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悪い物価上昇が消費マインドを一段と冷やすか

2021/06/03

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6月に相次ぐ値上げの動き

3回目の緊急事態宣言が長期化し、個人は飲食、旅行、アミューズメント関連などの対人接触型サービスを中心に消費を抑制している。そうした中、家計の消費活動を一段と慎重にさせることが懸念されるのが、「悪い物価上昇」である。

6月には、家計を打撃する幾つかの値上げが行われる。一つは、電気・ガス料金の引き上げだ。背景には、輸入原油価格の上昇がある。

例えば東京地域では、一般的な電力使用量の家庭の場合、東京電力の6月の電気料金は91円引き上げられ1か月で平均6,913円となる。東京ガスは35円引き上げられて1か月で平均4,697円となる。東京を例にとれば、電力・ガス料金の双方の引き上げによって、平均的な世帯では月126円の負担増加となる。

また、日清オイリオグループ・J-オイルミルズ・昭和産業の大手3社は、6月1日の出荷分から食用油などを値上げした。原料となる大豆の価格上昇が背景にある。値上げ幅は1キロあたり30円以上だという。食用油消費量の世帯当たり年間平均は8,638グラム程度とされる。これは月間で720グラムであることから、これが6月にキロ当たり30円値上げとなると、月間では22円程度の値上げとなる計算だ。電力・ガス料金の値上げと食用油の値上げを合計すると148円となる。これは家計の1か月間の消費支出全体の0.05%程度だ。

値上げの背景にコロナショック

電気・ガス料金の値上げ、食用油の値上げの背景には、コロナショックによる世界経済の混乱がある。一時的な需要の落ち込みを受けて、様々な財・サービスの生産体制が縮小された後、需要が予想外に急回復したために、供給が追い付かずに価格が上昇している面がある。代表的なのは半導体だろう。また海運などの輸送コストについても同様だ。

さらに、電気・ガス料金値上げの背景にある原油価格の上昇や、食用油などの値上げの背景にある大豆の価格上昇の背景には、こうした需給のひっ迫だけではなく、金融的な要素もあるだろう。

コロナショックを受け、米国を中心に世界の中央銀行は大幅な金融緩和を実施した。そうした環境のもと、世界の投資家は金融資産だけでなく、商品への投資も積極化させた。これが、原油、大豆などの商品市況の上昇の一因である。このように、実需と金融の双方から、価格上昇の背景にはコロナショックがあると言える。

「悪い物価上昇」で日本の景気回復はさらに遅れるリスクも

ワクチン接種の進展から、米国や欧州諸国の一部では、経済が急速に回復している。そうした国々では、金融市場の反応は懸念材料であるものの、物価上昇は経済回復の結果として生じる「良い物価の上昇」とも言えるだろう。

ところが、ワクチン接種の遅れなどから経済の回復が遅れている日本では、それは生活を圧迫する「悪い物価上昇」だ。電力・ガス料金の引き上げと食用油などの値上げは、家計の1か月間の消費支出全体の0.05%程度であるから、それほど家計を圧迫する訳ではない。しかし、消費マインドへの影響は小さくないのではないか。

電力料金の引き上げは、6月で3か月連続である。燃料調整制度のもとで、6月分の電気・ガス料金の値上げは、2021年1~3月に輸入した燃料価格の上昇分を遅れて反映したものだ。原油価格は足もとでも上昇傾向にあることから、向こう何か月にわたって、電気・ガス料金は上昇を続ける可能性がある。

他方で、所得環境は厳しい。今年の春闘の賃上げ率は前年比1.8%と、2013年以来の低水準だった。その大部分は定期昇給分であり、ベアは非常にわずかにとどまったのである。また夏のボーナスは3%以上のマイナスとなり、昨年冬のボーナスに続いて大幅下落が予想されている。

所得環境が厳しいなか、生活費が上昇を続けるとの見方が広がると、家計はもう一段防衛的になりやすい。家計が消費を抑制する傾向を強めれば、現在緊急事態宣言のもとで抑制されている飲食、旅行、アミューズメント関連などの不要不急で選択的消費がさらに抑制されよう。それは、関連する事業者に一段の打撃ともなる。

このように、景気回復が遅れる日本では、家計が「悪い物価上昇」に見舞われ、それが景気の回復をさらに遅らせる可能性を高めている。その結果、景気回復で先行する米国などとの経済環境の差は、一段と開くことになるだろう。

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