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地球温暖化対策がBOEの使命に加わることの問題

2021/03/24

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英国政府は地球温暖化対策への取り組みを加速

英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は、現在2%である物価安定目標の達成に加えて、温室効果ガス排出量の実質ゼロへの移行も新たな目標に持つこととなった。スナク英財務相は3月3日に英議会で演説し、そうした考えを表明した。これに対してBOEは即座に、この新たな目標を受け入れるとの声明を発表している。

英国ではBOEの物価目標水準は財務大臣が決定する。目標達成のための手段、つまり金融政策の決定権はBOEにあるが、目標設定の権限は財務大臣にある。このように、BOEは他の中央銀行と比べて、政府の影響力をより受けやすい位置づけとなっている。

英政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標を掲げている。ガソリン車とディーゼル車の新規販売を、2030年までに禁じる方針も打ち出している。3日には、財務相は同国初となるグリーンボンド(環境債)を発行する計画を発表した。グリーンボンドは、年内に少なくとも総額150億ポンドを発行する計画だという。また、英国では今年11月に、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる予定だ。

そうした中、英政府は地球温暖化対策を推進し、それを対外的にも強くアピールすることを狙っているのである。BOEの新たな目標についても、そうした流れの中に位置づけられるだろう。

中央銀行の目標、使命を増やすことの弊害

新たな目標を受けて、BOEが具体策として検討しているのが、金融緩和策の一環として実施している社債の買い入れ策の見直しだ。購入する社債を選択する際に、発行する企業の気候変動対策への取り組みを考慮すること、などが想定される。

気候変動対策を正式に目標に追加するのは、主要中央銀行の中ではBOEが初めてである。しかし、世界の潮流は、中央銀行も金融政策を通じて政府の地球温暖化対策の推進に協力する方向へと動いている。

例えば欧州中央銀行(ECB)は、今年1月から、金融機関に資金供給する際に受け入れる担保として、企業の環境目標の達成度合いに応じて金利が変動する社債を対象としている。

米国のバイデン政権は、米連邦準備制度理事会(FRB)に対して、物価安定、雇用拡大といった従来からの目標達成に加えて、格差問題への取り組みも求めている。今後は、バイデン政権の政策の柱の一つである、地球温暖化対策についても、FRBに協力を求める可能性が考えられるところだ。

しかし、地球温暖化対策は、あくまでも政府が補助金、税制変更、規制政策の変更などの経済政策を用いて達成を目指すものである。あるいは、社会貢献の観点から、民間企業が取り組んでいくべきものである。中央銀行に対して、地球温暖化対策を新たな目標、使命(マンデート)として課していけば、物価安定の目標との間に矛盾が生じ、物価安定の目標達成がより難しくなるという弊害も生じるだろう。それは経済や金融市場の不安定化に繋がり、社会的厚生を低下させてしまう。また、中央銀行が、買入れる社債を選別するなかで、中央銀行の中立性に問題が生じ、また金融市場を歪めてしまう可能性も生じ得る。

「困った時の中央銀行頼み」とならないよう、地球温暖化対策においても、政府の役割と中央銀行の役割は、明確に分けておく必要があるのではないか。

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