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G7財務相会議からG7サミットへ

2021/06/04

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最低法人税率の設定で合意の方向

G7(先進7か国)財務相会合が、6月4・5日にロンドンで開かれる。財務相による対面形式での国際会議は、約1年3か月ぶりとなる。そこでの最大の注目点は、国際課税ルールと最低法人税率の設定で合意が成立するかどうかだ。

国境を越えて活動する巨大IT企業などの税逃れを防ぐ新たな国際課税ルールについて、欧州諸国と米国政権との間では長らく対立が続いてきた。しかし、バイデン政権の成立を契機に、合意に向けた機運が高まっている。

これに関連して、米バイデン政権は、法人税の国際最低税率導入を提案した。巨大IT企業が、法人税率が低いタックスヘイブンの国に本社などを誘致することで、税逃れをすることへの対応だ。

さらに、各国間では法人税率の引き下げ競争が続いてきたが、これが税収基盤を損ねてきた面がある。コロナショックへの対応で各国は財政環境が急速に悪化したため、この議論は、法人税率の引き上げを通じた財政健全化に道を開くものでもある。既に、G7の中では米国と英国が法人税率を引き上げる方針だ。

この提案に対して、小国のタックスヘイブンの国々では税収減につながる、あるいは企業の海外流出につながるとして反発の声が上がっている。また、英国も難色を示していた。 しかし、米国が当初の提案である21%程度の最低水準を15%程度まで引き下げたことで、G7内では合意に向けた機運が高まっている。今回のG7財務相会合でほぼ合意に達するのではないか。

G7財務相会合では、それ以外にも、新興国経済に打撃となっている価格上昇の問題、新型コロナワクチンの途上国支援、地球温暖化対策などが議題となる。そしてそれらは、6月11日から13日まで英国南西部のコーンウォールで開催される、G7サミット(首脳会議)へと引き継がれる。

G7での中国封じ込めと一段と形骸化が進むG20

G7サミットでは、コロナ対策での途上国支援、地球温暖化対策、対中国戦略の3つが主要テーマとなる。他方で、日本政府が非常に強い関心を抱いているのは、東京五輪への支持が共同声明に盛り込まれるかどうかだ。政府にとっては、国民の間で意見が分かれている東京五輪の開催について、G7の後押しが是非とも欲しいところだ。実際、日本政府の働きかけを受けて、東京五輪の開催支持がG7サミットの共同声明に盛り込まれる見込みである。

コロナ対策での途上国支援について日本政府は、国内向けに確保したワクチンのうち約3,000万回分を途上国支援の国際枠組み・COVAXなどを通じて途上国に提供することを決めている。またCOVAXへの8億ドルの追加拠出(現状2億ドル)も正式に打ち出している。これらは、G7サミットで改めて説明されるだろう。

また日本は、台湾へのワクチン供与も決めている。これらは、国際協力の観点だけでなく、中国がワクチン外交で新興国・途上国に影響力を拡大させていることへの対抗措置でもある。G7は、中国のワクチン外交への対抗から、ワクチンでの途上国支援で今回強い結束を見せるだろう。

今後のG7サミットは、米国のリーダーシップの下で、対中戦略、中国封じ込め策を議論する場、という性格を強めていくのではないか。対中戦略では、中国のワクチン外交への対抗策以外にも、半導体などのサプライチェーンで先進国が結束し、中国経済との間でデカップリングを進める方針も確認されるのではないか。安全保障面では、5月のG7外相会合の声明に明記された「台湾海峡の平和と安定」が改めて確認される可能性がある。

このようにG7サミットあるいはそれ以外のG7閣僚会議などが、反中国で結束していく場合、このG7での議題と、中国も参加するG20での議題との間の乖離がさらに広がっていくことが避けられない。その結果、先進国だけではなく新興国も含めた多くの国々で地球規模の課題に対応しよう、というG20の当初の理念は一段と形骸化していくことになるだろう。

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