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緊急事態宣言解除も感染対策の有効打を欠く

2021/03/18

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医療体制の拡充は最優先課題に

2か月半に及んだ緊急事態宣言が、いよいよ解除される。首都圏4都県で発令されている緊急事態宣言を、期限となる3月21日で解除する方針を政府は固め、18日午前の専門家による諮問委員会で了承された。菅首相が18日午後の衆参両院議院運営委員会で事前報告したうえで、政府対策本部会合で正式決定される。

菅首相は、新規感染者数がピークから大幅に低下したことと、病床使用率が低下し病床の逼迫が緩和されたことを、解除の決定の理由として挙げている。

多くの人は、緊急事態宣言の効力が低下した、と考えているだろう。昨年春の1回目の時と比べて人出の減少幅は限定的であり、既に「緊急事態宣言慣れ」、あるいは「緊急事態宣言疲れ」の状態だ。緊急事態宣言の効力が低下していることから、「再延長しても解除してもあまり違いはない」との理由から解除の決定を消極的に支持する向きも少なくないのではないか。

ただし、緊急事態宣言発令下であっても足もとで新規感染者数が再拡大する兆しが見られる中、解除後にリバウンドを防ぐことが果たしてできるのかどうかは、大いに疑問が残るところだ。西村大臣は、変異株の検査・監視体制の強化を進める考えを示しているが、感染拡大阻止に向けて新たな有効策を政府が準備しているようにも見えない。

第1回目の緊急事態宣言から第2回目の緊急事態宣言までの間、病床確保が十分に進まなかったという時間を浪費してしまったことが大きな反省点として残る。新規感染の拡大が再び病床の逼迫につながるまでに、長い時間はかからないかもしれない。病床確保など、医療体制の拡充は、最優先に取り組まなければならない課題だろう。

宣言解除後はまん延防止措置でなく時短要請継続

緊急事態宣言解除後には、実質的にはそれに近い措置のまん延防止等重点措置(まん防)が導入される可能性が考えられたが、現状では政府はまん延防止等重点措置への移行も見送る方針だ。まん延防止等重点措置は、次にとる手段として政府が温存したことも考えられる。

4都府県の知事は、緊急事態宣言解除後の対応として、飲食店への営業時間短縮要請を、現在の午後8時までから午後9時までに緩和する方針で一致した。これは、緊急事態宣言の解除後も、一定程度の規制は残ることを意味している。ただし、緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置も導入されないもとでの時短要請は、法的根拠を欠くものだ。命令に反した場合にペナルティ(過料)を科すこともできないことから、感染抑制の効果はどうしても小さくなってしまうだろう。

この先、リバウンドが明確になっていけば、政府は早晩、例えば、ゴールデンウイークなどを視野に入れて、まん延防止等重点措置の導入を余儀なくされるのではないか。その場合、まん延防止等重点措置に名を変えた緊急事態宣言が、実質的には長期化し、国内消費を抑制し続けることになるだろう。

2週間の時短要請で個人消費は約2,500億円追加で減少

3月21日に期限を迎える緊急事態宣言が2か月半の間に経済に与えた影響は、前回のレポート(コラム「緊急事態宣言再延長か、まん延防止措置に移行か」、2021年3月15日)でも示したように、合計で6.3兆円の個人消費減少、と試算される。これは年間GDPの1.1%に相当する規模である(図表1)。

ちなみに、まん延防止措置導入の場合の経済効果は、過料の違いに基づいて、緊急事態宣言の3分の2と考えた(コラム「緊急事態宣言再延長か、まん延防止措置に移行か」、2021年3月15日)。さらに、法的根拠を持たない今回の午後9時までの飲食店への時短要請の経済効果は、まん延防止措置の50%と想定しよう。

以上の前提で計算すると、4都県で午後9時までの飲食店への時短要請が3月22日から2週間続く場合には、個人消費は約2,500億円追加で減少する。3月末までの10日間の場合には、個人消費は約1,800億円、1か月間の場合は約4,900億円、それぞれ減少する計算となる(図表1)。

いずれ、まん延防止措置が導入されると考えた場合、それが4都府県で2週間続けば、個人消費を約4,900億円減少させ、1か月間の場合は個人消費を約9,900億円減少させる計算となる(図表2)。

このように、緊急事態宣言が解除されても、飲食店への時短要請やまん延防止措置が概ね切れ目なく続いていくことで、個人消費は抑制された状態が長く続くだろう。

実質GDPについては、今年1-3月期のマイナス成長の後、4-6月期はプラス成長に戻るとしても、1-3月期の落ち込み分を取り戻すことはできないのではないか。さらに秋以降、緊急事態宣言が再び発令される可能性も考えておく必要があるのではないか。感染リスクの継続とこうした規制措置が続くことで、少なくとも年内は、個人消費を柱とする内需が明確に回復する姿は見込みがたいところだ。年後半に経済情勢が多少改善する場合にも、それは輸出の増加に助けられる形となるだろう。

(図表1)緊急事態宣言・時短要請の経済効果

(図表2)まん延防止措置の経済効果

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