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SPAC(特別買収目的会社)ブームは続いているが

2021/04/22

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グラブがSPACとの合併を通じて米国市場に上場

シンガポールに本拠を置く配車大手グラブは、数か月のうちに米国のナスダック市場に上場する、と発表した。2012年に創業したグラブは、配車サービスからビジネスを始めたが、その後は金融分野へとサービスを広げ、様々なサービスを1つのアプリ上で行う「スーパーアプリ」の地位を築き上げた。米国の配車大手ウーバーと中国でデジタル決済アプリ「アリペイ」を提供するアント・グループとを合わせたような企業だ。

そのグラブが上場に用いる手法が、SPAC(特別買収目的会社)との合併である。米投資会社アルティメーター・キャピタルのSPACと合併することで、上場を果たす。SPACは、上場時に株式市場から資金を調達して原則2年以内に未上場企業を買収・合併することを目的とした会社である。SPACは「ブランクチェック(白紙小切手)」企業、あるいか「空箱」とも呼ばれている。

他方、SPACに合併された未上場企業は、通常の上場よりも簡単な手続きで早く上場を果たすことができる(コラム、SPAC(特別買収目的会社)ブームは株式バブルの象徴か」、2021年3月19日)。グラブのSPACとの合併に際しては、米資産運用大手のブラックロック、フィデリティ・インターナショナル、シンガポールの政府系ファンド、テマセク・ホールディングスなどの有力投資家が資金を拠出するという。

米大手銀行の2021年1-3月期決算では、融資を中心とした商業銀行業務は低調だった一方、売買仲介や株式の引き受けなど投資銀行業務が堅調で、各行とも大幅増益を達成した。株式引受業務では、SPACの上場ブームが追い風となったのである。

株式市場の信頼性や安定性に悪影響はないか

SPACとの合併を通じた上場手法によって、新興企業の上場のハードルがかなり下がり、成長に向けた資金調達が助けられている。他方で、実質的に緩い基準で上場できることが、株式市場の信頼性や安定性に悪影響を与える可能性もある。グラブの例はこれに当たらないだろうが、環境分野の新興企業などには、そうしたケースが少なくないようだ。

例えば、高級EV(電気自動車)の新興メーカー、米ファラデー・フューチャー社は、製品開発の遅れから破綻した。しかし今年1月には、SPACのプロパティー・ソリューションズ・アクイジションと合併することで合意し、10億ドル以上の資金調達を目指すと発表したのである。一度ビジネスに失敗し、また車をまだ1台も販売していないEV製造の新興企業が上場を果たすことになる。

過去の実績よりも、世界的な気候変動問題の高まりや温室効果ガス排出量削減の流れの中、EV市場は成長分野、と漠然と考える素人の個人投資家によって上場が支えられている面がある。SPACとの合併による上場は、通常の上場よりも簡単な手続きで迅速に実現できるが、それにとどまらず、従来型IPOよりも高い価格がつき、多額の資金を調達できるようになりやすいのである。

素人個人投資家の影響力が大きい

合併計画さえないSPACが上場する際に高値が付くのは、顧問などとして著名アスリートらが名を連ねていることに素人の個人投資家が目を奪われているから、という面も多分にある。実績よりも明確な根拠を持たない印象の方が、投資判断により影響を与えているのである(コラム「SPAC(特別買収目的会社)ブームは株式バブルの象徴か」、2021年3月19日)。

同様に、SPACとの合併を通じた企業の上場についても、素人の個人投資家の印象のようなもので、その成否が決まっている面があるのではないか。その結果、上場企業の質が低下してしまっているという問題もあるだろう。実際、SPACを通じて上場したEV企業の中には挫折に見舞われる例が相次いでいる。

こうしたSPACの問題点は、金融当局にも認識され始めている。SEC(米証券取引委員会)は、SPACの公表した業績見通しに虚偽があった場合、当局の摘発対象になると強調している。また、株主に付与されるワラント(新株予約権)の会計基準を見直すと明かしている。これらは、SECがSPACへの規制強化に本格的に乗り出してきたことを意味するのだろう。

今年1月と2月に上場したSPACはその後に平均5%値上がりしているが、3月に上場したSPACはIPO価格近辺にとどまっているという。投資家の目も、少し冷静さを取り戻しつつあるのかもしれない。SPACブームは、ピークを越えつつある可能性もあるだろう。

(参考資料)
"Sports Stars Think They Got Game in SPAC Arena", Wall Street Journal, April 6, 2021
"For EV Startup Faraday Future, the Road Back From the Brink Runs Through a SPAC", Wall Street Journal, April 14, 2021
「グラブ、過去最大のSPAC上場へ。」、日経MJ(流通新聞)、2021年4月16日
「グラブ上場が意味するもの」、日本経済新聞、2021年4月19日
「ゴールドマン最高益、SPACブーム追い風 1~3月期」、日本経済新聞電子版、2021年4月15日

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