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日米首脳会談の注目は日中経済関係への悪影響

2021/04/14

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日米首脳会談では両国の思惑の違いが表面化か

菅首相は4月15日~18日に訪米し、16日(現地時間)にワシントンでバイデン大統領と首脳会談を行う。バイデン大統領は初の対面形式での首脳会談の相手に、日本を選んだのである。バイデン大統領就任からまだ3か月足らずしか経過していないが、今回の首脳会談は、両国が日米同盟の重要性を確認する初顔合わせのセレモニーでは終わりそうもない。その場で、両国の思惑の違いが表面化する可能性もあるだろう。

台湾、尖閣など中国の海洋進出問題、地球温暖化対策、半導体不足、香港、ウイグルなど中国の人権問題が大きなテーマとして取り上げられそうだ。バイデン政権が最も重視するのは、日米が強く結束して対中強硬姿勢で臨むことを中国、そして世界にアピールすることだろう。これに対して日本の最大の関心事は、尖閣など中国の海洋進出問題で日米が強い協調姿勢を中国に示すことと、北朝鮮の拉致問題でバイデン政権の協力を取り付けることだろう。

両国間で政策の優先順位に差があるのは、中国のウイグル人権問題への対応だろう。3月22日には、米国、欧州連合(EU)、英国、カナダは対中制裁措置を発表し、結束の強さを示した。しかし日本は、この問題で強い懸念を表明するも、制裁措置には加わらなかった(コラム「人権問題での中国包囲網で欧米と日本に温度差」、2021年3月25日)。

中国ウイグル人権問題への批判が共同声明に盛り込まれるか

バイデン政権は、この日本の対応を不満に思っているだろう。他方で、同じ人権問題である北朝鮮の拉致問題ではバイデン政権に強く協力を求める日本の姿勢を、矛盾していると指摘する可能性もあるのではないか。

日本政府は、引き続きウイグル人権問題での対中制裁措置に慎重な姿勢であると見られるが、バイデン政権はそれを容認することと言わば交換で、日米首脳会談後の共同声明文に、ウイグル人権問題での強い対中批判の文言を盛り込むことを、日本側に要求してくる可能性がある。日本政府は、その要求を拒むことはできないだろう。

3月16日の日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表では、両国は中国の海洋進出を強く批判した。これに対して中国は、日本を米国の「戦略的属国」と、異例の批判で返したのである。日米首脳会談後の声明文に、ウイグル人権問題での対中批判が盛り込まれれば、中国は日本に対する批判を一層強めることは避けられない。

中国が対日貿易規制を打ち出す可能性が日本経済、金融市場のリスクに

経済及び金融市場の観点からは、こうした中国の反発が、日中間の経済関係に悪影響を与えるかどうかが大いに注目されるところだ。関係が悪化した豪州に対して、中国は昨年11月に、石炭、大麦、銅、砂糖、木材、ワイン、ロブスター、石炭、木材など幅広い品目で、輸入の差し止めを実施している。日本に対しても、同様に輸入規制を講じる可能性はあるのではないか。

また中国は昨年12月に、ハイテク関連製品の輸出規制法を施行した。これは、米国が中国企業に対して打ち出した禁輸措置に対抗したものだが、それを対日輸出製品に適用する可能性はないだろうか。それは、中国で生産し日本に逆輸入する日本企業にとっても脅威である。世界的に供給不足が深刻な半導体メーカーは、そうしたリスクを既に警戒している。

さらに、日本は、電気自動車や家電などの生産に欠かせない希少な資源、レアアースのおよそ6割を中国からの輸入に依存している。これが中国の輸出規制の対象となれば、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の生産に大きな打撃となる。電気自動車(EV)など向けの永久磁石モーター、リチウムイオン電池、LEDやレーザーなどの発光材料、水素吸蔵合金、研磨剤、MRI造影剤、医薬品やゴムの合成触媒など、ハイテク製品の製造にはレアアースが欠かせない。その調達に支障が生じれば、自動車、ハイテク分野を中心に、日本企業の生産活動にも悪影響は避けられない。

日本政府は、中国の海洋進出など安全保障面においては、バイデン政権が同盟国と連携して中国に対して強い姿勢で臨むことは大いに歓迎する一方、人権問題などその他の分野では、日中の経済関係に配慮して、中国を過度には刺激したくないとの考えがあるだろう。日本は価値の共有という理念的なものよりも実利により関心があり、この点で日米の足並みは必ずしも揃っていないだろう。

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