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宣言解除後の国内経済にルネサス工場火災が新たな打撃(4-6月期成長率を年率7.3%押し下げ)

2021/03/23

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ルネサス那珂工場が再び生産停止に

車載向け半導体の供給不足が、一気に深刻度を増している。昨年から不足問題が世界的に生じていたところに、2月13日の福島県沖の地震の悪影響が重なった(コラム、「地震発生で強まる自動車製造の半導体不足に既視感」、2021年2月15日)。さらに2月中旬に米国を襲った大寒波による停電で、自動車向け半導体大手の現地工場が止まってしまった。そして、3月21日にはルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)N3棟から火災が発生し、自動車の走行を制御する半導体であるマイコン(マイクロコントローラー)の生産が停止した。

ルネサスエレクトロニクスでは、ちょうど10年前の東日本大震災の際に、国内8工場で被災し稼働が停止した。特に茨城県ひたちなか市にある主力のこの那珂工場は約3カ月間操業を停止し、自動車の生産に甚大な被害をもたらした。今回は、同社は1カ月以内での生産再開を目指すとしており、前回ほどの打撃とはならない見通しだ。しかし、同社の生産ばかりでなく、国内での自動車生産に相応の悪影響をもたらすことは必至である。

同社はマイコンで世界シェア2位(17%)であり、那珂工場はその国内生産の約4割を担っている。野村證券によると、火災の影響で同社の半導体の売上高は4-6月期に170億円程度低下する見込みだ。日本経済にとって、それ以上に深刻なのは、供給先の自動車の生産への影響である。全ての日系完成車メーカーにとって、同社は自動車用マイコンの最大調達先とみられる。

直接効果で生産は9,000億円程度減少

野村證券によると、同社のマイコンの供給が1カ月程度滞ることで、4-6月期の日系完成車メーカーの国内での生産は40万台程度、海外での生産は80万台程度減少する可能性がある。また、非日系完成車メーカーの生産は、40万台程度減少する可能性がある。これらを合計した160万台程度は、世界の自動車生産の約7%に及ぶ。

経済産業省の生産動態調査によると、2019年の自動車生産台数は968.5万台、生産金額は21兆5,976億円である。一台当たりの平均単価は223.0万円となる。火災の影響で4-6月期に日系完成車メーカーの国内生産が40万台減少すると、それは金額に直すと8,920億円の減少となる。ルネサスエレクトロニクスのマイコン生産の低下の影響を加えると、9,090億円程度となる。これは名目GDPの0.16%に相当し、短期的には同規模の成長率押し下げ効果となる。影響が4-6月期に集中的に表れるとすれば、ルネサスエレクトロニクスの工場火災の影響で、4-6月期のGDP成長率は前期比0.65%、年率換算で2.62%押し下げられる計算となる。

波及効果も含め4-6月期のGDP成長率は年率7.3%押し下げられる

しかし実際の影響は、それだけにとどまらない。自動車生産が減少することで、自動車部品を中心に、自動車関連分野の生産も幅広く減少するのである。自動車産業の生産は他の産業の生産に大きな影響を与える。自動車産業はすそ野の広い産業である。

経済産業省の産業連関表(平成27年)によると、乗用車の生産誘発係数は2.776である。つまり、乗用車の生産が1単位減少すると、それ自身と関連する部品メーカーなどを含めて、生産は2.776単位減少する。

こうした他業種への影響を含めて再計算すると、火災の影響で4-6月期の生産額は2兆4,932億円となる。これは名目GDPの0.44%に相当し、短期的には同規模の成長率押し下げ効果となる。影響が4-6月期に集中的に表れるとした場合、自動車生産減少の波及効果も含めて、ルネサスエレクトロニクスの工場火災の影響で、4-6月期のGDP成長率は年率換算で7.30%押し下げられる計算となる。

以上の計算には、日系・非日系メーカーの海外での生産減少の影響は含まれていない。実際には、それらの生産減少が、部品を供給する国内自動車部品メーカー等の生産を減少させるはずだ。その効果を含めれば、4-6月期を中心にGDPへの悪影響はもっと大きくなる。

感染拡大と2カ月半に及ぶ緊急事態宣言発令の影響で、GDPは6.3兆円程度押し下げられ、その結果、1-3月期の実質GDP成長率は前期比マイナスとなる可能性が高い(コラム、「緊急事態宣言解除も感染対策の有効打を欠く」、2021年3月18日)。

4-6月期には一定程度の回復が見込まれていたが、今回の火災の影響を踏まえると、4-6月期もかなりの低成長となる可能性が高く、状況次第では2四半期連続でマイナス成長となる可能性も出てきたと見ておくべきではないか。

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