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デジタルユーロ発行に不安を感じる民間金融機関

2021/04/05

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デジタルユーロの発行には4年~5年かかる

かねてよりユーロ圏の中銀デジタル通貨(CBDC)「デジタルユーロ」の発行に前向きな欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、3月31日にブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、この夏に決定すれば、発行が今から4年以内に実現することを望んでいる、と述べた(注1)。

ECBはデジタルユーロについて意見公募を行っているが、約8,000の意見が寄せられているという。ECBはそれを分析し、近く結果を発表する。その結果は欧州議会に送られ、ECBの政策委員会が今年半ばまでに実証実験を開始するかどうかを決定することになる。さらにその6か月から1年後に、デジタルユーロを発行するかどうかの正式決定を行う見通しである。

ラガルド総裁は、デジタルユーロは「決してシステムを壊すことなく、むしろシステムを強化するものであることを確実にしなければならない」と述べている。

他方、3月19日にはECBのパネッタ専務理事は、ECBはデジタルユーロ構想を前に進めるかどうかは年央あたりに正式に決定する、と述べた。そのうえで、正式な発行は約5年後になるとの見通しを示している。パネッタ専務理事は、ECBが年内に発行に向けて動き始めると決定した場合には、調査に2年、実施に2~3年かかると指摘している。

ラガルド総裁及びパネッタ専務理事はともに、デジタルユーロの発行を決定してからも、実際に発行するまでには相当の時間がかかる点をことさら強調している点が注目される。これは、デジタルユーロの発行について、意見公募の中やその他に慎重な意見、あるいは反対意見が相応にあることが背景にあるからではないか。

民間金融機関にデジタルユーロの発行への不安

3月25日に開かれた国際決済銀行(BIS)のイノベーションサミットでは、ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は、デジタル通貨には「銀行離れを招くリスク」があると指摘した(注2)。またラガルド総裁は、一部の金融仲介機関がデジタルユーロの発行について懸念を表明している、とも語っている。総裁は、これらの金融仲介機関は新しいエコシステムとも共存し続けるだろう、と述べている(注3)。

両氏の発言は、民間銀行あるいはその他金融機関が、デジタルユーロの発行によってビジネスが脅かされることを警戒していることを受けたものではないか。それは例えば、デジタルユーロが現金だけではなく、銀行預金を代替してしまうことだろう。銀行預金が減少すれば、銀行の貸出業務に支障が生じ、また収益悪化の原因ともなり得る。さらに、銀行預金からデジタルユーロへと資金が一気にシフトすれば、流動性危機で銀行経営が危うくなり、金融システム不安につながるリスクも生じる。

中銀デジタル通貨は決して失敗できない

ECBは年央頃に実証実験の開始を決め、デジタルユーロ構想を前に進める可能性が高い。そして来年には、発行を正式に決めるだろう。しかし、その後も設計面、技術面、法制面などでクリアしなくてはならない問題は数多い。

設計面での問題では、上記のような既存の銀行ビジネスに悪影響を与えることなく、ラガルド総裁が指摘するように、既存の銀行システムをむしろ強化する、あるいは銀行が新しいエコシステムとも共存し続けるように慎重に配慮する必要がある。そのためには、デジタルユーロの発行額に上限を設けることや、銀行預金との間の資金シフトをコントロールする観点から、金利を付けること等が、具体的な方策として今後議論されていくだろう。

デジタルユーロは、主要国の中では中国のデジタル人民元に次ぐ中銀デジタル通貨となる可能性が高いように思うが、それでも解決しなければならない問題は多く残されている。民間デジタル通貨のプロジェクトとは異なり、社会インフラである中銀デジタル通貨は、決して失敗できないプロジェクトなのである。

(注1)"Lagarde says ECB Could Have Digital Currency Within Four Years", Bloomberg, March 31, 2021
(注2)「デジタル通貨、中国が発行準備加速、北京五輪までに、BISサミット、米欧は金融安定を優先。」、2021年3月27日、日本経済新聞
(注3)「デジタル通貨、中国先行 米欧は金融安定を優先」、2021年3月26日、日本経済新聞電子版

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