてもよい」とも発言した。

3月5日に黒田総裁は、「(長期金利の)変動幅を(現状の上下0.2%程度から)上下0.3%程度に拡大する必要があるとは考えていない」と踏み込んだ発言を国会でしていた。この発言を受けて、それ以前に市場に浮上していた「変動幅の上下0.3%程度への拡大」との観測が一気に萎んでしまったのである。今回の雨宮副総裁の発言は、黒田総裁の発言と食い違っているようにも見える。黒田総裁の発言を受けて債券市場が大きく反応し過ぎたため、市場の期待を修正した可能性もあるだろう。

金利の変動レンジは拡大しないが、変動の拡大は促すのだとすれば、それは、変動レンジを撤廃する、という意味であるかもしれない。確かにそれも選択肢の一つだ。

長短金利の引き下げの言及でハト派色を演出か

ただし日本銀行が変動幅のレンジの撤廃を決めると、長期金利が顕著に上昇してしまう可能性が高い。多少長い目で見れば、それは金融機関の収益にプラスであり、金融仲介機能の強化の観点から、日本銀行がまさに狙っているところであろう。

しかし、世界的に長期金利の上昇が警戒されている中、ごく目先については、長期金利が顕著に上昇する事態は、日本銀行としてはできるだけ避けたいところだ。そこで、長期金利の上昇余地を生み出すタカ派色を帯びるそうした柔軟化措置と合わせて、金利を引き下げる可能性を示唆することで、一方でハト派色を演出し、いわばバランスをとるという工夫をするかもしれない。

テキストの中では、情勢の変化に応じた機動的かつ効果的な対応の一つとして、「長短金利の引き下げ」を挙げている。実際に長短金利目標を引き下げる可能性は低いと考えられるが、以上のような狙いから、その記述は「金融緩和の点検」にも盛り込まれるだろう。

注目されるのは、「長短金利の引き下げは、金融仲介機能に及ぼしうる影響にも配慮しつつ実施できるようにしておくことが適当」としている点だ。これが何を意味しているのかは明らかではない。日本銀行は、政策金利や長期金利目標を下げても銀行の利鞘が大きく悪化しないような仕組みを何か検討しているのかもしれない。

実際に、長短金利が引き下げられる可能性は低いが、その場合でも金融機関の収益に与える悪影響、副作用が軽減される仕組みを導入すれば、「長短金利引き下げが従来よりも容易になる」と市場は考えるだろう。これが長期金利上昇リスクを抑えることに貢献する可能性がある。また、むしろ「金融緩和の点検」を受けて、長期金利が低下するきっかけとなる可能性もあるのかもしれない。

株下落時に多く買えるように平素はETFの買入れを抑える

点検の考え方について、テキストでは3つのポイントが説明されている。第1は、2%の物価目標達成のために、現在の金融政策の枠組みを維持するのが適当であること、第2は、平素は平均コストをできるだけ抑える運営で持続性を高めること、第3は、必要が生じた場合には、機動的かつ効果的に対応できるようにしておくこと、である。

第2、第3については、主に、ETFや長期国債の買入れの柔軟化を意味するのではないか。株価が上昇している局面ではETFの買入れ額を今よりもかなり絞る、また債券市場が安定している局面では、長期国債の買入れ額を今よりもかなり絞る、という修正である。それによって、ETFや長期国債の買入れの持続性が高まる、と日本銀行は説明するだろう。

また、株価が大きく下落する局面や長期金利が大きく上昇する局面では、ETFや長期国債の買入れを増やす余地が生じるとし、経常的に買入れているよりも、メリハリを利かせたこうした買い方の方が、政策効果は高まる、との説明をするのではないか。

それでも、トータルで見れば、従来よりもETFや長期国債の買入れ額は縮小することが予想される。政策手段の修正の本当の狙いは、やはり資産買入れ減少を通じた副作用の軽減にあるのだろう。

「謎解き」はまだ続く

イールドカーブ・コントロールの欠点は、長期金利の安定を確保するために、本来とは逆の方向の金融政策を強いられるというところにある。例えば、米国経済が悪化し、米国で長期金利が低下、日米金利差縮小から円高が進行するデフレ的な局面でも、日本の長期金利が目標水準あるいはレンジを大きく下振れないように、日本銀行は長期国債の買入れ額を減らすことが求められる。しかしこれは金融緩和の縮小、あるいは金融引き締めとなってしまうのである。

こうした矛盾を避けるためには、長期金利が低下しても長期国債の買入れ額を減らさずに、長期金利の下振れをより容認できる環境を整えることが必要となる。この点から、冒頭で述べた長期金利の変動幅拡大は、環境が変化した際の機動的な対応を可能とするものとなる。

日本銀行が小出しに示すこうした情報から、「金融緩和の点検」を受けた政策修正の内容を推し量る、いわば「謎解き」は、3月19日まで続くことになる。

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