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日銀の物価目標達成を目指す姿勢は建前

2021/04/27

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経済の実勢から乖離した物価目標を維持することが問題

4月26・27日に、日本銀行は金融政策決定会合を開いた。前回3月の会合で日本銀行は「金融緩和の点検」を行い、それを踏まえて「より効果的で持続的な金融緩和」と題する措置を講じていた。そのため今回の会合では、政策変更・修正を見込む向きは皆無であった。実際に、その通りとなっている。

今回の会合で、一つの注目点となったのは、展望レポートで新規に公表される2023年度の物価見通しである。2023年度は黒田総裁の任期が終わる年だ。2023年度の消費者物価(除く生鮮食品)で、大勢見通しの中央値は+1.0%となった。日本銀行が掲げる2%の物価目標には遠く及ばず、「黒田総裁の任期10年のうちに目標は達成しない」との見通しを日本銀行が事実上示したことになる。

物価は様々な要因によって決まるが、中長期では経済の潜在力によって決まる部分が大きい、と筆者は考えている。1980年代初頭以降の長期のデータから推計された消費者物価上昇率と潜在成長率の関係は、以下の回帰式で示される。

消費者物価上昇率=0.7206×潜在成長率-0.6553

日本銀行の推計によると、潜在成長率は現在ゼロ近傍であり、そのもとでの消費者物価上昇率の均衡値は-0.66%となる。コロナショック後に物価上昇率は小幅にマイナスとなっているが、これは、経済の潜在力に概ね見合った水準である、と考えることができる。そのため、金融政策を通じて物価上昇率を無理に引き上げることを目指すべきではないし、またそれは可能ではない。

重要なのは、経済の潜在力を高める政府の構造改革や民間企業、労働者の努力である。金融政策を通じて、潜在成長率を高めることはできない。人々が感じる経済の閉塞感は、労働生産性上昇率や潜在成長率の低迷に起因するものであり、物価上昇率の小幅な低下によるものではない。

黒田体制の下で日本銀行が2%の物価目標を10年かけても達成できないことが問題なのではなく、経済の実勢から乖離した達成不可能な物価目標を長く維持していることが問題なのである。それが金融政策を歪め、経済、金融の安定を損ねている。

今後も進む破綻回避のための副作用対策

日本銀行は2%の物価目標を対外的には維持しているが、実際には、それを最優先で目指している訳ではもはやない。その達成はほぼ不可能であり、また達成を目指すことは妥当でない、と日本銀行は考えているだろう。

しかし、それを修正することが難しいから維持している、やめたくてもやめられないのである。修正すれば、デフレ脱却を掲げる政府から強い批判を浴び、また金融市場が過剰に反応して、急速な円高などが進むことを日本銀行は恐れている。また、一度掲げた目標を修正、撤回することによるレピュテーションの低下も恐れているのだろう。

日本銀行の実質的な政策目標は、もはや2%の物価目標を達成することではなく、異例の金融緩和を続けながらも、それらの政策が金融市場、金融機関、経済、日本銀行の財務に致命的な打撃を与えること、破綻を生じさせることがないように、リスクを軽減するという点に移っている。それには、副作用対策を継続的に行うことが必要だ。

以前は、国債の買い入れ額を抑制することで、国債の流動性、国債市場の安定性を維持しつつ、買入れを持続できるようにする点に、副作用対策の主眼が置かれていた。その後、副作用対策の中心は、日本銀行の財務に将来、大きな打撃を与え得るETFの買い入れ額の抑制と、金融機関の収益を支援することを通じて、金融仲介機能、金融システムの安定を維持することに、移っている。3月の金融緩和の点検で、ETFの買い入れ目標を撤廃したことや、貸出促進付利制度を導入したことは、これを示している。

また、金融機関の利鞘を確保する観点から、日本銀行は今後、長短金利差の拡大を容認する姿勢をより強めていくのではないか。

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