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金融市場が消化不良を起こしかねないバイデン政権下での大きな政府の流れ

2021/03/30

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バイデン政権が3兆ドルに及ぶ新たな経済対策を検討

先日、バイデン政権は1.9兆ドルに及ぶ巨額のコロナ経済対策を成立させた。そこからまだ間もないこのタイミングで、3兆ドルに及ぶ新たな経済対策の検討を進めている。

ただし、これはコロナ対策ではなく、より長期的な産業構造の転換を狙った施策、と位置付けられる。その規模は3兆ドル、場合によっては4兆ドルにまで膨らむ可能性もあると報じられている。バイデン大統領は2020年の大統領選挙で、4年間で2兆ドル規模の地球温暖化対策を含むインフラ投資の実施を公約に掲げた。これは「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」と呼ばれ、500万人の新規雇用を生み出す、と説明されていた。今回検討されている経済対策は、この選挙公約の実現を目指すものと考えられる。ただしその規模は、公約を大きく上回りそうだ。

この経済対策は地球温暖化対策や、道路や橋、水道システムなどのインフラ投資と、民主党的なリベラルな政策で教育対策や貧困対策に関するもの、との2つに分割される見込みだ。ニューヨーク・タイムズによると、電気自動車(EV)の充電施設や送電網の整備といった気候変動対策に重点を置いたインフラ投資に、1兆ドル程度をあてることが計画されているという。高速大容量規格「5G」など先端通信技術の開発の支援や省エネ住宅の増加も含まれるという。また、教育対策では、公立大学無償化などの格差是正策、貧困対策では、年末に期限を迎える子育て世帯への税優遇策も柱の一つに位置づけられそうだ。

巨額の経済対策の財源には本格増税

他方で、この経済対策の財源を増税によって賄うことが計画されている。経済対策は2つに分割される予定であるが、それに対応して増税策も2つに分割されることが検討されている。一つ目のインフラ投資関連については、法人税の引き上げで対応し、2つ目の教育・貧困対策などについては、高所得世帯への増税で対応することが検討されているという。

法人税率については、トランプ前政権が引き下げた現状14%を28%まで戻す案が有力だ。個人所得税については、例えば年間所得が40万ドル以上の富裕層への税率引き上げや、100万ドル以上の富裕層へのキャピタルゲイン(株式売買益)税率の引き上げなどがとりざたされている。こうした本格的な連邦増税は、1993年以来ほぼ30年振りのことである。

バイデン大統領は3月31日にピッツバーグで経済政策に関する演説を行う予定だ。その際に、新たな経済対策と増税策の双方について、その概要を説明する可能性がある。

ポストコロナ対策の本格化はまだ早い

このような超大型経済対策と大型増税策を、足もとで不安定さを増している米国金融市場はどのように理解し、また消化していくのだろうか。バイデン政権が成立させた1.9兆ドルのコロナ経済対策は、金融市場で経済の正常化期待を高め、株価を押し上げた面がある。他方で、インフレ懸念や財政悪化、国債需給の悪化懸念は長期金利を押し上げ、それが足もとでは株価の調整を促しているという面もある。

新たな経済対策は、増税策と一体で計画されているが、歳出増加の経済効果が増税の経済効果を上回り、やはり市場の景気回復期待を強める一方、景気過熱懸念、インフレ懸念を煽る可能性があるだろう。他方で財政環境はさらに悪化し、その面からも長期金利には一段の上昇圧力がかかり、それが株価の調整を促す可能性があるだろう。

さらに法人増税や個人所得増税が企業や個人の経済活動に与える悪影響も市場の懸念材料となるだろう。また、株式のキャピタルゲイン税率が引き上げられれば、より直接的に株式市場への資金流入が細るとの懸念が生じ、株式市場の懸念材料となるだろう。

日本でも2020年度3次補正予算、2021年度予算は、ポストコロナ対応の色彩が強い。産業構造の改革を促す企業の業種転換や企業買収を支援する施策、デジタル化、カーボンニュートラル実現に向けた対策などが盛り込まれている。しかし実際には、国内での感染リスクは依然として高く、現時点では、政府はコロナ対策に全力を尽くさなければいけない。つまり、予算にポストコロナ対策を多く盛り込むのは、早すぎたのである。

米国の経済状況は日本よりは良いとは言え、まだ政権はポストコロナ対策ではなくコロナ対策に全力を尽くすべき局面ではないか。政権発足僅か2か月のタイミングで、これだけの大型経済対策及び大型増税策を打ち出すのは、やや拙速でもあるように感じる。こうした政策は、「大きな政府」の傾向を強め、民間経済活動の妨げとなってしまうことも心配だ。そして、政権はもっと金融市場の安定に配慮すべきではないか。

金融市場が上手く消化できず混乱するリスク

また、この巨額の歳出拡大と大型増税の組み合わせを、金融市場が円滑に消化できるかは不透明だ。インフレリスクと財政悪化への懸念から長期金利が一段と高まれば、それらが経済効果への期待を打ち消して、株価が下落傾向を強める可能性もあるだろう。また、財政の悪化がドルの信認低下につながり、海外からの資金流入に悪影響を生じさせれば、株安、債券安、ドル安のトリプル安につながり、それは米国の実体経済にも大きな悪影響を与える可能性が出てくるだろう。

金融市場が足もとで不安定さを増している点、コロナ問題がなお深刻である点を踏まえれば、政権発足間もないバイデン政権がこのタイミングで、大きな政府の流れを加速させるポストコロナの政策を一気に打ち出すことは、やや問題であるように思える。そうした政策が金融市場の不安定性を高めてしまう場合には、その経済への悪影響から、コロナ対策にも逆風となってしまう可能性もあるのではないか。バイデン政権は、もっと金融市場の安定に配慮すべきである。

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