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新たな政策方針を早くも修正するFRBと日銀の『金融緩和の点検』

2021/03/18

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FRBは長期金利上昇を静観

3月16・17日(米国時間)に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では金融政策の変更は見送られた。長期金利上昇に対する各中央銀行の対応が市場では注目されているが、先日の理事会で国債買入れペースの短期的な加速、というやや中途半端な対応を決めた欧州中央銀行(ECB)に対して、米連邦準備制度理事会(FRB)は、具体的な対応を示さなかったのである。

感染拡大と規制措置が強化され、経済情勢が厳しい中でのユーロ圏での長期金利上昇は、経済ファンダメンタルズの裏付けが乏しく、米国の長期金利上昇に引きずられているという側面が強い。これは、経済活動に悪影響を及ぼす「悪い金利の上昇」である。これに対して米国での長期金利上昇は、感染拡大の抑制、経済活動の改善見通し、1.9兆ドルに及ぶ追加経済対策など、経済環境の改善を反映した、いわば「良い金利の上昇」の性格がある。こうした違いが、ECBとFRBの政策対応の違いに表れたのだ。パウエルFRB議長は記者会見で、「過去1か月の米国債利回り上昇を押し返す理由はない」として、長期金利の上昇を静観する姿勢を見せた。

経済見通しでは、2021年の成長率の予測値(中央値)は+6.5%と、昨年12月時点での+4.2%から大幅に上方修正された。それを映して、物価の予測値(PCEデフレータ)も+1.8%から+2.4%へと大きく上方修正されている。さらに、FOMC参加者の先行きの政策金利の見通しも上方修正された。

中央値で見れば、予測期間中の2023年末までFF金利は現状と同じゼロ近傍となっており、政策金利の引き上げは見込まれていない。しかし、前回と比べて、2023年末時点でより高いFF金利の水準を予想する参加者が増えている。それは18人中7人と、半数に迫ってきているのだ。2023年末時点のFF金利の予測値は、0.25%~0.5%を下限、1.0%~1.25%を上限とする範囲に散らばっている。

これを受けて、金融市場はFOMCの予測値(中央値)に反して、2023年末までの政策金利引き上げを見込む向きが増えたのだろう。しかし、それは長期金利のさらなる上昇にはつながっていない。従来よりも早めの政策金利引き上げとなることで、中長期的な物価上昇率の高まりが抑制されるとの期待を反映しているためだろう。

新たなインフレ目標政策方針を早くも修正か

FOMCの今回の見通しで非常に問題なのは、PCEデフレータの見通し(中央値)が2022年に2.0%、2023年に2.1%、中心的傾向もほぼそれらと同水準で、2%の物価目標の水準近傍であるにも関わらず、2023年末までに政策金利の引き上げを見込む参加者が半数近くに迫っていることだ。

何が問題であるかというと、昨年夏にFRBは、インフレ目標政策を大きく修正し、「一定期間物価上昇率が目標値を下振れた後には、一定期間物価上昇率が目標値を上振れることを容認し、中長期の平均が2%の物価目標水準になるようにする」との新たな方針を示していることだ。それによって、インフレ期待を目標値の2%にまで押し上げることを狙ったのだ。リーマンショック後のPCEデフレータの上昇率の平均値は1.6%程度と2%を下回ったことから、物価上昇率が高まる局面では、2%を大幅に上回る水準を容認するのが新たな政策方針の主旨であったはずだ。

しかし、今回のFOMCの物価およびFF金利の見通しを見る限り、この新たな政策方針に沿っているようには見えない。足もとで、インフレ期待が高まり、長期金利が上昇して、それが金融市場や経済の安定に悪影響を及ぼす可能性が高まると、FOMC内では新たな政策方針に反して、早期の政策金利引き上げを妥当と考える向きが増えているのである。

ただしその結果、新たな政策方針のもとで中長期的にインフレが加速し、コントロールできなくなる、との市場の懸念が緩和され、長期金利上昇の一服につながっている面があるだろう。

日本銀行の失敗の例を見るまでもなく、中央銀行がインフレ期待をコントロールすることは難しく、またそうした試みは様々な問題を生んでしまうのである。

「金融緩和の点検」は金融政策の柔軟化、副作用軽減の環境整備か

米国の長期金利上昇傾向が終わったと考えるのは早計だろう。FRBの金融政策姿勢を別にしても、現在の長期金利の水準はまだ低い。米国の名目GDP成長率のトレンドはかなり控えめに見ても年3%程度である。その場合、10年国債利回りの妥当値は3%を超えることになる。10年国債利回りは昨年のボトムから1%ポイント程度上昇したがまだ1%台半ばをやや超えた水準である。金利上昇局面は、まだ道半ば未満である可能性が考えられる。

FRBそして各中央銀行の長期金利上昇との闘いはまだ続くだろう。日本銀行にとっては、長期金利上昇への対応よりも金融政策の柔軟化、副作用の軽減がより喫緊の課題であり、それこそが「金融緩和の点検」を受けた施策の中心となるだろう。

政策の見直しは小粒に終わる、との市場の見方が増えている。確かに、昨年12月に日本銀行が「金融緩和の点検」を予告した時点以降、世界的に長期金利が上昇したことで、日本銀行は「金融緩和の点検」が金融市場の混乱をもたらすことを警戒して、イールドカーブ・コントロールを中心に、当初の計画よりも施策の変更を小粒にする軌道修正を図る可能性もあるだろう。いわば安全運転である。

日本銀行はハト派色の強い情報発信を重ねて実施することで、政策の柔軟化、副作用の軽減という本来の狙いを覆い隠そうとするのではないか。それが奏功すれば、「金融緩和の点検」が金融市場に与える影響は限られるだろう。

しかし、「金融緩和の点検」は、その発表時ではなく、より長い目で日本銀行が政策の柔軟化、副作用の軽減を進めることができるような環境を整備する点により重点が置かれるのではないか。

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