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中銀デジタル通貨(CBDC)は民間との協業がグローバル・スタンダードに

2021/05/13

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当局が警戒する民間デジタル通貨とそうでない通貨

各国が中銀デジタル通貨の発行を検討し始める大きなきっかけとなったのが、新たな民間デジタル通貨に対抗する、という観点だった。以前は仮想通貨(暗号資産)ビットコインがそうであったし、近年ではフェイスブックが主導するリブラ(現ディエム)がそうだ。

そうした民間デジタル通貨が、国境を越えてマネーロンダリング(資金洗浄)等の犯罪に広く利用され、また銀行預金からの資金移転を通じて金融システムの安定を損ね、あるいは金融政策の効果を低下させるなど中央銀行の業務に支障を生じさせることを、中央銀行など金融当局は強く警戒したのである。

そこで、より使い勝手が良く、信頼性が高い法定通貨の中銀デジタル通貨を自ら発行することで、そうした様々な問題を生じさせる新たな民間デジタル通貨を迎え撃ち、潰すことを狙ったのだ。

しかしながら、当局はすべての民間デジタル通貨を警戒している訳ではない点は理解しておく必要がある。我々が日常で使っているスマートフォン決済(QRコード、バーコード)、ICカード等は、当局の強い警戒の対象とはなっていない。それらの民間デジタル通貨は、法定通貨建て(日本であれば円建て)での価値を民間運営会社が約束するもので、基本的には国内での利用に限られる。そのため、金融当局が警戒するような、国境を越えたマネーロンダリング(資金洗浄)等の犯罪に広く利用されることを、強く心配する必要はない。また、こうした民間デジタル通貨は、銀行預金から大量の資金流出を生じさせて、金融システムを不安定化させる可能性も低い。さらに、法定通貨建てであることから、金融政策の効果を低下させることも心配する必要もない。

こうした民間デジタル通貨は、既存の銀行システムと融和し、それを一部補完することで、ユーザの利便性を高めているのである。

金融当局がそうした民間デジタル通貨で唯一警戒する点があるとすれば、それは、民間デジタル通貨の運営会社が経営不振に陥った場合に、ユーザーがチャージしたデジタル通貨が現金化できなくなるのではないか、あるいは価値を失ってしまうのではないかなど、ユーザーの間に不安が高まり、その結果、円滑な支払いが妨げられてしまうことだろう。

協業を意味する「二重構造」がスタンダードに

現在、中銀デジタル通貨の発行を検討している各国の中央銀行は、いずれも、こうした既存の民間決済サービス業者と敵対するのではなく、協調、連携する形での運用を考えている。

中国の場合には、デジタル人民元の発行を通じてアリペイ、ウィーチャットペイの決済サービスの影響力を削ぐ狙いがあると思われ、やや例外と言えるかもしれない。それでも、少なくともデジタル人民元の発行時点では、民間銀行のアプリと同様に、アリペイ、ウィーチャットペイのアプリ上でデジタル人民元を利用できるようにする。つまり、中国でも、中銀デジタル通貨は民間との協業が図られるのである。

既存の民間決済サービス業者と緊密に連携し、またそれを補完する形で中銀デジタル通貨を発行するという姿勢が特に顕著なのは、日本銀行ではないか。

そもそも、決済業務は今でも公的な要素と民間の要素が入り混じって成り立っている不思議な世界だ。日本で言えば、銀行間の資金決済は全国銀行協会(全銀協)の全国銀行データ通信システム(全銀システム)を通じて行われるが、銀行間での最終的な決済や大口の銀行間決済は、日本銀行の決済システムである日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)を通じて行われている。

中銀デジタル通貨の発行を既に決めている、あるいは発行を検討している主要国の中央銀行、具体的には中国人民銀行、欧州中央銀行(ECB)などと同様に、日本銀行も、「中銀デジタル通貨を発行する場合には、中央銀行と民間部門による決済システムの『二重構造』を維持することが適当だ」、と結論付けている。

この二重構造とは、間接方式とも呼ばれ、企業や個人がそれぞれに中央銀行に中銀デジタル通貨の口座を持ち、その口座を使って中銀デジタル通貨を支払い、送金を行うという直接方式ではなく、彼らは民間の銀行口座から中銀デジタル通貨を引き出し、中銀デジタル通貨口座にチャージする、というものだ。

これは、現在の現金の利用と同じ構造と言えるだろう。個人は、中央銀行から直接現金を入手するのではなく、ATMを使って民間銀行の預金口座から日本銀行券を入手し、それを買物での支払いや個人間の割り勘などに使うのである。

中央銀行が中銀デジタル通貨の末端での利用までひとりで管理するのでは、その負担は膨大なものになってしまう。さらに、中銀デジタル通貨の発行だけでなく、管理、運用を中央銀行のみで行えば、すべての取り引き情報を中央銀行が独占することになり、それに対する社会的な抵抗もかなり強くなるだろう。また、中央銀行自身も、大量の個人データを管理するのは荷が重いことだ。個人データを漏えいすれば、国民からの信用を一気に失ってしまうのである。

そこで、中銀デジタル通貨の発行は、少なくとも主要国では二重構造、間接方式がスタンダードとなるはずだ。その場合、中銀デジタル通貨の発行は、民間銀行やスマートフォン決済など民間デジタル通貨の運営業者らと競合するのではなく、協業する形となるのである。

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