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暗号資産(仮想通貨)ビットコイン急落とコロナ相場の終焉

2021/05/21

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ビットコイン相場が一日で30%もの急落

暗号資産(仮想通貨)のビットコイン相場が、足もとで乱高下を続けている。19日には一時、前日比30%もの急落を見せた。

急落の引き金となったのは、中国の規制当局が、金融機関に対して仮想通貨に対するサービスを提供することを禁じる、との通告をしたことだ。しかし、中国では仮想通貨の利用を禁じる法律が既に成立しており、市場にとって全くのサプライズではなかったはずだ。

また、今年2月にビットコイン相場を大きく押し上げるきっかけとなったのは、米電気自動車(EV)メーカーのテスラが、総額15億ドルのビットコインへの投資を公表し、また、ビットコインを同社のEVの代金としても受け入れる予定があるとしたことだった(コラム「テスラのビットコイン保有で市場の投機色は強まるか」、2021年2月10日)。この出来事は、ビットコインの価値がテスラの価値と連動し、また米国株式市場全体とも連動する、つまりビットコインが初めて伝統的なアセットクラスと連動する流れを作ったと言えるだろう。

ところが5月に入ってテスラのマスクCEO(最高経営責任者)は、ビットコインを生み出す「マイニング(採掘)」と呼ぶ計算作業が膨大な電力消費を伴うこと、つまり環境負荷への懸念から、ビットコインを同社のEVの代金としても受け入れる方針を撤回した。これも、ビットコイン下落の原因となっている。

ボラティリティの高さは価値の不明確さが原因

しかしこれらはビットコイン相場下落の引き金に過ぎない。ビットコイン相場のボラティリティの高さの底流にあるのは、ビットコインの価値がそもそも不明確であることだ。

株式や債券のようにキャッシュフローを生まない。その点では、コモディティに近いが、金のように宝飾用、工業用に利用される明確な価値もない。ビットコインの唯一の価値は、現在の銀行送金などと比べてより安価な送金を可能にすることだが、実際にはその法定通貨に対する価格変動の激しさなどが制約となり、支払い手段としてはほぼ使われていない。

ちなみに、ビットコインが支払い手段として利用される場合には、既存の銀行送金と同額の手数料となるビットコインの価値が、理論値となる。これは筆者の試算によると40万円程度である。現在、ビットコインは4万ドル程度の水準で推移していることから、急落後もなお理論値と比べて10倍程度も高い水準にあることになる。この点から、下落リスクはまだ相当大きいとも言えるのではないか。

個人投資家がビットコイン相場に大きく影響

もちろん、ビットコインが支払い手段として利用されない現状では、こうした理論値も大まかな目途でしかない。ビットコインを支えるブロックチェーンという分散型元帳技術は利用価値の高いものだが、ビットコインだけでは価値が不明確だ。そうした資産は、いわゆる価格発見機能が低く、何らかのショックで価格のボラティリティがひとたび高まると、それを収束させるメカニズムが働きにくい。

また、ビットコインは個人投資家の影響力を大きく受ける傾向がある。年初にみられた米国株の一部銘柄での価格乱高下を主導したのは、ロビンフッダーら個人投資家であった(コラム「ロビンフッダーの次の標的はビットコインか」、2021年2月18日)。

ロビンフッダーは、ヘッジファンドなど機関投資家の権威に反発して、株式市場の民主化運動を自認してきた。ビットコインも、通貨を中央銀行の管理から解き放つ、とのコンセプトで生み出されたものだ。共に権威への抵抗という点で共通している。ロビンフッダーの本格参戦で、ビットコインの価格は2月以降、さらに押し上げられた可能性が考えられる。

株式市場でのコロナ相場の終焉でビットコイン相場はより厳しい調整も

ところで、足元では米国の株式市場にも頭打ち感が広がり、その影響で日本株も総じて軟調な推移となっている。コロナ禍で米国経済が低迷する中で、昨年来米国株は上昇し、それが世界の株式市場をけん引してきた。いわゆる「コロナ相場」だ。逆説的ではあるが、コロナ禍が米国株式の追い風になってきた面があるのだ。その一つの要因は、巣ごもり傾向が強まる中、若年層を中心に株式投資に傾倒する素人個人投資家が急増したことだ。ロビンフッダーがその代表例である。彼らは、オプション取引も含めたリスクの高い株式投資を行った。そして、ビットコイン投資も積極的に行ってきたのである。

しかし、米国でワクチン接種の拡大で経済活動、社会活動が正常化すると、巣ごもり傾向が弱まり、素人個人投資家らが在宅での投資活動に割く時間が短くなると予想される。コロナ禍が緩和され、経済の回復がより明確になる中、こうした株式市場の追い風は逆回転を始めるだろう(コラム「コロナ禍と株式市場との複雑な関係」、2021年5月12日)。

こうした要因が、コロナ相場を終焉に導きつつあるのが現状ではないか。それはビットコインについても同様である。そして、株式以上に以前より過熱感が強く、また価値が明確でないために価格発見機能が低く、ボラティリティが高いのがビットコインだ。

そのため、コロナ相場の終焉局面では、ビットコイン相場が株式以上に大きな調整を見せることは、自然なことではないか。

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