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米中協議でレッドラインを明示し米国を強く牽制した中国

2021/03/22

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中国包囲網を強く警戒か

3月18・19日の2日間、米国アラスカ州のアンカレッジで、米中外交トップらによる初の会合が開かれた。米国からはブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら、中国からは外交トップの楊(ヤン)共産党政治局員、王外相らが参加した。

1日目の協議の冒頭で、予想もしなかった両国の激しい対立が1時間に渡ってメディアに公開され、世界に一斉に報道されることになった。米国側は、中国のウイグル自治区、香港での人権問題、台湾問題、他国へのサイバー問題などで中国側を強く非難すると、中国側は、そうした内政干渉には断固として反対する、と応じた。

思い起こせば、貿易面を中心に中国強硬論を掲げたトランプ前政権の下でも、政権発足から1年程度の間は、米中間に激しい対立は生じなかった。トランプ前政権が追加関税を武器に中国の不公正貿易などを強く攻撃し始めたのは、政権発足から1年が経過してからだった。それとは対照的に今回は、バイデン政権発足から僅か2か月にして、米中間の激しい対立は世界に広く知られるところとなったのである。

儀礼的な顔合わせに終わっても不思議ではなかった米中外交トップらによるこの初会合で、中国側が予想外に強硬姿勢を見せた背景には、この米中協議に先立ち、ブリンケン国務長官らが日本と韓国を訪問して同盟関係の結束を確認するという手順を踏んだことがあるのではないか。中国は、バイデン政権が同盟国を従えて中国包囲網を形成することを狙っている、と強く警戒したのだろう。

中国はレッドラインを示す

さらに、中国を強く刺激したのが、16日の日米共同声明だった。そこでは、中国の海洋進出や香港・新彊ウイグル自治区の問題に強い懸念が表明された。この日米共同声明について中国側は、「中国外交政策への悪意に満ちた攻撃であり、中国の権益を侵すことを意図した深刻な内政干渉」と激しく批判した。さらに日本を、米国の「戦略的隷属者」とまで表現し、中国が南シナ海や東シナ海で議論の余地のない主権を有する、と主張したのだった。

同盟国まで攻撃対象としたトランプ前政権期には、日本と中国は同じ被害者という側面もあったことから、比較的良好な両国関係が続いていた。しかし、香港問題を境に両国の関係は悪化し、さらにバイデン政権の下では日中関係が再び冷え込むことも予想される状況となっている。

始まったばかりのバイデン政権に対して、トランプ前政権以上に中国側が強硬姿勢を示しているのは、中国にとって超えてはならない線、いわゆる「レッドライン」に触れる要求をバイデン政権がしているためだ。それは、ウイグル、台湾、香港など国内での統治問題、他国から見れば人権問題、そして領土問題だ。それに対して、トランプ前政権が対中攻撃の中心としてきた貿易問題は、中国にとっては譲歩できる部分もあり、レッドラインではなかったのだ。

「ルールに基づく秩序(rules-based order)」で米中は平行線

1日目の協議でブリンケン国務長官は、中国によるサイバー攻撃や台湾などに対する威嚇、新疆ウイグル自治区や香港での人権弾圧を「世界の安定を支える、ルールに基づく秩序(rules-based order)を脅かす」と強く批判した。この「ルールに基づく秩序(rules-based order)」という表現が、楊(ヤン)共産党政治局員を強く刺激したのではないか。

この発言に対して同氏は、「中国と国際社会が支持するのは国連を中心とする国際システムと国際法に裏付けられた国際秩序だ。一部の国が提唱するいわゆる『ルールに基づく』国際秩序ではない。米国には米国流の民主主義があり、中国には中国流の民主主義がある」、「米国が自国流の民主主義を他国に押しつけるのをやめることが重要だ」、「米国はもはや国際社会を代表しない」、などと続けざまに発言をした。

米国は、民主主義、人権重視など「人類普遍の価値を守るリーダー」の役割を自認しており、また、先進同盟国はそうした価値を共有しているグループとされているが、中国はそれを真っ向から否定している。「米国のルールは世界全体のルールではなく、中国はそれに従わない」、と言っているのである。

確かに、最近の大統領選挙を巡る混乱や人種差別問題を見ると、米国の民主主義が最高水準に達した完成形であり、世界はそれを見習うべき、との主張は多くの国の共感を得にくくなっている。また、米国が人類普遍の価値を守るためとして、自国の利益のために他国に介入した事例も過去に少なくないことも確かなのではないか。

米国並びに日本を含む先進同盟国は、今まで共有してきた価値観が、真に人類共通の普遍的なものであるのかを、再度検証することが重要なのではないか。その上で、真に人類共通の普遍的な価値があると証明できるのであれば、それをベースに中国の政策を修正するように主張すべきだろう。

この点が曖昧なままでは、米国のいう「ルールに基づく秩序(rules-based order)」は、中国にとっては単なる不当な「内政干渉」でしかない。そのもとでは、米中の対立は、解消どころかずっと緩和されない可能性があるだろう。また、米国のルールに反発する国が、中国以外にも増えていくことになるのではないか。そのもとでは、先進国とは別のルール、別の秩序が、中国を中核とする新興国グループで形作られていくことに発展していくかもしれない。

(参考資料)
Bitter Alaska Meeting Complicates Already Shaky U.S.-China TiesBy William Mauldin, Wall Street Journal, March 20th ,2021
「中国、日米共同声明に反発 米中協議で立場表明へ」、2021年3月17日、ロイター通信
「米中外交トップ、冒頭発言要旨」、2021年3月20日、日本経済新聞

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