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国家への協力姿勢を鮮明にする中国アント・グループ

2021/03/17

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アント・グループのCEOが辞任

中国アリババ・グループ傘下の金融会社で決済アプリ「アリペイ」を提供するアント・グループの再編と業務見直しが、水面下で進行中である。アント・グループは、当局の求めに応じて金融持ち株会社を設立し、そこに大半の金融ビジネスを移管する予定だ。それは、非金融機関でありながら、金融当局の強い監督下に入ることを意味する。

アント・グループは、昨年11月に延期された香港、上海での上場を引き続き目指しているとみられるが、それを当局に認めてもらうために当局に譲歩しつつ、金融持ち株会社の設立に関して、あるいはそれ以外の点でも粘り強く交渉を続けているのだろう。

そうしたなか、アント・グループの胡暁明CEO(最高経営責任者)が3月13日までに辞任を表明した。アント・グループはその発表文で、胡氏から一身上の都合を理由に辞任を申し入れられたため取締役会が受け入れた、としている。これは、当局によるアント・グループに対する締め付けの強さを裏付けているのではないか。

その直前の12日に、アント・グループは一連の自己規律ルールを初めて公表している。アント・グループは、信用評価サービス「芝麻信用」について、他の金融機関は利用できなくするという(注1)。当局は、アント・グループの金融業務の中で、消費者金融を特に問題視している。その分野で、アント・グループはビジネスを急拡大させ、大きな利益を上げて既存の金融事業者を圧迫してきたためだ。その際に、アント・グループが大きな武器としてきたのは、AIによる信用判定ツールである。これを利用しなくすることは、アント・グループが消費者金融分野の業務を大幅に見直すことを意味しよう。

地球温暖化対策でも国家目標達成に協力する姿勢

さらにアント・グループは、自社の消費者ローンプラットフォームでは未成年にローンは提供せず、また、小規模企業向け融資が株式・不動産市場へ流れることを防ぐと表明している。これは、未成年者の借入れ拡大や資産価格高騰に対する当局の警戒を受けた措置だろう。このように、アント・グループは国家の政策への協力姿勢をより明確にしているのである。

それは、地球温暖化対策にも表れている。アント・グループは、事業活動による二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを、2030年までに実現する方針を発表した。中国政府は昨年9月に、2030年までにCO2排出量を減少に転じさせることを目指し、さらに2060年までにカーボンニュートラルを実現するよう努めると表明した。また今年の全国人民代表大会(全人代)では、政府活動報告に「CO2排出の減少とカーボンニュートラルに向けた各活動を着実にやり遂げる」と盛り込んだ(注2)。

アント・グループは、従業員に低炭素型の行動を促すための奨励制度も確立し、グリーン投資を積極的かつ着実に推進していく。「カーボンニュートラル技術革新基金」を創設する考えも示している。

このように、アント・グループは、国家の政策や目標の達成に協力する従順な姿勢を鮮明にしている。それを通じて、生き残りの道を探っているのだろう。他方で、「アリペイ」の決済事業を中心に、金融プラットフォーマーとして世界に知られる存在にまで押し上げた各種のイノベーションは、従来ほどには産み出されなくなる可能性が高いのではないか。それは、中国経済の発展にとっても逆風となるだろう。

(注1)「アント、金融自己規律ルールを初公表」、2021年3月15日、ChinaWave経済・産業ニュース
(注2)「アント・グループ、30年までに『CO2実質ゼロ』目指す」、2021年3月14日、新華社ニュース

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