フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 金融緩和の点検と日銀当座預金制度見直しの可能性

金融緩和の点検と日銀当座預金制度見直しの可能性

2021/03/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

増加する「金融緩和の点検」の報道

日本銀行が「金融緩和の点検」を公表する3月19日の金融政策決定会合(2日目)が近づく中、その内容に関するメディアの報道も増えてきた。11日にロイターは、「当座預金の3層構造の見直しを検討する見通し」と報じている。また、毎日新聞は、「ETF(上場投資信託)の買入れで、「年6兆円ペース」としている目標を削除する方向」と報じている。

金融政策決定会合の1週間程度前に出てくる、具体的な政策変更に関するメディアの一斉報道は、日本銀行の執行部が意識して提供している情報がベースとなっている可能性がある。それには、政策変更が市場の混乱を招かないように、いわゆる地均しをする日本銀行の配慮と、サプライズの決定との批判を招かないようにする狙いとがある。

しかし、今回のように個別のメディアが報道する場合、それは、日本銀行が意識して情報を提供しているタイプではない。各メディアが同様の内容を一斉に報道する場合と比べれば、情報の信ぴょう性は相対的には高くないのが普通だろう。しかし、そうした中でも、後になって「正しかった」となる報道もあることは確かだ。

ロイターの「当座預金の3層構造の見直しを検討する見通し」との報道は、8日の雨宮副総裁の講演内容と整合的に見える(コラム「『金融緩和の点検』で日本銀行は長期金利の変動拡大を認めるか」、2021年3月9日)。講演テキストでは、「長短金利の引き下げは、金融仲介機能に及ぼしうる影響にも配慮しつつ実施できるようにしておくことが適当」との記述がある。

日本銀行は市場の混乱を回避するために最大限配慮

金融緩和の点検で日本銀行は、ETFや国債の買入れ姿勢をより柔軟化し、また長期金利の変動をより促す措置を講じる可能性が見込まれる。多少長い目で見れば、それらはETFや国債の買入れ額を減らす、あるいはイールドカーブのスティープ化を通じて金融機関の収益環境を助けることになる、ということを期待する、副作用軽減策であり、事実上の正常化策となるだろう。

しかし、そうした日本銀行の真の狙いを金融市場が正しく理解して、長期金利上昇、円高、株安など悪い反応を生じさせることを、日本銀行は避けようとしている。そこで、柔軟化措置を講じることで、長期金利が上昇する際には国債買入れを増やす、株価が下落する局面ではETFの買入れを増やすなど、一方向の可能性のみを強調し、前向き感を最大限アピールして、バランスをとろうとするだろう。

そして、長期金利がより大きく変動するような措置を講じる場合には、それによって長期金利が即座に上昇しないように、一方で、長短政策金利を引き下げる可能性を示唆することで、やはり市場の期待をコントロールしようとするだろう。その際に、金融機関の収益への悪影響に配慮して、日本銀行は長短政策金利を引き下げるのは実際には難しい、と市場が考えれば、期待のコントロールは難しくなる。そうした市場の理解は正しく、実際には、日本銀行が長短政策金利を引き下げる可能性はかなり低いだろう。しかし日本銀行としては、市場の安定維持のためには、そうしたことが可能であることを示す、市場に信じてもらう必要があるのだ。それは、未然に円高進行のリスクを減らすことにも貢献するだろう。

階層型日銀当座預金制度は金融機関の収益に配慮したと日本銀行は説明

話が長くなったが、先に述べた雨宮副総裁の発言の背景にあるのは、こうした考え方なのだろう。日本銀行は、短期政策金利を引き下げる場合でも、金融機関の収益に与える悪影響を減じるような措置を講じる可能性がある。それが、「当座預金の3層構造の見直し」というロイターの報道の主旨である。

ただし、そもそも2016年1月に日本銀行が発表した階層型の日銀当座預金制度は、政策金利残高に付される政策金利をマイナスに引き下げても、銀行の収益に与える悪影響が軽減される工夫が施されている、と日本銀行は説明していた。当座預金の中のごく一部にだけマイナス金利を適用し、他は0%あるいは0.1%の付利としたのである。

しかし実際には、政策金利残高の-0.1%の金利が、多くの金融資産の金利や貸出金利を押し下げたため、金融機関の利鞘は縮小し、収益環境は悪化してしまったのである。

マイナス金利の形骸化をさらに進めるか

政策金利を引き下げても、日銀当座預金の運用利回り全体を低下させないための一つの策は、政策金利残高を極端に小さくすることだ。そうすれば、金融機関にとって、少なくとも日銀当座預金からの収益は大きく減少しない。この場合、無担保コールレート(翌日物)は現状よりも上昇し、政策金利の水準との乖離が広がることになる。それは、政策金利の形骸化を意味しよう。

ただしそうなれば、事実上の金融引き締めと指摘されるため、金融市場の安定を重視する日本銀行は、簡単にはこの策は採用できないかもしれない。

それでも、コールレートが上昇すれば、イールドカーブ全体は上方にシフトし、金融機関の収益を助けることになる。3月に日本銀行は特別当座預金制度を導入し、経費削減などに積極的に取り組む地域金融機関に対して、日銀当座預金の金利に0.1%の上乗せ金利を適用する。これは、地域金融機関への事実上の補助金であり、またマイナス金利政策を形骸化させる措置である。

その延長線上として、日本銀行が「金融緩和の点検」で、政策金利残高を極端に小さくするという形で、当座預金制度を見直す可能性は、完全には否定できないのではないか。少なくとも、当座預金制度に何らかの修正を施す可能性は十分に考えられるところだろう。

冒頭の話に戻れば、日本銀行の執行部が意識して「金融緩和の点検」の具体的な措置に関して事前にメディアに情報を提供する可能性は、今回は小さいだろう。日本銀行は既に明確な予告を出しており、サプライズ政策との批判を後に受けることはない。また、市場の地均しも相応に進んでいる、とも言えるだろう。そうであれば、「金融緩和の点検」の具体的な措置は、やはり当日まで分からないのだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn