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緊急事態宣言の対象拡大は全国ベースも視野に

2021/05/14

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緊急事態宣言の対象に北海道、広島、岡山の3道県が追加

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は14日夕刻に感染症対策本部会合を官邸で開き、北海道、広島、岡山の3道県を緊急事態宣言対象に追加することを決める。期間は、5月16日から31日までの16日間だ。

前日までは、政府は広島、岡山をまん延防止措置対象に追加する方針であり、一方、北海道から出されていた緊急事態宣言発令の要請を受け入れない方針であったが、急遽方針を転換した形である。

3回目の緊急事態宣言は、4月25日に東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で始まり、5月12日に愛知、福岡の2県が加わったばかりだ。しかし、発令から既に3週間近くが経過した現時点においても、東京、大阪など大都市部の新規感染者数に明確な減少傾向が見られない一方、深刻な医療ひっ迫状態が続いている。むしろ、新規感染者数は大都市圏から周辺へと、拡大傾向をより強めてきているのが現状だろう。

経済損失は新たに1,440億円、合計で1兆9,040億円

6都府県で5月31日まで続く緊急事態宣言による経済損失額(個人消費減少額)の試算値は、1兆7,600億円である(コラム「予想通りの緊急事態宣言延長と経済損失」、2021年5月7日)。

一方、北海道、広島、岡山の3道県での16日間の緊急事態宣言発出による経済損失額は、1,440億円と試算される。両者を合計すると、経済損失額は1兆9,040億円となる。これは1年間の名目GDPの0.35%に相当し、失業者を7.54万人増加させる(半年から1年程度)計算だ(図表1)。

ちなみにここでの経済損失とは、緊急事態宣言による個人消費の減少額を推定したものだ。昨年の1回目の緊急事態宣言での個人消費減少の実績推計値が、計算のベースとなっている。

減少の中心となるのは飲食、旅行関連、アミューズメント関連など対人接触型サービスである。それらは、貿易財ではないことから、貿易などへの波及効果は大きくないとみなし、個人消費の減少額で経済損失全体を推定するのが妥当と判断した。他方、消費財については、休業・時短要請の対象となる百貨店での購入が小規模店舗での購入やネット購入に振り替わること等によって、サービス消費と比べると全体の影響は比較的小さいと考えられる。

合計で1兆9,040億円の経済損失によって、4-6月期の実質GDP成長率は年率換算で5%強押し下げられる計算となる。宣言の愛知、福岡への対象拡大が決定された時点では、4-6月期の実質GDP成長率は、前期比でほぼゼロ成長と考えられた(コラム「予想通りの緊急事態宣言延長と経済損失」、2021年5月7日)。

しかし、今回の対象区域のさらなる拡大と、まん延防止等重点措置の適用対象の拡大の影響を踏まえると、4-6月期の実質GDP成長率は、1-3月期に続いて小幅なマイナス成長となる可能性が高まった、と判断される。3回目の緊急事態宣言によって、国内景気は異例の「三番底」に陥るのである。

(図表1)緊急事態宣言拡大による経済損失の試算

緊急事態宣言が全国ベースに拡大することも視野に

3回目の緊急事態宣言では、今回、対象区域は再々拡大されるが、感染拡大が全国レベルになってきたのに対して、後追いの対応となっている感は否めない。緊急事態宣言の対象区域で百貨店、大型商業施設、飲食店などが休業・時短を行えば、それが適用されない周辺地域に人が流れていくのは自然だ。現在の人流がなかなか減らない背景には、こうした規制逃れの人々の行動があるだろう。そうした抜け穴を防ぐためには、緊急事態宣言を全国ベースで発出し、すべての地域で同等の規制措置を導入することが有効となる。

ちなみに昨年の1回目の緊急事態宣言では、2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に緊急事態宣言が発出され、そのわずか11日後の4月16日には対象は全国に拡大された。今回も、新規感染者が全国ベースで顕著に拡大する中、やや遅きに失した感はあるが、緊急事態宣言の対象区域が全国に広げられる可能性は十分に出てきたのではないか。

そこで、9都道府県での宣言が5月31日まで続いた後に、全国を対象とする宣言がさらに3週間続けられるケースを想定してみよう。5月31日までの宣言の効果との合計でみると、経済損失額(個人消費減少額)は、4兆6,630億円と推定される。これは1年間の名目GDPの0.85%に相当し、失業者数を18.5万人増加させる計算となる(図表2)。

経済損失額の推定値は、1回目の緊急事態宣言の6.4兆円、2回目の緊急事態宣言の6.3兆円よりは小さいものの、相当規模に達することになる。規制の強さやまん延防止等重点措置の影響も考慮に入れれば、2回目の緊急事態宣言の経済損失額を上回る可能性もあるのではないか。

この場合、4-6月期の実質GDP成長率は年率で2桁となる可能性が出てくる。日本経済は、より深い景気の「三番底」に陥るのである。

(図表2)緊急事態宣言・全国拡大ケースの経済損失試算

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