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コロナ禍で変わる春闘の役割と労使関係

2021/03/16

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ベースアップ率は9年ぶりの低水準へ

コロナショックの影響を大きく受けた2021年の春闘交渉は、3月17日に主要企業の集中回答日を迎える。前年までと比べて、賃上げ率の妥結水準が大きく低下することは避けられない情勢だ。

毎月の基本給を引き上げるベースアップについては、要求自体を見送る労働組合が目立っている。ホンダ、マツダ、三菱自動車の労組は8年ぶりに、三菱重工業、IHI、川崎重工業の労組は10年ぶりにベアの要求を見送った。乗客が大きく落ち込んだ全日本空輸と日本航空も、それぞれの最大労組がベアの要求を断念した。

経団連の集計によると、昨年2020年の賃上げ率はちょうど+2.00%、そのうちのうち定期昇給分の引き上げ率が+1.83%、ベースアップ率が+0.17%という内訳だった。2021年のベースアップ率はゼロに近い僅かなプラスと、2012年以来9年ぶりの低水準となろう。定期昇給分を含めても2021年の賃上げ率は+1.8%程度となるのではないか。

またここから推定される2021年度の給与総額は、前年比-1.6%程度になると予想される。2021年度の日本経済は、コロナショックの影響から緩やかに脱していく中でも、所得環境の悪化が個人消費の大きな足かせとなり続けるだろう。

形骸化が進む春闘での賃金交渉

ただし、賃金交渉の状況には、例年以上に業種間、企業間のばらつきが見られている。電機各社の労働組合でつくる電機連合は、ベースアップに相当する賃金改善の妥結目標を、月1,000円以上とする方向で最終調整に入った。昨年並みの水準での妥結が見込まれる。これは、事前予想をやや上回るものだ。電機業界は、コロナショック下でも総じて安定した業績を維持していることが背景にある。

電機連合は、主要企業の労組が同じ額を要求し、会社からの回答額も揃えるという「統一交渉」を続けてきた。しかし昨年からは、各社の業績の違いなどから回答に差がでることを容認し始めている。今回の妥結内容ではそうした柔軟化が一層進みそうだ。また、自動車総連は賃金水準を底上げするベースアップの統一要求額を掲げず、大半の労組はベースアップ要求の詳細を明らかにしない姿勢である。

新型コロナウイルス問題の下では、大手企業の間でも、航空、旅行代理店、ホテル、飲食関係など、業績に深刻な打撃を受けている業種とそうでない業種との格差が非常に大きくなっているのが特徴だ。業種間、企業間の経営環境の格差を一気に広げたのが、新型コロナウイルスだったのである。

主要企業が業種を超えて同じタイミングで賃金交渉を行ない、また同一業種の中で賃金要求や妥結水準を揃えていくという春闘のスタイルは、時代遅れと言われて久しい。新型コロナウイルス問題は、春闘の問題点、形骸化を一層浮かび上がらせたと言える。これを機に、春闘の見直しが一気に進む可能性もあるだろう。

春闘が日本経済の強みである労使協調路線を促す場となるか

さらに、従来、賃金交渉全体をリードし、指標ともなってきた基幹産業の自動車業界では、春闘を、賃上げを巡る労使の対決の場ではなく、経営課題を議論する場とする傾向が強まっている。

労使が業務のデジタル化や二酸化炭素(CO2)の排出抑制の問題意識を共有し、また環境規制への対応や自動運転といった技術開発を進める上での意見を調整する場として、春闘が機能し始めている。他の業種でも、「ジョブ型」の導入など、働き方の見直しが春闘で議論され始めている。

かつて、労使協調路線が日本企業の強みであり、国際競争力の高さの源泉の一つ、と評価された時期もあった。春闘が賃金交渉だけでなく、企業の成長と生活環境改善に向けた労使間での前向きの意見調整の場としての機能をこの先強めていく可能性がある。そうなれば、日本の強みである労使協調の良い面が、労働生産性の向上と企業の成長の好循環へと繋がっていく可能性も出てくるのではないか。新型コロナウイルス問題は、こうした形で春闘の機能を大きく変えようとしている。

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