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日銀『金融緩和の点検』でETF買入れ目標撤廃の可能性が高まる

2021/03/15

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目標を形骸化することは既に日本銀行の得意技

3月19日の金融政策決定会合で日本銀行が公表する「金融緩和の点検」について、各メディアの報道が活発になっている。その中で、各社が揃って報道し始めたのが、ETFの買入れ目標撤廃の可能性である。現在ETFの買入れ目標は原則で年間約6兆円ペースであるが、コロナショックを受けて、当面は12兆円を上限とする方針になっている。

ただし、株高傾向の下、足もとでの買入れ額はそれらの目標を大幅に下回って推移している。目標はかなり以前から形骸化していたのである。株価上昇が続く中で日本銀行がETFの買入れを続けることに対しては、行き過ぎた価格上昇を煽る、市場機能を損ねる、といった批判が高まっている。株価下落時に日本銀行に巨額な損失をもたらすことから、日本銀行もETFの買入れはできれば抑制したいと考えているはずだ。

6兆円の目標を撤廃し、買入れ額を従来以上に大きく変動するように柔軟化することを日本銀行は検討しているようだ。本当の狙いは、ETFの買入れ抑制にあるが、それを隠すために、6兆円のETF買入れ目標を撤廃したうえで12兆円の上限は残し、必要な時には最大で年間12兆円ペースまで買入れる、との姿勢をアピールするのである。

過去には長期国債買入れについて、日本銀行は年間80兆円のめどを残しながら、実際には年間10兆円程度まで買入れ増加額を縮小したこともある。目標を形骸化してしまうことは、既に日本銀行の得意技となってる。12兆円の上限目標を残しても、それはほとんど意味のないことである。

6兆円のETF買入れ目標撤廃については、複数のメディアが報じていることから、日本銀行が意識してその情報を提供し、市場の反応をチェックした可能性もあるだろう。株式市場はこのニュースに目立って悪く反応していないことから、日本銀行は安心して、実際に6兆円のETF買入れ目標を撤廃する可能性が比較的高いのではないか。

長期金利の変動幅を対外公表文に明記との観測も

「金融緩和の点検」の公表とともに日本銀行が発表する施策としては、このETFの買入れ柔軟化策を含めて、メディアの報道は3点に集中してきた感がある。第2は、長期金利の変動拡大容認の是非、第3は、長短政策金利を引き下げる際に、金融機関の収益悪化を軽減する措置導入の是非、である。

長期金利については、総裁は現在上下0.2%程度の変動幅の拡大の可能性を否定する一方、副総裁は金利変動の拡大が望ましいと発言していること等から、具体的な変更についてのコンセンサスは、メディアの間でも成立していない(コラム「総裁発言で不確実性が高まる日銀『金融緩和の点検』」、2021年3月5日、「『金融緩和の点検』で日本銀行は長期金利の変動拡大を認めるか」、2021年3月9日)。

一部メディアは、「変動幅を対外公表文に明記することが検討されている」と報じている。しかし、その信ぴょう性は不明だ。そもそも、日本銀行は物価目標も含めて、あらゆる数値目標を形骸化してきているのである。変動幅を対外公表文に明記することは、こうした流れに逆行する。

変動幅を対外公表文に明記する、ということは、変動幅の設定を政策委員会での決定事項に格上げすることを意味するものだ。変動幅について、当初の上下0.1%程度というのは、日本銀行のオペレーションの現場が密かに市場関係者に伝える方針だった。2018年には、それを上下0.2%程度に拡大すると総裁が記者会見で伝え、決定会合で議論する事項となった。

長期金利目標の変動幅という政策目標の一環とも言える重要な方針が、政策委員会の決定事項でなく、現場で決められてきたことに対する不満は、以前から政策委員の中で高まっていたと見られる。従って、「変動幅を対外公表文に明記する」という報道は、一部の審議委員の主張を伝えているだけのものである可能性があり、実際に「金融緩和の点検」で打ち出されるものかどうかは不明である。

マイナス金利政策の形骸化が進む

第3の長短政策金利を引き下げる際に、金融機関の収益悪化を軽減する措置を講じるとの観測は、副総裁の講演に端を発している(コラム「『金融緩和の点検』で日本銀行は長期金利の変動拡大を認めるか」、2021年3月9日)。そのために、階層型の当座預金制度を見直す、あるいはマイナス金利が適用される範囲を狭める、上乗せ金利をする、などの観測記事がみられる。しかし、今のところメディアも具体策のイメージを掴みかねている感がある。

「金融機関の収益に配慮すれば、日本銀行は政策金利の引き下げを実施できない」という市場の強い見方を修正し、状況次第では、政策金利の引き下げの可能性があることを市場に納得させる点が、日本銀行の狙いなのである。そして、それを通じて、「金融緩和の点検」で示す柔軟化措置が副作用対策であるとの本質を覆い隠し、市場の悪い反応を回避するのが真の目的だ。

マイナス金利が付される政策金利残高を大幅に削減すれば、仮にマイナス金利を深掘りしても、日銀当座預金での運用から直接生じる銀行の収益へのマイナス効果は軽減される。ただし、こうした措置を講じれば、コールレート(無担保翌日物)が上昇し、-0.1%の政策金利との乖離がさらに広がり、政策金利及びマイナス金利政策の形骸化が一段と進むことになる。ちなみに、3月から導入された特別当座預金制度の導入によって、マイナス金利政策の形骸化は既に始まっている。

日本銀行の二枚舌戦略は続く

こうした措置を講じて政策金利引き下げのハードルを下げても、実際に日本銀行は政策金利を引き下げるつもりはないだろう。しかし、そうした名目で政策金利残高を削減すれば、短めのゾーンで金利水準が上昇するはずだ。それは、長期金利の上昇以上に銀行の収益を改善させ、金融仲介機能の向上に資する(コラム「日銀『金融緩和の点検』と長期金利目標短期化の可能性」、2021年2月12日)。実際に日本銀行がこのようなトリッキーな手法をとるかどうかは定かではないが、短めのゾーンを中心にイールドカーブのスティープ化を志向していることは確かだろう。

「金融緩和の点検」においても従来と同様に、日本銀行は本当の狙いを隠して、緩和色、ハト派色をことさらアピールする情報発信を実施するだろう。それはまさにダブルスタンダード(二重標準、二枚舌)に他ならない。そのため、19日に公表される「金融緩和の点検」に対して市場の解釈は分かれ、市場は一方向に大きく反応することにはならないのではないか。それこそが、まさに日本銀行が狙っている点なのである。

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